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第10話 王都を去り、自由都市へ――新たな地平へ

 夜が明ける頃、王都レグナリアはようやく静けさを取り戻していた。

 だが、その静けさは決して平和のものではない。


 昨日の戦いで焼け落ちた家屋。倒れた塔。崩れた城壁。

 王はどこかへ姿を消し、政治は混乱し、街の人々はただ呆然と立ち尽くしている。


 しかし――人々の視線だけは、ある一人の青年に集まっていた。


 「……あなたが救ってくれたのですね」

「ありがとう……本当に、ありがとう……!」

「王が見捨てた私たちを……!」


 街を歩けば、翼は何度も頭を下げられ、手を握られ、涙を向けられた。


 「いや、俺だけじゃありません。仲間がいたから……」


 横でセリアとリリアが気恥ずかしそうに苦笑する。


 「リーダー、すっかり英雄扱いね」

 「“不遇回復術師”どこ行ったん? ってぐらい人気だけど」


 リリアが肘で翼をつつく。


 「やめろって……俺はそんな器じゃない」

 「でも、救ったのは事実よ」


 セリアはふわりと微笑んだ。

 「誇っていいわ」


 その後、翼たちは臨時評議会に呼ばれ、復興への協力を頼まれた。


 「――翼殿。あなたに王都再建の総指揮を任せたい」


 議長代行となった老人が深く頭を下げる。

 「あなた以上に民に慕われ、信頼される者はいない」


 翼は黙り込んだまま、しばらく考え――首を横に振った。


 「……できません。

 俺には追い求める“答え”があります。

 それに、この国の未来は、この国の人々が作るべきです」


 老人は寂しげに目を細めたが、怒る者は誰もいなかった。

 むしろ、納得と感謝に満ちていた。


 「そ、そうですか……ならばせめて礼を――」

 「いりません。俺は追放された身ですから」


 老人たちは顔を見合わせ、そして深く頷いた。


 「……あなたの旅路に祝福を」



 王都を出る日。

 西門の前で、美月が待っていた。


 白い聖女衣はなく、普段着。

 疲れた顔には、しかし強い決意が宿っていた。


 「翼……行っちゃうの?」

 「行くよ。ここにいたらまた巻き込まれるからな」

 「……そっか」


 沈黙がしばし流れたあと、美月は言った。


 「ねえ……私、王都に残るね」

 「そうか」

「うん。償わないといけないの。

 “癒しの光”で、たくさん魔獣が生まれちゃった……

 本当は全部、私の責任なんだ」


 翼は首を振る。

 「それは違う。お前は利用されてただけだ」


 「でも……知らなかったのは、怖くて見なかったから。

 だから私は、逃げない。

 この街で――誰よりも人を癒す聖女になる」


 その目はまっすぐで、強かった。


 「……立派だよ、美月」

 「えへへ……翼に言われると照れるな」


 美月はそっと翼の手を握る。


 「ねえ翼。また……会えるよね?」

 「また会おう」


 美月は涙をにじませて、強く頷いた。



 その後ろから、真斗が現れた。

 以前のような強気な顔ではなく、どこか迷いを抱えた表情だ。


 「翼……お前、本当に強くなったな」

 「柔道部の頃から強かったけど、今のは別格だ」


 真斗は拳を握りしめた。


 「……お前を追放した時の俺を、許してくれとは言わない。

 言わないけど、それでも、一つだけ言わせてほしい」


 翼は少しだけ身構える。


 「もう一度……お前と肩を並べて戦えるくらい、強くなる。

 ……だから、待ってろよ」


 翼は驚き、そして笑った。


 「お前がその気なら、楽しみにしてるよ」


 真斗も笑う。

 男同士の、短いが真っ直ぐな言葉のやり取り。



 三人が向かう先――

 三国が干渉しない完全自立都市、自由都市ヴァレク。


 冒険者、傭兵、商人、闇商人、亡命者。

 “力がすべて”の巨大都市で、あらゆる情報と物資が集まる。


 セリアが地図を広げる。

 「ここがヴァレク。

 新しい装備も情報も手に入るし……噂では“古代魔導書”が流れてくるらしいわ」


 リリアがわくわくと笑う。

 「やっと本格的に冒険者っぽくなるわけね!」

「それでこそ旅ってもんだろ」


 翼は王都を振り返る。


 瓦礫の中に立つ人々は、不思議なほど強く見えた。

 昨日より、確実に前を向いている。


 「……もう、後ろは見ない」


 リリアもセリアも、静かにうなずき、前を見据える。


 こうして――

 “追放回復術師の最強伝説”は、

 王国編を終え―― 自由都市編へと突入した。

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