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第11話 自由都市ヴァレクの洗礼

 王都レグナリアを離れ、三人はしばらく街道を歩いていた。

 焼け跡と瓦礫の残る城壁が遠ざかるほどに、翼の胸の奥にあった重さも薄れていく。


 「……いよいよ、自由都市ヴァレクか」

 翼が呟くと、リリアが肩に飛びつくようにして言った。

 「ねぇねぇ、聞いた? ヴァレクって“なんでもある”らしいよ!」

 「どこの観光客だよお前は」

 翼が笑うと、リリアは胸を張る。

 「だって無法地帯の自由都市よ? きっと美味しいものとか、珍しい魔導具とか、金持ちの財布とか落ちて……」

 「最後のが一番危ないわよ」

 セリアが即座に突っ込んだ。


 そんなやり取りを続けていると、前方に巨大な壁が見えてきた。

 灰色の鋼鉄で組まれ、魔導障壁と見える光が縁を走っている。

 王都の城壁とは違う、無骨で実戦的な造りだ。


 「……これが“完全自立都市”ヴァレク」

 翼は思わず息を呑んだ。


 門の前には冒険者、傭兵、商人、怪しげなローブの集団、筋肉だけで生きていそうな男たち……

 とにかくカオスな人々が列を成していた。


 「……なんか、王都とは全然違うね」

 リリアが引き気味に言う。

 セリアも僅かに眉を寄せた。

 「治安……大丈夫なのかしら」


 翼たちが列に並ぶと、すぐ前で大男が揉めていた。


 「おい! 俺の前に割り込むなって言ってんだろうが!」

 「割り込んでねぇ! お前が遅いんだよデカブツ!」

 「誰がデカブツだァ!?」


 ゴンッ!!


 取っ組み合いが始まり、周囲が慣れた手つきで距離をとった。


 「はいはい! 殺し合いは門の中でやって!」

 門番の女性が、掃除をするみたいに二人を蹴り飛ばして片付ける。

 翼は目を瞬かせた。


 「……ここの門番、強っ」

 「門の外で殺すのは罰金らしいのよ」

 セリアがさらりと補足する。

 「中は……」

 「中は……?」

 リリアがごくりと飲み込む。

 「“自己責任”なんだって」

 「うわぁー、自由都市ぃ……」

 三人は同時に肩を落とした。



 入城審査は意外と簡単だった。

 名前、出身地、そして「犯罪歴あります?」の三つ。

 犯罪歴の質問にリリアが反射的に目をそらしたため、門番に怪しまれたが、

 「いや違う違う! 財布を拾うときにたまたま……!」

 という言い訳は逆に怪しさしかなく、結局セリアが押し通した。


 街に入った瞬間――


 「うわっ……!」

 翼は思わず声を上げた。


 通りの両側に立ち並ぶ屋台。

 豪快に肉を焼く音、魔導具の爆ぜる音、賭け屋の叫び声、商人の値引き交渉。

 人と獣人と魔族が肩を並べ、誰もが好きなように歩き、好きなように叫び、好きなように稼いでいる。


 「すごい……本当に、なんでもありね」

 セリアが呆然と呟く。

 リリアはすでにキラキラしていた。

 「ここ、天国じゃん!!」


 そんな中、突然声がかかった。


 「おい兄ちゃん、そこの三人!」


 振り向くと、痩せ型だがいかにも場慣れした青年がいた。

 肩に汚れた革鎧、腰には二本の短剣。

 にやりとした笑顔。


 「初めてのヴァレクだろ? 案内してやるよ」

 「案内……?」

 「初回割引の金貨一枚で――」

 「高ッ!!」

 三人が同時に突っ込む。


 青年は肩をすくめた。

 「まぁ、案内しないとすぐ死ぬけどね」

 「言い方!」

 だが案内人が必要なのは事実。

 ここは知らない者が歩くには危険すぎる。


 翼は仲間を見た。

 「……頼むか?」

 「そうね。安全には代えられないわ」

 セリアは頷き、リリアもうんうんと賛成した。


 青年――名はカイと名乗った――は、すぐに街の説明を始めた。


 「まず、ヴァレクには五つの勢力がある。

 商会連合、傭兵ギルド、冒険者同盟、魔導士議会、そして裏社会“黒市”だ」

 「黒市って堂々と言っていいの?」

 「いいんだよ。ここじゃ税金さえ払えば犯罪じゃねぇ」

 「それ自由って言うのかな……?」

 翼が困惑していると、カイは続ける。


 「それと……一つ忠告」

 珍しく真面目な声だった。

 「この街では“強さ”が貨幣だ。

 金があっても、弱いやつは食われる」

 翼は黙って聞いていた。

 カイは彼の眼を見て、小さく肩をすくめる。

 「まぁ兄ちゃんは心配ねぇか。昨日の王都騒ぎ、こっちにも噂届いてる」


 「……聞いてたのか」

 「“回復術師一人で魔獣の大群を止めた”ってな。半分は盛られてるだろうが……正直、おかしいぜ」

 翼は少しだけ困ったように笑った。



 三人は案内されながら宿を決め、街の中心部を散策することになった。

 そこで――事件は起きた。


 「ちょっとそこの姉ちゃん、いいもん持ってんじゃねぇか」

 路地から男が二人、ニヤついた顔で出てきた。

 リリアの腰ポーチに目をつけたらしい。


 「やばっ、来た……!」

 リリアが後ずさる。

 セリアがそっと前に出る。

 「……翼」

 翼はため息をついた。

 「旅初日に路地裏イベントって、どんな異世界テンプレだよ……」


 男たちが近づく。


 「へっへ、いいからそれ置いてけよ。命までは取らねぇからよ」

 「いやぁ優しいなぁ。悪人の鑑だわ」

 翼が皮肉を言うと、男の額に青筋が浮かんだ。

 「てめぇ……調子に乗んなよ!」


 刃が抜かれる。

 瞬間――


 ドンッ!!


 男の身体が宙を舞った。

 翼の一本背負いだ。

 投げられた男は壁に突き刺さり、気絶した。


 残った男が震えながら後ずさる。

 「お、お前何者だ……!?」


 翼は淡々と答えた。

 「追放された回復術師。ただの力持ちだよ」

 「嘘つけぇぇぇ!!」

 男は情けない悲鳴を上げて逃げていった。


 カイは呆然とした表情を浮かべていた。

 「……回復術師って、柔道使えんの?」

 「異世界標準だろ?」

 翼が真顔で返すと、カイは怖いのか呆れたのか判断できない声を上げた。

 「この旅、絶対退屈しねぇわ……!」



 日が沈み、自由都市はさらに活気づく。

 夜の街は新たな匂い、色、音であふれ、まるで別の世界に踏み出したようだった。


 翼たちは宿の前に立ち、街の光を見つめた。


 「……いよいよ、本当の“冒険”が始まるわね」

 セリアが呟く。

 リリアは笑って言った。

 「この街、絶っ対儲かるよ!」

 「動機が金かよ」

 翼は呆れながらも、口元が緩む。

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― 新着の感想 ―
あー、、やっぱり世界観が分からないだけど?情報伝達は滅茶苦茶早いし、人相とかも分かるんかね? 異世界の人間が柔道というのは、なんか違う
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