表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/68

第41話 古代遺跡アルカディアの眠る場所

 夜明け前、霧が街を包む。

 自由都市アルカディアの西端――そこに広がるのは、誰も近づかぬ禁域《アルカディア遺跡》。

 千年以上前に滅んだ魔導文明の残骸。無数の魔法陣と浮遊石が宙に漂い、時間が止まったかのように静寂を保っている。


 翼たちは昨夜の戦いで魔獣群を退けたあと、短い休息を取っていた。

 焚き火の火が小さく揺れ、リリアは剣を研ぎながらぼやく。


 「ねぇ、リーダー。あの黒衣のやつ、昨日の戦いの途中で消えたでしょ? 絶対何か裏があるって」

 「同感ね」

 セリアが頷く。

 「彼の動き……まるで私たちの行動を“測っていた”みたいだったわ。襲う気配もなく、ただ観察していた」

 翼は少し考え込み、やがて焚き火に小枝を放り込んだ。


 「“監視者”の可能性が高いな。誰かの命令で動いてる。もしかすると、俺たちが手に入れようとしてる《古代魔導書》そのものが目的かもしれない」


 風が一瞬止まり、焚き火の炎が小さく揺れた。

 沈黙の中、遠くからフクロウの鳴き声。

 やがて翼が立ち上がる。


 「……考えても仕方ない。行こう。今日は遺跡の奥に入る」


 朝日が差し込み、三人は霧を割って進み始めた。


 ◇


 遺跡の入口は、岩山の裂け目のように口を開いていた。

 中は青白く輝く魔法陣が埋め込まれており、天井からは古代文字が刻まれた浮遊石がゆっくりと回転している。

 空気は冷たく、かすかに鉄のような匂い――いや、魔力の匂いが漂っていた。


 「……こりゃまた、すごい光景だな」

 リリアが呆然と天井を見上げる。

 セリアは眉をひそめて言った。

 「気をつけて。魔力の流れが不安定。何かの拍子で暴発するわ」


 翼は手を翳し、回復術の光を周囲に散らす。

 その光に反応するように、壁の古代文字が一瞬だけ輝いた。


 《光を継ぐ者に、封印を解く資格を与える》


 「……なんだこれ。まるで俺たちを待ってたみたいな文だな」

 「“光を継ぐ者”……それ、あんたのことかもね」

 セリアが茶化すように笑うが、どこか本気の声色でもあった。


 遺跡内部は、三層構造になっていた。

 第一層は機械仕掛けの罠が張り巡らされ、第二層には過去の探索者たちが放置した遺品が散らばる。

 そして第三層――そこに、封印の魔法陣が存在する。


 翼たちは慎重に進む。

 床の罠をリリアが素早く解除し、セリアは魔法で結界を張りながら進行方向を確保する。翼は後方から光の糸を編み、周囲の魔力を読み取っていた。


 「……やっぱり、古代魔導書の反応がある。下層から、微弱な波動が上がってきてる」

 「じゃあ、間違いなくここが本命ね」


 進むごとに空気が重くなる。まるで“過去そのもの”が三人の体を押し潰すような圧を持っていた。

 石造りの廊下に描かれた魔法陣が光を帯び、床が一瞬沈む。


 「来るぞ!」

 翼が叫んだ瞬間、床下から黒い魔力が噴き上がる。

 影のような魔獣――いや、魔導機兵だった。金属の体、光る眼。


 「魔導兵器!? こんな深層で動いてるなんて!」

 セリアの声が響く。

 「リリア、右を頼む! 俺は左の群れを抑える!」


 翼の杖が光を放ち、魔法陣が展開する。

 ――《光陣・癒守の輪》!

 広範囲の回復と防御が同時に発動し、仲間を包み込む。


 リリアは剣を構え、まるで舞うように突き進む。

 「どっからでも来なさいっての!」

 鋼鉄の音が響く。斬撃が金属を弾き、火花が散る。


 セリアは詠唱を短縮し、連続魔法を放つ。

 「《雷槍》《氷壁》《光束》!」

 複数属性の魔法が次々に放たれ、魔導機兵の装甲を破壊する。


 翼は魔力の流れを読み、手早く仲間に支援をかけ直す。

 「セリア、出力落ちてる! リリア、左側の囲みを避けろ!」

 「了解!」

 「任せて!」


 戦闘は熾烈だったが、連携は完璧だった。

 三人の動きは、まるで長年の呼吸を合わせた舞踏のよう。


 最後の一体をリリアが突き刺し、機兵が火花を散らして崩れ落ちる。

 静寂が戻る。


 「ふぅ……相変わらず容赦ないわね、ここの遺跡」

 セリアが汗を拭う。

 「でも、あの動き……人の意思を感じた」

 翼が呟く。

 「まるで、俺たちを試していたみたいだった」


 その時――遺跡の奥から、低い振動が響く。

 壁が動き、光の柱が立ち上がった。


 リリアが目を見開く。

 「な、何これ……!」


 光の中に、青白い球体が浮かんでいた。

 中心には、翼が探し求めていた“古代魔導書”が封印されている。


 だが、その瞬間。

 背後から聞こえる足音。


 「――お見事だ、天城翼」


 あの黒衣の男が現れた。

 フードの下の口元が、静かに笑っている。


 「君がここまで辿り着くとは思わなかったよ。やはり“選ばれし回復術師”は本物だ」

 翼が杖を構える。

 「何者だ。誰の命令で動いている」

 「……命令? 違うよ。私は“記録者”。

 この遺跡を、そして君の力を観測する者だ」


 黒衣の男は一歩前に出て、青白い封印の光を指先でなぞる。

 「この魔導書には、君の過去と未来を分ける鍵がある。

 だが、それを手に入れれば――君は“人ではいられなくなる”」


 セリアが杖を構え、リリアが前に出る。

 「ふざけたこと言わないで! そんなの、信じるわけ――」

 「リリア!」翼の声が響く。


 次の瞬間、黒衣の男が指を鳴らす。

 遺跡全体が震え、魔法陣が一斉に輝く。

 光が三人を包み込み、空間が歪む。


 「翼ッ!!」

 リリアとセリアの叫びが響く中、

 翼の視界が真っ白に染まる。


 ――そして、闇の中で微かに聞こえた。


 『見せてやろう。お前が“癒した代償”の意味を――』


 その声を最後に、意識が途切れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ