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第23話 自由都市揺らぐ影と“封じられた記憶”

 禁書庫からの帰還後、翼たちはギルドの医務室でしばらく休息を取っていた。

 翼の体からあふれた青白い光は今も微量に漂い、まるで放課後の校庭に残る夕日みたいに揺らめいている。


「まだ体、熱くない?」

 セリアが心配そうに覗き込む。


「熱いっていうか……胸の奥でドラム叩いてる感じ?」

「なにそれ。新しい音ゲー?」

 リリアが真顔で返す。


「違うわ」

 セリアが呆れたように肩をすくめる。


 アークは壁にもたれながら、じっと翼の様子を観察していた。


「さっきの光……制御できていなかったな」

「そんなの俺だって分かってるよ。

 突然スイッチ入って、勝手に大暴れする筋肉みたいな感じなんだよ」


「その例えは分かるようで分からん」

「俺も分からん」


 軽口をたたきながらも、空気は重かった。

 特にアークの表情は、いつになく鋭い。


「黒衣の女……“彼女は翼の出生を知っていた”。

 それが問題だ」


「うん……」

 翼は息をつく。


「俺の本当の家族のことも……」


 薄れていた“痛み”が戻ってくる。

 村で過ごした日々、遊んでくれた父と母、食卓で笑っていた姿。

 全部、偽物だったのか。

 その想いが胸でぐるぐる回り、苦しくなる。


「翼」

 セリアがそっと肩に手を置く。


「家族が血かどうかは関係ないわよ。

 その人たちが翼を愛してくれたのは、本物よ」


「……うん」


 翼はゆっくり頷いた。

 その頷きには、まだ少し涙の苦味が混ざっていたけど、それでも前を見ようとしていた。


 そんな中――ギルド外で鐘の音が響く。


 カン……カン……カン……!


 アークの表情が変わった。


「この鐘……非常招集だ」

「また魔獣?」

「いや違う。音が早い。これは“人災”の合図だ」


「人災?」

 翼とセリア、リリアの声が重なる。


 アークは短く答えた。


「“街に危険人物が侵入した”時の合図だ。

 自由都市でも滅多に鳴らないやつだ」


 翼の胸が嫌な予感でざわつく。


「まさか……黒衣の女?」


「断言できないが……時期が一致しすぎている」


 その時、ギルドのドアが勢いよく開く。


「アーク副団長!! 報告します!」

 蒼鷹騎士団の若い隊員が、汗だくで駆け込んできた。


「中央区で“謎の黒影”を目撃したという情報が多数!

 市民が次々と眠らされ、記憶を一部奪われています!!」


「記憶……?」

 翼の胸に、さっき禁書庫で言われた言葉がよみがえる。


──出生記録は偽装されていた。


 まさか……記憶を操作できる?

 そんな力が存在するのか?


「被害地点は?」

「中央区、区役所付近……それと、孤児院です!」


 翼の心臓が跳ねた。


「……孤児院?」


「孤児の一部が“名前を忘れた”と言って泣き叫んでいます。

 魔力干渉の跡が……複雑すぎて解析できません!」


 翼は拳を握った。


「……あいつだ」

 黒衣の女。

 または同じ勢力。


「目的は何だ……?」

 翼の背筋に冷たい汗が流れる。


「翼」

 アークが真剣な目で言う。


「お前の“過去”を追っている可能性がある。

 それも……本来なら封じられていた記憶の層まで触れようとしている」


「封じられた……記憶……?」


 胸の奥で、何かがカチリと音を立てた気がした。


 セリアが翼の腕をつかむ。


「行こう、翼。

 これ以上、孤児院の子たちに何かあったら……許せないでしょ?」


「……ああ」


 リリアも槍を回し、キッと目を細める。


「黒いフードの女相手なら、次は私も本気でいくよ」

「最初から本気で頼む」


「うっさい!」


 その会話に、アークが小さく笑う。


「よし。蒼鷹騎士団も動く。

 翼、お前たちは俺と一緒に中央区へ向かえ」


「了解!」


 翼は深呼吸し、胸の奥のざわめきを押さえ込む。


 孤児院の子たちの記憶が奪われる。

 自分の出生を知る者が現れる。

 何かが迫ってきている。


 黒衣の女の最後の言葉が、頭の中に残っていた。


──次は“覚醒”の続きよ。


「そんなもん、誰がやるかよ……」


 翼は呟き、蒼鷹騎士団の団員たちと共にギルドを飛び出した。


 自由都市ヴァレク――

 その巨大な街区の中央へ向かって。

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