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亭主元気で留守がいい!!

作者: 由良梨乃

馬車転落事故による死、野盗に襲われての死などの描写があります。

ご注意くださいませ。

「あの……それは、つまり?」


「はい。旦那様は、まだしばらくお戻りになりません」


 申し訳ございません、と初対面の令嬢に向かって頭を下げる燕尾服姿の初老男性。

 バルドラード伯爵家に勤める使用人たちを統括する執事長――ジョルジュの言葉に、アリッサは戸惑いの表情を浮かべた。




 ◆  ◆  ◆



 ――拝啓 “前世の私”様


 実家を追い出される形で嫁いだ家の主……ユージーン・バルドラート様は、どうやら国王陛下の呼び出しに応じるため、王都に滞在中のようです。

 しかも、“もうしばらく戻れないから、執務のことはジョルジュに任せる。定期連絡以外に、なにか緊急事態が起きたら早馬で知らせろ”的な手紙がたった今届いたそうです。


 新婚早々お屋敷に放置決定な現状について、どう思われますか?




 答えは、たった一つ――。





(よっしゃあああああ!!!!)



 ――歓喜しかないんだが!?





 ◆  ◆  ◆




 

 アリッサ・モナンド伯爵令嬢は、日本人だった前世の記憶を持つ転生者だ。

 彼女がそのことを自覚したのは幼少期時代。


 当時、招待を受けた貴族は出席が半ば義務とされていたパーティーへ、両親と一緒に幼いアリッサも参加する予定でいた。

 しかし、アリッサはパーティーの前夜から高熱を出して寝込んでしまい、とてもパーティーになど行ける状況ではなくなった。


「おとうさま……おかあさま。パーティーのお話、たくさん聞かせてね? アリッサは、いい子で、待ってる、から」


 高熱のせいでハフハフと息苦しい状態にも関わらず、両親のパーティーへの参加を後押しする。

 そんな愛娘の言葉に、苦しげな表情を浮かべた両親は、翌日――パーティー会場へ向かう道中、馬車の転落事故で御者をしていた使用人共々帰らぬ人となった。


 その事実を娘であるアリッサが知ったのは、数日後――。

 何日も熱に浮かされ続けたのち、前世を思い出した後のことだった。


(嘘、でしょう)


 社会人として日々労働に励む日本人女性だったはずが、いきなり異世界の貴族令嬢になっている。

 その事実を受け入れることだけでも一苦労のはずなのに、沈痛の面持ちをした使用人たちに囲まれ両親の死を聞かされた時の心境は最悪でしかなかった。

 前世を思い出す以前の記憶もしっかり残っていたせいで、「どうしてあの時背中を押してしまったんだろう」と当時の彼女は激しい後悔に襲われた。

 心の整理が現状に追いつかないせいもあって、幼いアリッサを気にかけてくれる使用人たちについ感情的になった記憶は今や黒歴史でしかない。

 出来ることなら、近くの壁に頭をぶつけて記憶喪失になりたいとすら考えたが、非現実的すぎる計画はすぐに成人女性的思考力を取り戻した脳内で即却下された。


 両親を失ってからは、屋敷に残ってくれた使用人たちに助けられながら過ごしていたが、一年と経たずに転機が訪れた。

 親戚だという一家――父の兄を名乗る男が妻と娘を連れて突如現れ、モナンド家の家督を引き継ぐと言い出したのだ。

 両親が亡くなった以上、実質的に家督を継ぐのは娘であるアリッサだ。

 けれどまだ彼女は幼く、貴族としてやるべきことを何も知らない。

 だからこそ自分が、亡き弟に代わってモナンド家を守る、と主張する伯父の言葉に、子供でしかないアリッサも、使用人たちも反論出来なかった。


 そして十五年以上の時が流れ――二十歳になった行き遅れ令嬢・アリッサ・モナンドは他家へ嫁ぐという形で、“実家から追い出された”。







 アリッサが隣国にあるバルドラード家へ嫁ぎ、一か月が過ぎた。


 早朝――自室で目を覚ました彼女は、半覚醒状態の意識を奮い立たせ、のっそりとベッドの上で身体を起こす。

 肌ざわりの良い夜着の袖口で手元を半分隠し、そのまま折った四本の指でスリスリと生地の感触を楽しんでしまう。

 両親が亡くなり、“私という意識が覚醒”してから、実家で過ごした約十五年間。

 ここまで上質な服を着させてもらったことなど、思い返してみれば屋敷の外へ出る時くらいだった。

 いや、外出時に着ていたドレスですら、ランク的には負けているかもしれない。

 義理の家族となった誰もが、アリッサをその輪の中へ受け入れようと動いたことは一度もない。


 一応は世間体を気にしているのか、一時期だけ伯父が手配した数人の家庭教師がアリッサについたことがある。

 けれどそれもごく短期間でしかない。

 その間に、貴族社会や社交界における最低限のマナーや知識、果ては、「これ、お嬢様に必要な知識か?」と首を傾げたくなる分野のことまで詰め込み教育をされた。

 一方、実の子である娘は、適齢期になると貴族が通うと聞く学園へ入学させ、しっかり青春を謳歌させていた。


 その娘に出された課題を、代わりにこなせと強要されたことも一度や二度じゃない。

 アリッサ自身、この世界についての知識や常識は、人並みに毛が生えた程度のもので、決して博識とは言えない。

 にも関わらず、義理の妹の代わりにこなした課題は簡単に思えるものばかりで、「裏口入学したんじゃないの?」と疑念を抱かずにいられなかった。

 義妹が通う学園では、成績の良し悪しでクラス分けをすると聞いていたため、「あぁ……きっと下のクラスなんだろうな」と妙に納得してしまう。

 とは言っても、そんな指摘をすれば間違いなく怒鳴られ、下手をすれば暴力を振るわれる可能性もあると考え、アリッサは日々淡々と押し付けられた課題をこなした。

 適当に課題をこなして義妹に恥をかかせては何を言われるかわからない。そう思って、アリッサは最初本気で取り組んでいた。

 しかし、それは逆効果だったらしく、「完璧にやらないで! クラスで浮くでしょう!」と罵倒を受け、義妹に突き飛ばされたことがある。

 以降の課題は、アリッサ自身“かなり手を抜いて”取り組み、落第しないだろうギリギリのラインを保ち続けた。


 そんな生活も、実家を追い出される数か月前に無事終了したのだが。


 ――コンコン。


「どうぞ」


 実家に居た頃よりも肌ざわりの良い生地に心を弾ませてれば、不意にドアをノックする音が聞こえた。

 この世界で、長年貴族として生活を続けた影響か、条件反射として身に着いた返事が口をついて出る。

 すると、「失礼いたします」と断りを入れる女性の声が聞こえたのち、部屋のドアが開いた。

 そして、各自一礼したのち、三人のメイドが入室し、ベッドそばへやってくる。


「おはようございます、奥様」


 ベッド脇に一列に並んだ彼女たちは、すでに起きているアリッサの姿に眉を下げるも、すぐに表情、姿勢を正し深々と主人に頭を下げた。

 その後、昼間の予定を軽く確認したのち、メイドたちに手伝ってもらいながら着替えや朝の身支度を済ませていく。

 元日本人女性の意識がある以上、着替えなどはある程度一人で出来る。実家に居た頃も、大抵のことは一人でやっていたので大丈夫だ。

 なんて言葉を口にすれば、彼女たちの仕事を奪ってしまう。

 そのことをこの一か月間で学んだアリッサは、日々恥ずかしさを堪えて彼女たちから世話を焼かれることを享受している。


 着替えを済ませた後は、ヘアセットと軽いメイクだと、鏡台前の椅子に座るよう促され、大人しくそこへ腰を落ち着かせる。


「奥様、本日の髪型はいかがいたしましょう?」


「最近気温が高くなってきたし、昼間は街へ視察に行くから、歩くのに邪魔にならないようまとめてもらえる?」


「承知いたしました」


 背後にまわったメイドの一人からの問いかけを聞いたアリッサは、チラリとそちらに視線を向けつつ髪型のリクエストを伝えた。

 彼女の言葉に軽く頷いたメイドは、鏡台のそばにブラシや髪飾り、化粧道具など必要なものが乗せられた台車を引き寄せたのち、アリッサの髪を梳き始める。


(相変わらず目つきの悪い顔だこと)


 身支度を整えてくれているメイド以外の二人は、あれこれ、と着替えの際に迷ったドレスを片づけてくれている最中だ。

 そのやりとりをどこか遠くに聞きながら、アリッサは改めて鏡に映る“今世の自分”を見つめる。


 初対面の相手に、恐怖心を与えそうなほど吊り上がった瞳は、日本人だった頃にはカラコンでしかあり得なかった深紅色をしている。

 良く言えばキリっとした目元、猫目、などの表現はあるかもしれないが、出会って日の浅い相手からは、「機嫌が悪いのか」と戸惑われるほどに目つきが悪い。

 実家に居た頃、たまに出席していたお茶会の席にアリッサが姿を現せば、先に来ていた令嬢たちが揃って怯える姿を見た回数は軽く二十を超える。

 そして、今メイドに梳いてもらっている黒髪も、実家で生活していた頃は周囲を戸惑わせる要因の一つだった。


 どうやらアリッサが生まれた国では、“黒髪の女性”そのものが稀有なようだ。

 貴族の間では“魔女の生まれ変わり”と揶揄してくる者も多いと聞いたことがある。


 記憶の中だけの存在となってしまった両親の髪色はどちらも黒くなかった。そのため、それぞれの先代か、それ以前に黒髪の人間がいたため、隔世遺伝したのではないか、とアリッサは考えている。


 貴族社会で遠ざけられがちな黒髪に、血のように赤い瞳、初対面の相手に恐怖を与えかねない目つきの悪さ――など、複数の要因が相まって、アリッサは気づけばすっかり今期を逃した行き遅れ令嬢になっていた。





 背中まで伸びた長い黒髪が綺麗に結い上げられる様子を眺めていれば、あっという間に時間が過ぎていく。

 毎晩入浴の際に、メイド数人がかりでぴかぴかツルツルに磨き上げられる肌や髪の質は、実家に居た頃より格段に輝いているのがわかる。


 ――同じ伯爵家なのに、モナンド家より色々格上すぎない!?


 なんて、嫁いできたばかりの頃は困惑することも多かった。

 しかし、バルドラード家に嫁いで一か月の間に、彼女は何度も“格の違いを見せつけられて”きた。

 “伯爵という爵位”で、一見同じランクの家柄のように感じるものの、実際はまったく違う。

 伯爵は伯爵でも、バルドラード家の爵位は“辺境伯”――モナンド家より格上の家柄だった。


 結婚が決まったと伯父――義理の父親から告げられた時、アリッサは、「伯爵家へ嫁げ」としか言われていなかった。

 この事実を伯父家族は知っているのだろうか、と疑問が残る。

 けれど、今更親切丁寧に教える義理はないだろう。

 実の娘を溺愛する伯父夫妻なら、格上の家柄と知って、「やっぱり実の娘を嫁がせます!」などと言い出しかねない。

 そんなことになっては、バルドラード家の主であるユージーンに多大な迷惑がかかる。

 そして、“現在のアリッサ”も、居心地が良いこの屋敷での暮らしを手放したくないという想いが、日に日に強くなっている。


 朝の支度が完了したとメイドに告げられた彼女は、「いつもありがとう」とお礼を口にし椅子から立ち上がる。

 この屋敷へ嫁いだ当初、「ありがとうございます」「わからないことがあるので、教えてもらいたいのですが」など、アリッサが低姿勢な態度を崩さずお礼や謝罪を口にするたび、使用人たちはあからさまではないがわずかに目を見開き驚いていた。

 身支度を手伝ってくれるメイドたちへ、料理を作るシェフへ、もちろん彼らを取りまとめるジョルジュに対しても、感謝の気持ちを素直に伝え、間違った時には心から謝罪することを忘れず行ってきた。

 日本で働く社会人として“当たり前だったこと”が、この世界の貴族令嬢としては“どこか異質”に見られる。

 かと言って、これまでお茶会で出会った気の強い令嬢を今さら演じるなど自分には不可能。

 例え世間一般的な令嬢を演じられたとしても、いつか自分自身の精神バランスが崩れかねないと、アリッサは考えた。


 ――ただでさえ“変な子”として見られているなら、無理をして取り繕う必要はない。


 これが、この一か月間で自分なりに導き出した答えだった。

 



 鏡台を離れようと歩き出せば、そばに控えていたメイドたちが背後に付き従う気配を感じる。


(この、感じ……いつか慣れるのかなぁ)


 元日本人としての感覚が抜ける気配の無い自分に庶民思考を、喜べばいいのか悲しむべきなのか、と、頭を抱えたくなる思いのまま目指すのは、自室として与えられた部屋の一画。

 執事長のジョルジュの指示で用意してもらったテーブルの前で足を止めたアリッサは、スッと目を細めた。


「おはようございます。今日も一日、私たちを見守っていてくださいね」


 ――お父様、お母様、リカルド。


 まるで誰かに話しかけるように言葉を紡ぐ彼女の視線の先には、花瓶に生けられた色鮮やかな花々に囲まれた三つの骨壺。

 アリッサが前世を思い出したのと同時期に亡くなった、実の両親と、御者として同行していた使用人の遺骨だ。

 アリッサが生まれた国では、葬儀の際に日本にいた頃と同じく火葬をするのが習わしになっている。

 そのため、本当ならモナンド家代々の墓に両親の骨壺も一緒に埋葬しなければいけない。

 しかし、大人だった記憶が蘇ったと言っても、まだ幼かったアリッサは、骨だけになった両親をすぐに墓へ、という気持ちにはなれなかった。

 一番の理由はもちろん、モナンド家が伯父家族の支配下に置かれたため。


「お父様たちには申し訳ないけど……先祖代々のお墓に入れて、あの人たちの管理下に二人が置かれるなんて絶対に嫌!」


 という気持ちが日に日に強くなることもあり、アリッサは長年の間自室に骨壺を隠していたのだ。

 この十五年の間、誰にもこの秘密がバレたことはない。

 いや、アリッサの私室に立ち入る人間が滅多にいなかったことも相まって、単なるラッキーではなく必然だったのかもしれない。

 義両親や義妹はもちろん、伯父が新たに雇った使用人たちもアリッサの部屋に入ったことなど数えるほどしかない。

 

 伯父たちが家へ来る前に働いていた使用人たちは、気づけば全員解雇されていた。

 気づけば、義両親が新たに雇った者たちが屋敷内をうろつくようになり、アリッサは最低でも日に一回はこっそりため息を吐きながら生活していた。


 リカルドに関しては、彼の親族か友人が遺骨を引き取りに来るかと思って待っていたが、十五年経っても現れなかったため、今回一緒に連れてきたのだ。


 バルドラード家へ嫁いできた日、アリッサは骨壺が入った荷物だけは誰の手にも触れさせまいと必死になった。

 粗雑に扱われては困るのはもちろん、荷物の中身が遺骨だとわかれば、使用人たちが気味悪がると思ったためだ。

 しかし、あまりにも必死なアリッサの様子に疑念を抱いたジョルジュから、「私たちにも言えない理由が?」と問われ、最終的に骨壺のこと伝える流れになってしまった。

 それに伴い、モナンド家が伯父家族に乗っ取られた事実についても話すしかなく、決して耳障りが良くない話を出会って数時間の男性相手にする羽目になった。






 メイドたちを引きつれ自室を出たアリッサは、朝食を摂るため食堂へやってきた。

 と言っても、席についてすぐに食事が運ばれてくるわけではなく、“大事な存在”が到着するのを待つ間、彼女の前に置かれるのは食前酒ならぬ食前茶だ。


 今日の茶葉はアールグレイと聞いて、口元へ近づけたカップから香るベルガモットの香りを堪能していれば、「奥様」と背後から自分を呼ぶ声が聞こえた。

 カップをソーサーの上に戻して後ろを振り向けば、屋敷勤めの男性使用人と目が合い、軽く頭を下げられる。


「こちら、旦那様より届きました手紙になります」


 そう言って彼が差し出してきたのは、封蝋印――シーリングスタンプがが押された封筒とペーパーナイフが乗った銀のトレーだ。


「ありがとう」


 バルドラード家の印が押されたそれを手に取ったアリッサは礼を口にし、もう片方の手をナイフへのばす。

 スッと、ナイフの刃を入れて開封し中から便箋を取り出す彼女の姿を見た男性は、テーブルの上に封筒とナイフが乗ったままのトレーを置き一礼しその場を離れていった。


(本当に筆まめよね、ユージーン様ったら)


 ティータイムを一時中断したアリッサは、そのまま届いたばかりの手紙の文面に目を通し始める。

 今は王都にいる旦那様――ユージーンと文通するようになり、もう何度彼から手紙が届いただろう、なんてぼんやり考える。


 最初に手紙を送ったのは、アリッサからだった。


 顔すら見たことがないものの、自身の夫となる相手の体調を気遣う文面から始まり、自分のことは気にせず仕事を頑張って欲しいことを伝えた。

 もちろん、頑張れと言っても無理だけはしないで欲しいという念押しも忘れない。

 そして、今回結婚を承諾し、バルドラード家に自分を迎え入れてくれたことに対しても感謝の言葉を綴った。


 その手紙を、ついでの時に旦那様へ届けてほしいとジョルジュに頼むと、ユージーンへ定期連絡を入れる手紙と一緒に届けてもらえた。

 すると、二日後にはユージーンから返事が届き、思いもしなかった返事をもらったことにアリッサは戸惑いを覚えた。

 以降、二人は文通で交流を深めてきた。

 最初は定期報告時に一緒に送ってもらっていたが、「お好きな時に書いてください。きちんと旦那様へ届けますので」と言われて以降、返事が届いた日の夜には便箋に文字を走らせている。





「おかーしゃま!!」


 ユージーンから届いた手紙の内容に、つい頬を緩めていれば、食堂入口から可愛らしい声が自分を呼んでいることに気づいた。

 手元へ落としていた視線を顔ごと上げると、小走りでアリッサのもとへ近寄ってくる幼児の姿が目に飛び込んでくる。

 その姿を目に留めたアリッサは、手紙をテーブルの上に置いて椅子から立ち上がり、一歩前へ踏み出した両膝を折ってその場にしゃがみこむ。


「おはよーごじゃいましゅ。おかーしゃま!」


「っ!! おはよう、カイル。今日も朝のご挨拶、きちんと出来て偉いわ」


「えへへー」


 スッと両腕を広げるのと、アリッサの胸に飛び込む勢いで子供が抱き着くのはほとんど同時だった。

 アリッサは、腕の中に閉じ込めた子供の髪を優しく撫でながら、彼――カイルを誉めていく。


 アリッサを“お母さま”と呼ぶ子供――カイルは、ユージーンの許可を得て共に暮らしている。


 彼と出会ったのは二週間ほど前。

 メイドと護衛騎士数名に付き添われ、郊外まで視察の足をのばした時、道端に倒れた馬車を発見した。

 全身傷だらけで虫の息状態の馬の近くに倒れていた男性と、荷馬車の中で泣き声をあげるカイルを守るように抱きしめこと切れていた女性。

 慌てて護衛をしてくれていた騎士たちに状況を確認してもらったが、大人たち――カイルの両親と思わしき男女はすでに息をしていなかった。

 騎士たちの見立てによると、カイルたちは親子三人で行商人をしており、積んでいた荷物を野盗に強奪されたのでは、ということだ。

 そのまま亡骸を放置しておくわけにもいかず、騎士の一人に応援を呼びに行ってもらうと、応援の騎士と一緒に血相を変えたジョルジュがやってきた。

 その後、皆の協力を得て、荷馬車の後処理や両親の亡骸の移動を移動させた。

 道中、アリッサは唯一生き残ったカイルを抱きかかえ、泣きつかれて眠ってしまった幼子に、在りし日の自分の姿を重ね胸を痛めた。



 カイルは目を覚ましてからの数日間、アリッサが常にそばにいないと泣いてばかりだった。

 父親が持っていた身分証から、夫妻が所属する商会に事情を説明しカイルや両親の遺体を引き取ってもらう手はずを整えようとしたが、そう上手くはいかなかった。


 カイルの両親は、駆け落ち同然でそれぞれ家を出た平民であり、カイルを引き取れる人が見つからないのだ。


 そう言った場合、普通なら国が運営する孤児院にカイルを預けることになるが、自分と手をつないでニコニコ笑う小さな存在をアリッサは手放せなくなっていた。



 ――この子を我が子として今後育てていきたく思います。ユージーン様のご迷惑になりかねませんので、離縁していただけませんでしょうか。



 この世界、女一人で子供を育てること自体、日本でシングルマザーとして生活していくより何倍も過酷だ。

 その結論を自ら導き出すのと同時に、覚悟を決めたアリッサは、せっかく自分を受け入れてくれたユージーンに申し訳ない気持ちを抱きながらも、離縁を申し出る手紙を彼へ送った。

 すると、いつもは手紙を出して二日ほど経った頃に来る返事が、一日と経たずに届いた。

 要約すれば、“自分が戻るまで離縁の話は待って欲しい。その間、子供を屋敷に滞在させてもかまわないから”という現状維持を提案する内容だった。


 なんてひと騒動があり、現在アリッサは我が子にすると決めた愛しい存在と共にバルドラード家にお世話になっている。


「さぁ、カイル。朝ごはんにしましょうか」


「うん!」


 仕立ての良い子供服に身を包んだ我が子を抱きかかえ立ち上がれば、キャッキャっと腕の中ではしゃぐカイルの姿に自然と気持ちと頬が綻んでいく。

 アリッサには、伯父家族と一緒に食事をした記憶が一切ない。

 実家にいた頃の食事は、一日三食、使用人が部屋へ持ってきた料理を一人で食べるだけだった。

 何も知らない子供なら、義理とは言え家族から蔑ろな扱いを受ける状況に絶望するだろう。

 けれど、元成人女性の意識を覚醒させた彼女にとっては、自分を虐げる存在と食事をする方が苦痛だ。

 その点に関して有り難いと思う反面、運ばれてくる食事を見るたび、アリッサは、「またか……」とため息を吐いた回数は数知れず。

 伯父家族が口にしていた食事がどういうものだったかは知らない。

 しかし、アリッサに出された料理は明らかな手抜き料理ばかりで、「これ……使用人たちが食べたあまりじゃない?」と思うメニューの時もあった。

 そこで騒ぎ立てることが、一介の令嬢として正しい反応なのかもしれない。

 とは言うものの、騒ぎを起こして伯父夫妻からより一層不興を買うことは避けたいと、何度も我慢してきた。


 なんてことがあったからなのか、バルドラード家に来てから食べた料理は元庶民感覚が抜けないアリッサにとって、“毎食レストランやホテルで食事をしている”のと同義でしかない。

 詰め込み教育でしかなかった食事マナーを覚えていて本当によかったと、爪の赤程度ほどの感謝をほんの一瞬義両親へ向けてしまう。


 その場に立ち上がるのと同時に、カイルを抱き上げれば、腕の中にいる存在の笑顔がより一層輝いて見える。

 彼を保護して以降、数人の使用人たちに見守られながら食べる静かな食事時間がにぎやかになった。

 立場上手料理を食べさせてあげられないものの、基本的にカイルに食事を食べさせる役目はアリッサが行っている。

 最初の頃は、「私たちがお世話しますから!」とメイドたちが慌てふためいたものの、自分がやりたいのだとアリッサが主張したことで、手伝い程度の行動に留めてもらっている。


 腕の中にいるカイルに、「今日のご飯は何かしらねー?」と話しかけていた時。

 スススッと、銀のトレーを持った一人のメイドがアリッサたちのそばへ近づくのが見え、何かあったのかと視線と意識がそちらへ向いた。


「奥様。こちら、旦那様から届きましたカイル様へのお手紙になります」


「えっ?」


 聞こえてきた言葉に驚いたアリッサは、思わずポカンと数秒呆けたのち、恐る恐るメイドが手にするトレーへ視線を落とした。

 そこにあったのは、自分宛に届いたものと同じ封筒に入った手紙だ。唯一違う点を挙げるとするなら、宛名が“カイルへ”となっていることくらい。


「どうして、ユージーン様がカイルに手紙を?」


「奥様が旦那様へ手紙を書いていることをお知りになったカイル様が、ご自分でも手紙を書いてみたいとおっしゃって。僭越ながら、私が代筆を」


 カイルがこの屋敷で暮らし始めてからも、アリッサとユージーンが手紙のやり取りをする機会は何度かあった。

 その際に、アリッサは、ユージーンへの手紙にカイルが描いた絵を本人の許可を得て何度か同封している。

 すると、ユージーンはアリッサ宛の手紙に絵の感想を添えることが多く、これまでは毎回それを彼女がカイルに伝えていた。


 しかし今回は、代筆のもとカイル自身もユージーン宛に手紙を送ったことを知り、内心驚きを隠せない。

 まだ一度も会ったことのない赤の他人に対し、二、三歳程度の子供が興味を示すという展開は、普通あり得るのだろうか。


(旦那さんが単身赴任状態で、久々に家に帰ってきた時、“おじさん誰ー?”って、子供がパパを認識しなかったって、前に伯母さんが言ってたような……)


 なんて、日本にいた頃親戚から聞いた笑い話を思い出しつつ、自分たちのそばに控えたままのメイドへ視線を向ける。

 彼女は、カイルのお世話をしてくれるメイドの中で一番彼が懐いている女性で、彼女自身もカイルを可愛がってくれている。

 アリッサが街へ視察に出かける時などは、ここ最近、「一緒にお留守番しててね」と彼女と一緒にいるよう言い聞かせることが多かった。

 最初は彼女の言わんとすることが伝わらず、カイルはキョトンと首を傾げたままアリッサを見送っていた。

 けれど、数時間の視察を終えて屋敷へ戻ってくれば、目に一杯涙を浮かべたカイルが突撃する勢いで抱き着いてきたため、寂しい思いをさせたとわかる。

 以降、「お仕事をしに行くだけ」「ちゃんと戻ってくる」「お菓子を買ってくるから、ご飯の後に一緒に食べよう」など、いくつも約束をしてから出かけるようになった。

 そのお陰もあるからか、最近では出かける際に若干寂しそうな表情を見せるものの、精一杯の笑顔で見送ってくれるようになった。






 ――夕方。

 アリッサは、街中から屋敷へ戻るための馬車に揺られていた。

 同じ空間には、視察に同行してもらったメイドと護衛騎士がそれぞれ一人、そして御者台にもう一人の騎士が座り馬たちの手綱を握ってくれている。


 しばらく窓から見える外の景色を眺めたのち、膝の上に置いたままになっていたモノをスルっと撫でた。

 街での視察中立ち寄ったお店で買ったマドレーヌに似た焼き菓子だ。

 これなら、まだ幼いカイルと一緒に食べられると思い、プレーン味のものを購入してきた。


「カイル様のために色々菓子の研究をしたいのですが……何分時間が取れず」


 なんてボヤいていたお屋敷お抱えの料理人たち、そしていつもお世話になっている使用人たちへのお土産もしっかり買い込み、馬車内に積んである。

 支払いには、アリッサが“自力で稼いだお金”を使っている。


(最初は、私を受け入れてくれた恩返しのつもりで始めたことなのに……)


 再び窓から見える景色を眺めながら思い出すのは、ここひと月に起きた様々な出来事だ。


 屋敷に嫁いできた貴族の奥様としてふんぞり返って生活する……なんてことが出来るわけもなく、彼女はこの一か月間、毎日のように“自分に出来ること”を探しながら生活していた。

 実家にいる際、暇を見つけてありとあらゆる本を読んで吸収した知識や、現代日本で生活していた頃の知識を生かせればと思っての行動だった。


 最初に行ったのは、 屋敷で働く料理人やメイドたちの手荒れ、騎士や男性使用人たちの筋肉疲労軽減のために、皆の協力を得て低価格でも効果のある保湿クリームや湿布薬づくり。

 自分用に、という下心ありきで作った品々だったが、思いのほか好評でアリッサ自身驚きを隠せなかった。

 他にも、ある時領地の経営に関する資料やお金の動きが書き込まれた大量の書類を抱え歩いているジョルジュとぶつかった事から発展した事案もある。

 ジョルジュから、「拾うのは私共がやりますので!」と静止されたにも関わらず拾った書類を目にし、彼女は、「もっと見やすく出来るのでは?」と考えたのだ。

 そこから、元社会人として働いていた時に得たノウハウを元に、見やすさ、作成のしやすさなど、なるべく無駄なものを省いたテンプレになる書類の型紙を作った。

 まだ試作段階のものをジョルジュに見られ、色々自分なりの改善点を説明したところ、「素晴らしいです奥様!」と歓喜された。

 屋敷外のこと――領主の妻として領民たちにも、もちろん目を向けたい。

 なんてことを常々考えていたアリッサは、まだ領主であるユージーンの妻とバレていないことを良しとし、護衛騎士と共に平民を装い、色々情報収集に明け暮れていた。

 そこから色々改善策を思案し、「こういうことを、考えてみたのですが……」とユージーンへ宛てた手紙に綴ると、「ジョルジュにも話してみてはどうか」と好感触だった。

 今では、すっかり身バレしてしまったため、バルドラード家の女主人として街へ出向き、領民たちと交流を続けている。




(夕食のあとのデザート……カイルは喜んでくれるかしら)


 再び視線と意識を手元にあるお菓子へ向け、屋敷にいるメイドたちと遊んでいるはずの息子へ思いを馳せる。


「奥様、お祭りの企画、旦那様から許可が出てよかったですね」


 その最中、ふと隣に座るメイドの弾む声が耳に届いた。


「本当ね。まさか……許可を出してくださるとは思っていなかったわ」


 その声に反応して顔を上げたアリッサが苦笑いを浮かべると、「当たり前じゃないですか!」と若干興奮気味な騎士の声が向かいの席から聞こえてくる。


「奥様のおかげで、領地内の問題の可視化がより鮮明になりました。それに報告書だって……これまでより格段に書きやすくなったと皆喜んでいますよ!」


 ――俺たちや領民のために心を砕いてくださっている奥様からの願いを、旦那様が無下にするはずありません!!


 目をキラキラ輝かせ、フンっと鼻息荒く力説を続ける彼の言葉を聞いたアリッサは、あまりの熱弁ぶりに驚きを隠せない。


 魔女の生まれ変わりだなんだと後ろ指ばかり刺されて生きてきた自分を、嫌悪することなく温かく迎え入れてくれた人々の喜ぶ顔が見たい。

 そんな気持ちで始めた屋敷内や領地での改革案は、一つ一つは小さいものの確実に実って成果へ繋げてくれている。

 まだ見ぬ旦那様にも、ジョルジュから報告が行ったようで、「怒られるかもしれない!」と初めは戦々恐々とするばかり。


「ジョ、ジョルジュさん! 旦那様に報告なんてしなくていいんですよ!」


「そういうわけにはいきません。奥様の素晴らしい功績は、しっかり報告させていただくのが私の役目でございますから」


 自分の暴走がユージーンの知るところとなり、これ以上の報告を待って欲しいと懇願した。

 けれど、輝かしい笑顔を浮かべる執事長を前にすれば、元庶民でしかないアリッサは何も言い返せなかった。


 ――男の自分では、目の届かなかったことによく気づいてくれた。感謝する。


 どれほど怒られるだろうとビクビクしていたが、数日後に届いたユージーンからの手紙に綴られていたのは、お咎めではなくたくさんの感謝の言葉だ。

 それまでよりも一枚多くなった便箋には、「また何か思いついたことや気になったことがあれば、使用人たちと相談して進めてかまわない」とまで書いてあり、直接話したことすらないにも関わらず多少なりとも信頼を得られた安堵感と同時に、それを上回る緊張を感じてしまった。


 自分勝手な行動を許されただけに留まらず、多方面からの称賛、感謝の嵐――初めてのことばかりが巻き起こり、アリッサはずっと困惑の日々を過ごしている。

 今まで感じたことのない戸惑いは、落ち着くどころか日を追うごとに色濃くなり、最近の彼女にとって悩みの種の一つになっている。

 日本人だった頃の彼女は、いわゆるブラック企業勤めだった。

 任された仕事をやり遂げても些細なことで難癖をつけられ、認められる、感謝されることは無かった。

 そんな状況で、異世界に生まれ落ちたことを自覚しはや十数年。もちろんその間も感謝などされた記憶はない。

 気を抜けば、“他人からの優しさ”を忘れそうになっていたところに、ここ一か月間の“優しさと親切の過剰供給”を受け、彼女の頭と心はいつ爆発してもおかしくないほど、精神が置いてきぼりになっている。

 しかも、屋敷や領地での生活水準向上に貢献したとして、“正当な報酬と称したお小遣い”をジョルジュからもらっている。

 もちろん、そんな指示を出したのはユージーンだ。


 先ほどメイドがはしゃぎながら口にした“お祭りの企画”も、旦那様からのご褒美の一つだ。


(このくらいの小さな子供でも楽しめる何か……無いかなぁ)


 カイルと暮らすようになり、もっとこの子の笑顔が見たいと頭を悩ませたアリッサが思いついたのがお祭り企画だった。

 彼女の頭の中に思い浮かんだのは夏祭りだった。

 催し物なら、カイルだけではなく領地で暮らす子供や大人、老若男女関係なく楽しめると考えたのだ。

 と言っても、夏が始まったばかりの今日この頃。

 今から企画のブラッシュアップ、領民たちへの説明、出店の出店者を募り、そこから新たな打ち合わせと、準備段階ですでにやることが多い。

 そのため、夏の間にお祭りを開催するのは難しいと考え、“秋の収穫を祝う祭り”に切り替えることにした。

 これまでにも秋の収穫をお祝いすることはあったようだが、各家庭でその日の食事が少し豪華になる、程度のものばかり。

 領主を務める貴族が率先して計画した催しなどは、今回が初めてらしく、これからのことを考えると問題や山積みかもしれない。


「おまちゅり!?」


 朝、ユージーンから届いた手紙にお祭り企画の承諾と、運営責任者をアリッサに一任するという内容が書かれていた。

 お許しが出たため、「楽しいことをするのよ」とカイルに教えたところ、初めて聞く言葉に目をキラキラ輝かせていた。

 まだ何も始まっていない今からあの笑顔を見せてくれるなら、当日はどれほど喜んでくれるだろう。

 まだ見もしないカイルのはしゃぎっぷりを想像するだけで身体の底からみなぎるやる気を感じ、夜遅くまで企画書と向き合う自分を簡単に想像出来た。





その後、無事屋敷に戻った馬車を降りたアリッサは、自分の帰りを待ちわびているだろう可愛い義息子のもとへ急ぐ。


「おかーしゃま、おかーりなちゃい!」


 正面入り口の扉が開いた先――エントランスホールには、今日も愛らしい笑顔で母をいたわってくれるカイルの姿があった。

 しかし、アリッサの姿を見つければ、メイドたちの焦った静止も聞かずいつも一目散に駆け寄ってくる姿はそこにない。



 アリッサの帰宅を知ってはしゃぐ、普段以上にご機嫌なカイルがいるのは見知らぬ男性の腕の中だった。

 いつもお世話になっている護衛騎士たちは、普段から鍛錬を欠かさないようで皆揃いもそろって筋肉質な体系をしている。

 しかし、カイルを軽々と片腕で抱き上げるその人は、彼ら以上に筋骨隆々で体格が良い。

 ムキムキな筋肉を覆い隠すのは健康的な印象を抱く色黒な肌。

 それとは対照的に、短く刈り上げられた白銀色の髪もよく目をひく。

 鋭い目つきでアリッサを見つめる彼のエメラルドグリーンを彷彿とさせる色合いの瞳に、意識と身体を絡めとられていく。


(何か、言わなきゃっ!)


 せっかく愛しいカイルが帰宅を喜んでくれているのに、すぐさま返事をしてあげられない。

 いつもならあり得ない状況に強い戸惑いを抱きながら、アリッサはハクッと短い吐息を吐き出すことしか出来ない。




「おかーしゃま、あのね、あのね……おとーしゃまなの!」



 そんな中、カイルの口から無邪気すぎる爆弾が投下され、その言葉は数秒遅れでアリッサの耳へ、さらに脳へ届いた。




 ニコニコと笑顔を振りまきながら、自分を抱きかかえる厳つい顔の男に、スリスリと頬をすり寄せて甘える。

 一見愛らしいとしか思えない光景を素直に喜び、受け入れようという気持ちが、一ミリも湧いてこない。




(うそ……でしょう)




 次第に頭の中が白くぼやけ何も考えられなくなるなか、アリッサは目の前に突きつけられた現実を辛うじて認識する。




 いつかは屋敷へ帰ってくるだろうと漠然と認識していたこの家の主――ユージーン・バルドラード辺境伯が今ここに舞い戻ったことを。


 どういうやり取りがあったかは不明だが、自分が屋敷を離れたたった数時間の間にカイルがユージーンを“父親認識”してしまったことを。




 そして――。




 日本で暮らしていた頃から数えて数十年――筋金入りの喪女である自分の平穏な時間が、強面イケメンな旦那様の帰宅により終わりを告げた事実を。








   おわり




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