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第15話 “黒衣の監視者”と自由都市の闇

 自由都市ヴァレクに来て三日目の夜。

 仕事を終えた翼たちは、ギルド近くの宿《青い尾羽亭》へ戻り、遅めの夕食を取っていた。


「はー……今日も人だかりすごかったわね」

 椅子にぐったり凭れながら、セリアが水を飲み干す。


「まさか“回復術師が戦ってる姿を一目見たい”って観光客まで来るとは思わなかったよ」

 リリアも苦笑しつつパンをちぎる。


 翼はため息をつきながら、木のスプーンでシチューをすくった。


「俺いつの間に観光名物になったんだ……?」


「知らないうちに名物になってるのが、翼の特技でしょ」

「……どんな特技だよ」


 そんな日常の――ように見える時間。

 しかし、テーブルの空気には薄く緊張が混じっていた。


 今日のギルドでのスカウト騒動。

 それだけならまだ笑い話で済む。


 だが、その中にひとつだけ“異質な視線”があった。


 リリアがぽつりと言う。


「ねぇ翼……やっぱり気のせいじゃないよね。

 あの、ぞくっとする感じ……」


「ああ。夕方あたりからだな。誰かに見られてる」


 セリアも頷いた。


「私も気づいてたわ。人じゃなくて……魔力の“線”みたいなのを感じた」


 翼は短く息を吐き出す。


(監視されている……確実に)


 昨日、王都を離れる時に突き刺さるような視線があった。

 同じ色の気配を、今日また感じたのだ。


「王都の連中……って可能性、ある?」

「あり得る。俺たちの移動を追ってきたなら、ちょっと厄介だ」


 宿のざわめきが遠く感じるほど、三人の表情が険しくなる。


 だがその時。


「ま、考えても仕方ないし、まずはご飯よご飯!」

 突然リリアが明るく笑って翼の皿に肉を乗せてくる。


「ほら翼、いっぱい食べて! 明日はもっと働いてもらうんだから!」

「いやパワハラみたいに言うな」


 セリアも呆れたように微笑む。


「心配してても証拠がなきゃ動けないし……まあ、今日はゆっくり休みましょ」


 翼は二人の気遣いに苦笑しつつも、少しだけ肩の力を抜いた。


(……こいつら、ほんと強いな)


 その夜、眠りに落ちる前。

 翼は確かに“何か”が遠くから見ている気配を感じていた。


 だが、姿は見えない。

 音も、気配も、霧のように薄い。


(誰だ……?)


 答えのないまま、夜は更けていく。


 


 その翌日――。


 朝。

 自由都市の大通りを歩く三人の前に、不意に一本の影が降り立った。


「やあ、昨日ぶりだな」


「……アーク?」


 蒼鷹騎士団の副団長アークが、軽く手を上げる。


 相変わらずの落ち着いた立ち振る舞い。

 だが、今日は妙に真剣な表情をしていた。


「悪い、少し話がある。人目のない場所へ移動できるか?」


 翼たちは顔を見合わせ、近くの人気のない路地に移動した。


「どうしたの? 何か事件?」

「事件というほどではないが……情報だ」


 アークは外套の内側から一枚の古びた紙片を出す。


「昨日、王都方面から入ってきた商隊の荷物の中に、不審な封書が混じっていた。

 差出人は不明、内容は“ある人物の監視報告”」


「……監視、報告……?」


 翼の胸が大きく脈打つ。


「その中に――こう書かれていた」


 アークは短く読み上げる。


“《対象:天城翼》

 自由都市ヴァレクに入城。

 女二名と行動、パーティーを形成。

 現在も監視継続中”


 翼たちの背中に冷たいものが走った。


「やっぱり……俺たち、監視されてる……」


 セリアが低く唸る。


「差出人は推測だが……王都側の誰かだろう」

 アークは淡々と続ける。


「問題は、封書の末尾だ。君たちに知らせておくべき内容だった」


 そう言って、アークは紙片を翼に渡した。


 翼は読み、目を見開く。


“《追跡者を一名配置。次の指示を待て》”


 リリアが小声で呟く。


「これ……やばくない?」


「追跡者って……昨日感じた気配のことか……?」


 セリアの目が鋭くなる。


「翼、これほぼ間違いないわ。

 王か……あの聖女のどっちかよ」


 息が重くなった。


 アークは翼の肩に手を置く。


「身の安全が保証されない場合、俺たち《蒼鷹騎士団》でも保護できる。

 正式に依頼してくれればすぐ動く」


「ありがとう。でも……まずは自分たちで確かめたい」


 翼がそう答えると、アークは小さく頷いた。


「無茶はするなよ。

 監視者の“正体”は、おそらく相当に危険だ」


 アークはそう言い残し、去っていった。


 


 残された三人は、沈黙の中で顔を見合わせる。


 リリアがぽつりと呟いた。


「ねぇ翼……もし監視者がこの街に潜んでるなら……どうする?」


「決まってるだろ」


 翼は振り返り、遠くの屋根の上を見上げた。


「――見つけ出す。

 そして話を“全部”聞いてやる」


 その瞬間、確かに屋根の上の空気が揺れた。


 翼は気づいた。


(……いる。あそこに)


 監視者は姿を見せず、ただ翼を見つめていた。


 嵐の前の静けさのように――。

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