第33話 暗黒商会と夜の取引
自由都市ヴァレクの夜は、昼とはまったく違う顔を見せる。
昼間は人と商売で溢れる通りも、夜になると闇市や影の組織が動き出す。
翼、セリア、リリアの三人は、闇市で得た情報をもとに、今回は“暗黒商会”の動向を探ることになった。
翼は慎重に周囲を観察しながら歩く。
「情報屋によると、この街の闇で最も力のある商会だ。取引相手を誤れば、命に関わる」
セリアは軽く頷く。
「危険度Aランクね。しかも表には出ない連中……油断できない」
リリアは眉をひそめ、肩に手をかけた。
「でも、なんで我々に関係してるのかしら? ただ情報を集めたいだけじゃないんでしょう?」
翼は杖を握りしめる。
「おそらく……監視者や王都関係者の誰かが、暗黒商会を使って俺たちを試そうとしている」
三人は闇市の路地を抜け、商会の建物を見つけた。
建物は高さこそないが、壁は黒く、無数の鍵と魔法陣で守られている。
建物の入口には二人の巨漢が立ち、目つきは鋭く、触れれば攻撃してくる雰囲気だった。
リリアが小声で言う。
「正面から行く? それとも裏口?」
翼は考える。
「裏口が安全かもしれない。正面は戦力が揃ってるだろうし……」
三人は裏路地から建物に回り込み、薄暗い通用口を見つけた。
鍵には魔法陣がかけられているが、翼の知識を応用すれば解除可能だった。
翼は息を整え、慎重に魔力を流す。
スーッと魔法陣が解除され、通用口は静かに開いた。
中に入ると、薄暗い広間に数人の人物が見える。
全員が黒衣で、腰には短剣や小型魔導具を携えていた。
空気には殺気が満ち、呼吸をするのも躊躇うほどだ。
一瞬の静寂の後、リーダー格と思われる女性が前に出てくる。
鋭い目つきに長い銀髪。
「自由都市に何しに来た?」
声は冷たく、笑みはない。
翼は落ち着いて答える。
「話を聞きたいだけです。あなた方の行動や、この街の裏事情を」
女性は小さく鼻で笑う。
「情報屋の口車に乗ったか。だが、甘い話はない。動く者には必ず代償がつく」
リリアが前に出て短剣を握る。
「代償? じゃあ戦うしかないってこと?」
女性は笑みを消すと、手を軽く振った。
すると、部屋の影から無数の黒衣の影が浮かび上がり、翼たちに襲いかかる。
翼はすぐさま回復術を展開。
仲間の体力を補強しつつ、軽く防御魔法を張る。
リリアは剣を振り、セリアは矢を放つ。
闇市での戦いよりも手強い相手だが、三人の連携は完璧だった。
攻撃を受けながらも、翼の回復魔法は仲間の負傷を最小限に抑え、リリアの剣が次々と敵を倒す。
セリアは遠距離から正確に弱点を突き、混乱した敵をさらに追い詰める。
戦闘の最中、翼は不意に魔力の異変を感じる。
“誰かがこちらを操作しようとしている――”
背後で、見えない力が翼たちを押さえつけようとしている。
「くっ……!」
翼は魔力を集中させ、周囲の結界を破る。
すると、先ほどの銀髪女性が驚いた表情を見せた。
「何……!?」
翼は息を整え、冷静に言う。
「俺たちは、他人の力に操られたりしない」
声に力がこもる。
その瞬間、三人の連携がさらに強まり、暗黒商会の戦力を完全に制圧した。
女性は最後に一礼して言った。
「……認める。君たちは強い。だが、自由都市は甘くない。覚悟して進め」
翼は杖を握り直し、二人に向かって言う。
「分かった。俺たちは覚悟する。それでも、自分たちの道を進む」
セリアとリリアも頷き、三人は暗黒商会を後にした。
夜空には星が瞬き、自由都市の灯りが静かに街を照らす。
闇市の奥、また一つの影が動いた。
翼たちの行動は、確実に自由都市の裏世界に波紋を広げ始めていた。




