第35話 遺跡の深淵と不意の敵
自由都市ヴァレク郊外に広がる古代遺跡。
昼間の光が差し込むと静寂で美しいが、翼、セリア、リリアの三人が足を踏み入れる夜は、別世界のように暗く、冷たい。空気に漂う魔力の残滓が、彼らの緊張感をさらに高めた。
翼は杖を握りしめ、深呼吸する。
「この遺跡……魔力の濃度が強すぎる。油断は禁物だ」
セリアは短剣を軽く構え、視線を周囲に巡らせる。
「この街の裏通りや闇市と同じで、ここも油断したら命はないわね」
リリアは剣の柄に手をかけ、笑みを浮かべながらも緊張を隠せない。
「でも、こういう冒険こそ面白いわ。宝物だけじゃなく、何か発見できる気がする」
三人は慎重に遺跡の石段を上がる。古びた壁には古代文字や魔法陣が刻まれ、ほのかに光る石が足元を照らす。足音が響くたび、闇の奥から微かに振動が伝わる。翼は魔力感知を駆使して罠や結界の位置を探り、仲間に合図を送った。
「ここ……魔力が集中している。慎重に」
翼の声に、セリアとリリアは頷く。扉をくぐるたびに、冷たい風が頬を撫で、古代遺跡特有の腐食した石の匂いが漂った。
広間に差し掛かると、背後の闇から低い声が響いた。
「……よく来たな、翼」
振り返ると、黒衣の人物が立つ。顔はフードで隠され、鋭い目だけが光る。翼は杖を握り直し、仲間に目配せをする。
「この人……間違いなく敵」
リリアが剣を前に構える。
「ここから戦いになるわね」
黒衣の男が手を振ると、影の魔獣たちが広間に現れた。人型に近いが、歪な体と黒い鱗で覆われたその姿は不気味で、動くたびに低く唸った。
翼は即座に回復術を展開。仲間の体力を補強し、防御結界を張る。リリアは剣を振り、セリアは矢を放つ。
影たちは速く、数も多い。通常の戦闘とは違い、一度でも油断すれば大ダメージを受けるだろう。翼は魔力を最大限に集中し、仲間の攻撃力と回復速度を強化した。
「リリア、セリア、盾と矛の動きを意識して!」
「了解!」
戦闘は一瞬の判断ミスも許されない。リリアの剣が敵の動きを制し、セリアの矢が弱点を突く。翼の魔法が回復と支援を同時に行うことで、三人の連携は完璧に近い。
戦いながら、翼は不意に背後からの魔力干渉を感じた。
「くっ……誰かが封印を試みている」
振り返ると、黒衣の男が魔法陣を描き、遺跡の奥の扉を封印しようとしている。
「放っておけない!」
翼は仲間に指示する。
「リリア、封印の近くを援護!セリア、遠距離から妨害!」
セリアは矢を精密に放ち、魔法陣の一部を削る。リリアは剣で魔力の流れを切断。翼は自らの魔力を最大出力で流し、仲間の補助魔法を強化した。
瞬間、封印は中断され、黒衣の男は一瞬ひるむ。
だが、戦いは終わらない。影の魔獣が再び集結し、翼たちに一斉攻撃を仕掛ける。
「ここで倒れるわけにはいかない!」
翼は回復だけでなく攻撃補助魔法も展開。仲間の力を極限まで引き出す。リリアとセリアは息を合わせ、全力で反撃。影たちは次々と倒れ、広間には静寂が戻った。
戦闘後、翼は深呼吸しながら仲間に目を向ける。
「……みんな無事でよかった」
リリアは微笑み、剣を鞘に収める。
「本当に。翼のおかげでここまで無事に来られたわ」
セリアも肩を軽く叩き、笑みを浮かべる。
「まだまだ自由都市の闇は深いけど……こうやって乗り越えれば成長できる」
遺跡の奥には、古代魔導書と宝物が輝いている。翼は杖を差し伸べ、慎重に手を伸ばした。
「これで依頼は完了……でも、この遺跡はまだ危険だ。油断はできない」
その瞬間、闇の奥から低い声が響いた。
「……自由都市での行動、甘く見すぎたな、翼」
黒衣の男の影だけが見え隠れする。翼たちは警戒を固め、互いに目を合わせた。
「何が待っていようと、俺たちは進む」
翼が杖を握り直す。セリアとリリアも頷き、三人は夜の闇に包まれた遺跡を後にした。
夜風が頬を撫でる。遠くで街の灯りが瞬く中、自由都市ヴァレクの闇はまだ深く、そして広い。
だが、仲間と共に歩む翼の決意は揺るがない。
「この力を、仲間を、未来を守るために――前に進む」
自由都市での冒険は、まだ序章に過ぎない。
翼たちは闇に包まれた街を歩きながら、次の試練に備えた。




