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第36話 夜の市場と禁断の取引

 自由都市ヴァレクの夜は、昼間の賑わいとはまるで別の顔を見せる。街灯に照らされる石畳には影が濃く伸び、路地裏からは小さな声や物音が漏れ聞こえる。商人や冒険者だけでなく、闇に潜む者たちがそっと行き交うその世界では、昼の秩序など幻想に過ぎなかった。


 翼、セリア、リリアの三人は、先日の古代遺跡探索の報酬を受け取り、夜市を歩いていた。街は活気に満ちているが、同時に奇妙な緊張感が漂っている。香辛料や果物の香り、珍しい魔法材料の匂い、そして路地裏から漂う怪しげな薬品の匂いが混ざり合い、鼻腔を刺激した。


 「この市場……昼とは違う雰囲気ね」

 リリアが目を輝かせる。

 「昼間は観光客向けだけど、夜は裏の取引が活発なのね」

 セリアは鋭い視線で周囲を警戒する。

 「油断は禁物よ。自由都市では“見るだけ”も命取りになる」


 翼は杖を握りしめ、夜市の雑踏を注意深く観察する。

 (……昼よりも夜のほうが、ずっと危険な気がする)

 視線の端で路地裏の人影、背後から近づく気配、屋根の上に潜む影を感知する。翼の魔力感知は常に最大レベルに引き上げられていた。


 三人が魔法素材を扱う屋台の前で足を止めた瞬間、翼の背後から低く冷たい声が響く。

 「……翼殿、興味深い品を見つけたようだね」


 振り返ると、黒いローブを身にまとった人物が立っていた。フードで顔は影に覆われ、光を反射する鋭い瞳だけが異様に光っている。翼は杖を握り直し、セリアとリリアに視線で合図する。


 「また君か……一体何者だ?」

 黒衣の男は微かに笑みを浮かべる。

 「私は《夜の商会》の者。自由都市の裏市場を仕切る者だ。君の力は以前から注目していた」


 セリアは眉をひそめる。

 「裏市場の統治者……?」

 リリアも警戒を強める。

 「一体何を企んでいるのかしら」


 男はゆっくり手を広げ、背後に広がる闇を示す。

 「君に提案だ。ここで手に入る古代魔導書、禁断の秘薬、失われた技術の情報を我々と共有してみてはどうか?」

 翼は即座に首を振る。

 「興味はない。君たちのやり方にはついていけない」


 男は肩をすくめ、冷たい笑みを浮かべる。

 「なるほど……正義感の強い回復術師だ。しかし、君が求める力を手に入れるには、避けて通れない道もある。覚悟はあるか?」


 その瞬間、路地の奥から無数の人影が現れた。黒衣の傭兵たちだ。明らかに翼たちを狙っている。

 「この数……まさか狙撃班までいるのか」

 リリアが剣を構え、唇を噛む。

 「翼、どうする?」


 翼は冷静に杖を握り直す。

 「まずは防御と支援。リリア、セリア、指示に従って動くんだ」

 彼は回復術を展開し、仲間の体力と魔力を最大限に補強。セリアとリリアは翼の支援魔法で攻撃速度が格段に上がる。


 リリアは笑みを浮かべながら剣を振るう。

 「翼の魔法で私たち無敵に近い! 一気に突破するわ!」

 セリアも矢を正確に放ち、敵を翻弄する。

 「影のように動く敵も、これなら怖くない!」


 戦闘は激化した。敵の傭兵たちは集団で連携してくるが、翼の支援魔法で仲間の反応速度が増し、攻撃が正確に決まる。翼は回復術だけでなく、補助攻撃魔法も併用して戦局を有利に導いた。


 だが、背後で黒衣の商会の男が魔法陣を描き始める。

 「くっ……封印魔法だ!」

 翼は魔力を集中し、仲間の力をさらに引き上げる。

 「セリア、封印阻止! リリア、周囲の敵を抑えて!」


 セリアは矢を正確に放ち、魔法陣の一部を削る。リリアは剣で魔力の流れを切断。翼の魔法が仲間を補助し、封印は寸前で中断された。


 戦闘が落ち着いた時、翼は息を整えながら仲間を見渡す。

 「……全員無事でよかった」

 リリアは微笑み、剣を鞘に収める。

 「翼のおかげで、ここまで耐えられた」

 セリアも笑顔を見せる。

 「まだ自由都市は深い闇に包まれているけど、こうやって乗り越えれば成長できる」


 三人は夜市の光を背に歩く。翼は街の暗闇の中で杖を握り、決意を固める。

 「この街で手に入る力は大きい。だが、裏の世界に巻き込まれすぎると、仲間を危険に晒す」


 夜風が頬を撫でる。路地の奥で人々がざわめき、自由都市の灯りがちらちらと瞬く中、翼たちは静かに歩を進める。

 黒衣の商会の男は姿を消し、暗闇に溶け込んだが、彼らの背中には確実に視線の圧が残った。


 「……次は、あの商会の正体を探ろう」

 翼が言うと、セリアとリリアは頷く。

 「どんな危険が待っていようと、私たちは前に進む」


 夜の自由都市ヴァレク――表の賑わいと裏の闇の狭間で、翼たちの冒険は新たな局面を迎えた。

 その歩みは、街を、そして仲間を守るための決意に満ちている。


 三人の影が路地の石畳に伸び、冷たい夜風に揺れる。未知の力、裏の組織、次なる依頼――自由都市の闇は深いが、翼たちの絆はそれを凌駕する。


 「さあ、明日はどこから手をつけようか」

 リリアが笑みを浮かべる。

 「まずは情報収集ね。遺跡の力も、商会の手も、すべて把握するわ」

 セリアも小さく笑う。

 「私たちなら大丈夫。翼と一緒にいる限り」


 翼は杖を握り直し、夜空を見上げた。

 「……どんな試練も、仲間となら乗り越えられる」


 自由都市ヴァレクの夜は、まだ長い。だが、翼たちの冒険は今まさに加速し始めていた。

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