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第28話 自由都市アークローナの“裏の顔”

自由都市アークローナの朝は、まるで巨大な鍋の中で街全体がぐつぐつ煮えているようにざわついていた。屋台の呼び声、行商人の押し売り、どこか遠くから聞こえる鍛冶屋の金属音。翼はセリアとリリアと並んで大通りを歩きながら、ここが本当に同じ世界なのかと疑いたくなるほどの活気に目を丸くした。


「やっぱりすごいね、この街。脳みそが毎秒どこかに連れていかれる感じある」


「比喩の癖よ」とセリアが肩をすくめる。「でもまあ、刺激は強い」


一方、リリアは巨大な串焼きを抱えて満面の笑み。朝から肉を全力で食べる女である。


「この街、食べ物だけは最高だよ! 物価も安いし、もう住むしかないよね!」


「おまえ、串焼きに住民票を入れるつもりか……?」


そんないつもの調子で歩いていると、ギルド支部が姿を現した。王都のギルドより広く、壁は武器と依頼書で埋まっている。中に入ると、冒険者たちがテーブルを囲んで大笑いし、受付嬢たちは商人のように手際よく客をさばいている。


翼たちは受付に向かうが、そこにいたのは先日チラ見したギルドの男性スタッフ。もじゃもじゃ髪にメガネをかけ、妙に落ち着いた雰囲気の男だ。名札には「副ギルド長 ヴェイル」とある。


「きみたち、少し時間あるかい?」


低い声なのに不思議とよく通る。翼は一瞬だけ背筋が伸びる感覚を覚えた。


「はい、あります」


「なら奥へ。話したいことがある」


通されたのはギルドの応接室。静かすぎて先ほどまでの喧騒が嘘みたいだ。翼は椅子に座りながら、どこか嫌な胸騒ぎを覚えていた。


ヴェイルは資料を机に置き、三人の目を順に見てから口を開いた。


「きみたちに依頼ではなく“提案”がある。アークローナ外周の遺跡で、最近怪しい動きが確認された。遺跡の管理組織は、いわゆる中立機関なんだが……そこに“何者かが”出入りしている」


セリアが眉を寄せる。「遺跡荒らし?」


「いや、もっとややこしい。組織だった者たちだ。ギルドは調査したいが、正規チームを入れると動きが大きく目立ちすぎる。そこで……外部の有能なパーティーに協力してもらいたい」


「なるほど、僕らなら雑に扱っても問題がないってわけですね」


「雑ではない。ただ……きみたちは“視られている”」


その言葉で空気がひやりとした。


「視られているって……まさか監視者のことか?」翼は身を乗り出す。


ヴェイルはゆっくりとうなずいた。


「ギルドはすでに察している。王都での騒動、呼び戻し、翼くんの回復魔法の異常性、王国側の焦り……そこに“監視者”が絡んでいる可能性は高い」


セリアもリリアも息をのむ。話が急に重すぎる。


「遺跡にいる連中が何者かは分からない。だが、彼らはおそらく――きみたちを追ってきた者と繋がっている」


翼は目を伏せたが、内側から静かに怒りが沸く。


「つまり、僕たちが動けば、相手の尻尾をつかめるってわけですね」


「そういうことだ。危険だが……君たちならやれると判断した」


リリアが勢いよく手を上げた。


「よし、やろう! 正体不明とか怖いけど、逃げてばっかりも嫌だ!」


セリアも頷く。「そして、何より情報が欲しい。翼の魔力についても、監視者の目的も、全部分からないままだと動きようがないわ」


翼は二人の横顔を見て、自然と笑った。


「じゃあ決まりですね。僕たちで行きます」


ヴェイルの表情はわずかに安堵したように見えた。


「遺跡は北西の渓谷にある。夜は魔獣が集まるから、日没までに引き返すか、籠城できる準備をして行くといい」


そして席を立つ三人に、ヴェイルは静かに告げた。


「きみたち、“裏のアークローナ”に足を踏み入れることになる。本当に気をつけてくれ」


外に出ると、昼の太陽が眩しいほど強く街を照らしていたが、三人の胸の奥には別の熱があった。


セリアが歩きながらぼそりと漏らす。


「監視者、遺跡、中立組織……一気に謎だらけになったわね」


「でも、謎がある方が旅って感じしない?」とリリアは笑う。


翼は二人の後ろ姿を見ながら、胸の深いところで小さく誓った。


残された謎は全部、僕たちが暴く。


王国でも、監視者でも、裏社会でも、かかってこい。


自由都市アークローナは光と影の両方を抱えた巨大な街。その中心へ足を踏み込む時が来た。


――そして三人は、新たな冒険の扉へ向かって歩き出した。

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