第32話 闇市の迷宮と情報屋の影
自由都市ヴァレクの夜は、昼とはまるで別の世界だった。
翼、セリア、リリアの三人は、闇市の奥へ進む。
今日の目的は、闇市の情報屋に接触し、街の裏で動く勢力の情報を手に入れることだった。
しかし、闇市はまさに迷宮のように入り組み、同じ屋台や路地が延々と続く。
「……ほんとにこの先に情報屋がいるのかしら?」
リリアが辺りを見回す。
「見た感じ、普通の商人ばかりだけど……」
セリアは慎重に周囲を警戒しながら歩く。
「情報屋は目立たないのが基本。ここで油断すると、何かに巻き込まれるわ」
翼は背中に手を回して杖を握る。
「了解。俺は支援に回る。変なやつが出てきても即座に回復か補助でカバーする」
三人は路地を進み、薄暗い屋台の間を抜けると、やがて小さな隠れ家のような店を見つけた。
古びた木製の看板には“情報屋マルコ”と書かれている。
入口の扉にはいくつもの魔法陣が描かれ、簡単には侵入できないようになっていた。
リリアが軽く扉を叩くと、奥から声が返ってきた。
「入るがいい。用件は短くな」
中に入ると、暗がりに人影が一つ。
中年の男で、目つきが鋭い。
棚には数えきれない情報文書が並び、魔法で保護されている様子だった。
「やあ、君たちが噂の翼か。王都での戦いを見たよ」
情報屋マルコは笑みを浮かべる。
「なるほど、回復術師でありながら前線で戦えるのか。面白い」
翼は肩をすくめる。
「まあ、普通の冒険者ですよ」
「……普通じゃないと思うぞ」とマルコは小さく笑った。
セリアが質問を切り出す。
「この街で、最近動きの怪しい勢力は? 王都の件と関係あるかもしれないの」
マルコは目を細め、慎重に言葉を選ぶ。
「最近、自由都市の裏で動く“黒い組織”の話を耳にした。王都と関係があるかどうかは分からない。
ただ、君の力が注目されていることは間違いない」
翼の胸が少し緊張する。
「……監視されてるのか」
リリアも眉をひそめた。
「やっぱり、ここまで注目されると嫌な予感しかしないわ」
マルコはさらに低い声で続ける。
「君たちの行動は、自由都市のいくつかの勢力に記録されている。
見張る者もいれば、暗殺の準備を進める者もいる」
セリアが怒ったように口を開く。
「なんでそんな危険な情報を事前に言うのよ!?」
「安全策ってものだ。準備が必要だからね」とマルコは冷静に答える。
その時、屋外から大きな叫び声と足音が聞こえた。
「盗賊団だ!」
リリアが立ち上がる。
「またかよ……!」
翼は杖を握りしめ、魔力を集中させる。
「俺たちがここで座っているわけにはいかない。守りつつ情報を得るぞ」
三人は屋外に出ると、闇市の通りは先ほどよりも混乱していた。
盗賊団は魔法で街灯を消し、人々を脅かしていた。
しかし、翼たちは臆することなく戦闘態勢に入る。
翼は回復術を展開し、仲間を守る。
セリアは俊敏に動き、盗賊の背後を狙う。
リリアは鋭い剣技で次々と敵を蹴散らしていく。
戦闘は緊張感に包まれながら進む。
翼の回復術は以前よりも効果が増し、セリアとリリアの攻撃力を最大限に引き出した。
盗賊団は次第に追い詰められ、混乱して撤退を余儀なくされる。
戦闘が終わると、三人は息を整えながら街を見渡す。
闇市の住人たちは感謝の声を上げるが、街の空気はまだ重かった。
翼は小さくため息をつく。
「やっぱり自由都市は、昼も夜も油断できない」
セリアが肩に手を置く。
「でも、こういう戦いがあるから、私たちは強くなれるのよ」
リリアも笑みを浮かべる。
「次はどんな事件が待ってるのかしらね」
翼は夜空を見上げ、静かに呟く。
「……俺たちの旅は、まだ始まったばかりだ」
闇市の奥、屋根の影で誰かが目を光らせている。
翼たちの行動は、確実に自由都市の闇の世界に影響を与え始めていた。




