第31話 自由都市の闇市と異端者たち
自由都市ヴァレクは昼夜問わず賑やかで、昼間は商人や冒険者でごった返すが、夜になると一変して闇市が姿を現す。
翼たちは、今日は珍しい依頼――「情報収集」のため、夜の闇市を訪れていた。依頼人はギルドの老商人で、最近、市場に不穏な影が動いているという。
闇市の入口に到着すると、街灯の光がほとんど届かず、路地は闇と人影で埋まっていた。
屋台や小屋の隙間からは、怪しげな香辛料の匂いと煙が立ち込める。
自由都市の夜は昼とは別の顔を持ち、ルールは緩やかだが、力と情報がすべてを決める場所だ。
「ここが噂の闇市か……」
リリアが目を見張る。
「規模が大きすぎるわ……しかも雰囲気が完全に無法地帯」
セリアは翼の横で口元を引き締める。
「油断すると、簡単に騙される。情報収集も命がけよ」
翼は小さく息をつく。
「俺は……戦うだけじゃなく、観察もか。分かった」
闇市を歩きながら、三人は周囲を警戒していた。
すると、ひときわ目立つ黒衣の男が、彼らに向かって手招きする。
「お前たち、翼か……話を聞かせてもらおうか」
その声には、軽い笑みが混じっているが、背後の気配は鋭く冷たい。
翼が慎重に答える。
「誰だ? 何の用だ」
男は頭を軽く下げる。
「名乗るべき時ではない。だが、君の力に興味を持った者として、忠告に来た」
翼の目が細まる。
「忠告?」
男は少し前に出て、周囲の人々の視線を軽く払った。
「この街の闇は深い。君が目立つほど、狙われる。だが、君の仲間は巻き込まれるな」
翼は唇を噛む。
「……もう監視者やスカウトのことは分かってる。だけど、俺たちは自分たちで行動する」
男は一瞬、目を細めると、低い声で言った。
「ならば……選択を誤らないようにな」
その言葉だけを残し、黒衣の男は闇の中に消えていった。
翼たちは互いに目を見合わせる。
「また、誰かが動いてる……」
「自由都市は表も裏も入り混じってるってことね」
「……気を引き締めよう」
その瞬間、闇市の一角で騒ぎが起きた。
大きな声と金属音が響き、何者かが走り抜けていく。
見ると、盗賊の一団が荷車を強奪し、混乱が広がっていた。
リリアが短剣を抜く。
「捕まえるわよ!」
セリアも戦闘態勢に入る。
「翼、君は支援に回って!」
翼は回復術師としての力を解放し、仲間の動きを支える。
瞬時にリリアの軽傷を癒し、セリアの矢を放つ手に微妙な力の補正を加える。
攻撃と防御が連携し、闇市はまるで生き物のように三人の動きに反応した。
盗賊たちは翼たちの迅速な対応に戸惑い、次第に逃げ場を失っていく。
翼は回復だけでなく、体力増幅と筋力強化の補助魔法をかけ、リリアが一気に敵の主力を蹴散らす。
セリアは背後からの奇襲を警戒しつつ、盗賊の足止め役を務める。
戦闘が収束すると、闇市の商人たちが口々に感謝の声を上げる。
「ありがとう……あの盗賊団、手強いと思ったのに!」
「君たちは……何者なんだ!」
翼は息を整えながら、仲間の二人に微笑む。
「俺たちはただの冒険者だ。だけど……目立つと面倒なことも増えるな」
リリアが笑いながら肩を叩く。
「面倒なほど、あんたの人気は上がるってことよ」
セリアも微笑む。
「でも、こういうのって結構楽しいじゃない」
翼は少し照れながらも頷く。
「……そうかもな。危険はあるけど、仲間と一緒なら大丈夫だ」
その夜、三人は闇市の喧騒が遠くなる屋上で、改めて決意を確認した。
自由都市ヴァレクでの戦いは始まったばかり。
彼らの冒険は、まだ序章に過ぎない。
闇市の奥、誰の目にも触れない場所で、黒衣の影が静かに動いていた。
その瞳は翼たちを捉え、冷たく光る。
「異端者よ……自由都市での行動が、世界を揺らす日も近いようだ」
夜風が三人の髪を揺らし、自由都市の夜は長く、深く、まだまだ多くの試練を隠していた。




