第14話 ギルド騒動再び ― そして“監視者”の影
自由都市ヴァレクに来て二日目。
朝のギルドで発生した“回復術師争奪戦事件”は、今なおギルド内の話題の中心だった。
「……翼、まだ見られてるわよ」
「見られてるというか……狙われてるというか……」
「俺、なんかしたっけ?」
翼がそう言うと、セリアが即答した。
「魔獣ぶっ飛ばした」
「王都を救った」
「ついでにギルド騒動の中心だった」
「…………全部心当たりあるな」
そんな会話をしながら、三人は今日もギルドに向かった。
扉を開ける――
――その瞬間、ざわざわ……というか“どよっ”とした空気がギルド内を満たした。
(また視線すごい……)
昨日よりひどい。
まるで芸能人でも来たかのように注目が集まってくる。
「お、おい……あれが昨日の奴だぞ」
「蒼鷹騎士団の副団長が直々にスカウトに来たって……」
「もう新人じゃなくて“未来の化け物枠”じゃねーか」
(いやなんだよ未来の化け物枠って……)
そんな中、ギルドの奥から受付嬢ミーナが手を振ってきた。
「翼さんたち! ちょっと来てください!」
「何かあったのか?」
「なんか嫌な予感しかしないわね……」
「私もそう思う」
三人がカウンターに行くと、ミーナは妙に疲れた笑顔で言った。
「……正直に言います。
今日だけで、あなた宛てのスカウト依頼が――」
紙束を“どさっ”と置く。
「42件あります」
「なんでそんなに!?」
「昨日より増えてるじゃないの!?」
「絶対なんか漏れたでしょ情報!!」
ミーナは苦笑した。
「皆さん、噂が大好きですから……。
“回復術師なのに前衛で戦う珍しいスタイル”ってだけで話題なのに……
“蒼鷹騎士団の副団長からの勧誘”は完全に火に油を注ぎまして」
「なんか……すまん……」
「いえ! 街が盛り上がってるので嬉しいですよ!」
(いやそんなことで盛り上がって欲しくは無いんだが……)
ミーナは続けて言った。
「ただ、スカウトはいいとして……もう一つ問題が」
「問題?」
ミーナは声を小さくした。
「……あなたたち、誰かにつけられてます」
「は?」
リリアが目を細める。
「監視者……ってこと?」
「そうです。昨日からギルドであなたたちの位置を探って、
尾行している者が複数います」
セリアは眉をひそめる。
「蒼鷹騎士団……? もしくは別の勢力?」
「特定はできません。ただ、妙に動きが組織的で……。
あなたたちが“王国と魔獣討伐に関わった特異点”だからでしょうね」
(……王国の陰謀か。聖女や勇者の件が絡んでるのかもしれない)
翼がそう考えた時――
「天城翼!!」
ギルドの入口から怒鳴り声が響いた。
全員の視線が入り口に向く。
そこには――
全身黒鎧の烏合の衆のような男たちが十数名、ずらりと整列していた。
「なんだあれ?」
「ギルドの私兵は禁止のはず……」
「ひょっとして……どっかの組織?」
先頭の男が胸を張って名乗る。
「俺たちは【黒曜団】!
お前をスカウトしに来た!!」
「またスカウトかい!!!!!!!!」
ギルドが揺れるほどの総ツッコミ。
だが黒曜団の団長は、真剣な顔で続けた。
「お前の戦いぶりは噂で聞いた!
翼、お前を新たな団長候補として迎えたい。
装備支給、個室、食事三食付き!」
「旅館かよ!?!?!?」
セリアが前に出る。
「ちょっと、勝手に連れてかないでくれる?」
「うちのリーダーよ?」
リリアも続いて言う。
「待遇はいいけど、団長って何よ。責任重いだけじゃん」
黒曜団団長は慌てて言った。
「いやいや! 実質的には何もしなくていい!!
看板だけ貸してくれれば!!」
「完全にブラックじゃん!!!」
「看板要員!?」
「リーダー、これは絶対やめなさいね」
翼はため息をついた。
「悪いけど……興味ない。俺は仲間と行動するって決めてる」
黒曜団の全員ががっくりと肩を落とした。
しかし次の瞬間――
広間の一角で“金属音”がした。
チリン……
その音に、セリアがすぐ反応した。
「……隠密の気配。誰かいる」
見ると、奥の柱の影で黒いローブの人物が何かをメモしていた。
「なにしてるんだ?」
翼が声をかけても、そいつは無言のままギルドを出て行った。
ミーナが青ざめる。
「やっぱり……監視者が近くに……」
リリアは腕を組みながら分析した。
「蒼鷹、黒曜団、王国……
色んな勢力が翼を見てるのは確かね」
セリアが翼を見る。
「……面倒になってきたね。どうする、翼?」
翼は苦笑した。
「どうするもなにも……」
そして強く言った。
「“自由都市”に来たんだ。自由に生きる。
スカウトも監視も……ぜんぶ無視だ。
やりたいことやって、行きたいところに行く。それだけだろ?」
セリアとリリアは同時に笑った。
「……それでこそリーダー」
「そういうとこ嫌いじゃないわよ。単純で」
ミーナが手を合わせて喜ぶ。
「では今日は普通に依頼を……あっ、また来た!!」
「またって何だよ!?」
入口を見ると――
「天城翼!!
うちの劇団で主役やらない!?
君の戦いを見て惚れた!!!」
「なんで劇団!?!?!」
ギルドが再び爆笑に包まれる。
自由都市ヴァレクでの生活は、想像以上に騒がしく、
そして面白くなりそうだった。




