第37話 地下迷宮と裏切りの予感
自由都市ヴァレクの朝は、昼間の光と喧騒で街の顔を一変させる。翼、セリア、リリアの三人は、前夜の夜市での事件を引きずりながらも、情報収集のため市内中心部へ向かっていた。
「昨夜の商会……普通の組織じゃないわね」
セリアは眉をひそめ、周囲を警戒しつつ歩く。
「裏市場を牛耳るだけでなく、古代遺跡や禁断の技術に手を出している……おそらく、自由都市の影の支配者よ」
リリアは地図を広げ、手元のメモに書き込む。
「となると、情報を集めるだけでも一筋縄ではいかないわね。迷宮や廃墟、地下に潜む連中を調べないと」
翼は杖を握りながら静かに頷く。
「情報は力だ。だが、無理に動けば仲間を危険に晒す。慎重に行こう」
三人は地下迷宮と呼ばれる旧市街の地下通路に足を踏み入れた。ここは古代魔導都市ヴァレクの遺構で、長い年月の間に崩れかけた迷路のようになっている。薄暗い空間に響く水滴の音と、石壁に反射する魔力の微かな光が、不安と緊張を一層増幅させた。
「……これ、本当に通れるの?」
リリアが声を潜める。
「通れる。だが、ここには罠や魔獣が潜んでいる。常に注意が必要だ」
翼は魔力感知で周囲の変化を探り、セリアとリリアに小さく合図を送る。
地下通路の奥へ進むにつれ、闇はさらに深まり、魔力の濃度も増す。翼の回復術スキルを展開し、仲間の体力を安定させながら進む。
「魔力の痕跡が強い……この奥に何かある」
翼は石壁に刻まれた古代文字を読み取り、魔力の流れを追う。すると、闇の奥から複数の影が現れた。
「……魔獣か?」
セリアが短剣を構える。
「いや、人型……でも異形だ!」
翼は冷静に指示する。
「まずは防御。リリアは正面、セリアは側面をカバー。僕は支援と回復に集中」
戦闘が始まる。魔獣は通常の動きではなく、異形の動きで攻撃してくる。しかし、翼の回復と支援魔法が仲間を補助し、リリアの剣が敵の攻撃を防ぎ、セリアの矢が正確に弱点を突く。
「翼、効率良すぎ! 回復しながら攻撃補助まで!」
リリアが驚きの声をあげる。
「不遇回復術師なんて言われたのに、完全に最前線だわ」
翼は軽く笑いながらも、戦況を見極める。
(油断は禁物……ここの魔力、通常の魔獣戦とは違う)
魔獣の動きに不自然な魔法干渉が混じっており、誰かが遠隔で戦闘に介入している可能性を察知する。
戦いの最中、リリアが叫ぶ。
「翼、後ろ!」
影のように現れた黒衣の人物が魔法陣を描く。封印魔法の兆候だ。翼は即座に魔力を集中し、仲間の力を最大限に引き上げる。
「セリア、封印阻止! リリア、敵の流れを切る!」
セリアは矢を正確に放ち、魔法陣の一部を削る。リリアは剣で魔力の流れを断ち切る。翼の支援魔法が全体に行き渡り、封印は寸前で破壊される。
戦闘後、翼は息を整えながら仲間に目を向ける。
「……全員無事だ」
リリアは剣を鞘に収め、微笑む。
「翼のおかげで、ここまで耐えられた」
セリアも笑顔を見せる。
「この街の闇は深いけど、仲間と一緒なら恐くない」
地下迷宮をさらに進むと、古代魔導書や秘薬、未知の装備品が散乱している広間に辿り着いた。翼は杖を差し伸べ、慎重に中身を確認する。魔導書には未知の回復魔法や補助魔法が記されており、翼は興奮を抑えながら内容を吟味する。
「この魔導書……古代魔法の応用で、回復術の効果を倍増させることができるかも」
翼がつぶやくと、リリアとセリアも目を輝かせる。
だが、背後で冷たい声が響いた。
「……翼殿、そろそろ見せてもらおうか、君の真価を」
黒衣の男が再び現れ、複数の傭兵を従えている。翼たちは防御姿勢を取る。
「今度こそ……徹底的にやるつもりか」
リリアが剣を握り直し、セリアも短剣を構える。
「ここで負けるわけにはいかない」
翼は杖を握り、魔力を集中。全体支援・回復・攻撃補助を一度に展開する。
地下迷宮内で激しい戦闘が繰り広げられる。魔獣と傭兵、黒衣の男の魔法が飛び交う中、翼たちは連携を駆使して立ち向かう。翼の回復術が仲間を支え、リリアの剣が敵の攻撃を断ち、セリアの矢が弱点を突く。
戦闘中、黒衣の男が翼の杖を狙った魔法を放つ。しかし、翼の瞬時の反応で防御魔法が展開され、魔法は跳ね返される。その反動で男は後方に倒れ込み、傭兵たちも混乱に陥った。翼はすかさず仲間に指示する。
「リリア、集中攻撃! セリアは後方の敵を抑えて!」
リリアが剣を振るい、セリアは正確に矢を射る。翼は回復術と補助魔法を連続で展開し、仲間の力を最大限に引き出す。
戦闘が終わった後、地下迷宮の奥には、魔導書と秘薬、そして黒衣の男の痕跡だけが残っていた。翼は息を整えながら仲間に微笑む。
「……この街の闇は深い。だが、僕たちなら乗り越えられる」
リリアとセリアも笑顔で頷き、三人は地下迷宮を後にした。夜空に浮かぶ自由都市ヴァレクの灯りが、彼らの決意を映し出す。街の裏側の闇は深く、未知の敵や危険が待っている。しかし、仲間と共に進む翼の冒険は、ますます加速していくのだった。




