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記憶の中だけに存在する大切な友情

作者: 楓子

あれは何歳の時だっただろうか。 5歳か、6歳…小学校に上がる前だったと思う。

私は、家の近所でバイクに牽かれた。 不思議なことに、私は怪我ひとつ負うこともなく、そのまま父と歩いて帰宅したのだった。            


なぜバイクに牽かれたのか、その瞬間の痛みさえも、何ひとつ記憶に残っていない。

ただ、そのとき、私のそばにいた幼馴染の男の子の顔だけは、今でもはっきりと覚えている。

私と同い年か、1つか2つ年上の男の子。年を重ねた今では、名前がどうしても思い出せない。ただ、確か「しゅう」がついていたような気がする。特に背が高いわけでも低いわけでもないが、色白で透き通るような肌は、光をまとっているように見えた。そして、その時の優しい笑顔、それと最後に私を突き放すような姿…その両方が、何よりも印象的だった。


その後、近所を歩いていると、遠くから彼がこちらを見つめている姿を見かけたことがあった。しかし、幼い頃の私は、極度の人見知りで、自分から話しかけに行くことはできなかった。やがて、彼を見る機会は少しづつ減っていき、気が付けば、姿を見かけることもなくなっていった。『黙って引っ越しちゃったんだな!?』と、小学生だった私は、勝手にそう思っていた。それでも、ふとした瞬間に『彼に会いたいなぁ』と思うことはあった。しかし、あの頃は携帯電話もなく、どうやって連絡を取ればよいのかもわからなかった。


社会人になった頃、父とあの時のバイク事故について話す機会があった。 私は、ずっと気になっていた幼馴染の男の子について父に尋ねた。 すると、父は不思議そうな表情を浮かべて、こう言った。

「あの時、幼馴染の男の子なんて、いなかったよ」って。

父の話によると、私がバイクに轢かれたと近所の人が慌てて知らせに来てくれたので、父は急いで現場に向かったそうだ。するとそこには、すでに起き上がっている私の姿があり、その横では、近所に住む△△さん(父から名前を聞いたが忘れてしまった)が、バイクの運転手を激しく怒鳴っていたという。周囲には、私を心配する近所の人々や野次馬も集まっていたが、私のいう幼馴染の男の子の姿はなかったようだ。

「幼馴染の〇〇君。事故の時、ずっとそばにいてくれたんだよ」

と、私が言うと、父は首を傾げた。

「いったい誰のことを言っているんだ。第一、近所に〇〇君なんて男の子はいないよ」と。

すぐに母にも確認しに行った。 けれど、母の返事も父と同じだった。

「いったい誰のことを言っているの?近所の〇〇君なんて男の子、知らないわよ」と。


事故の時、彼が私のそばにいてくれたから、すっごく怖かったけど、少しだけ安心できた。でも、倒れている私が、助けを求めて手を差し出した時、彼は、その手を見つめて、そっと突き放した。彼のその行動がずっと理解できなかったけれど今は、「こっちの世界に来てはダメ!」と、私を戻してくれたのかもしれないと思っている。


彼が誰だったのか、今でもわからない。彼は私を守るために現れたのだろうか。 私を助けてくれた幼馴染は、実在しなかったのだろうか。 でも、あの時、私を守ってくれたのは確かに彼だった。 それだけは、誰に否定されても、私の中では真実なのだ。そして、彼の存在は、今でも私の心の中でずっと生き続けている。私の記憶の中だけに存在する大切な友情だ。


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