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Interlude~Contact


~Side/Toka Himeduki


目が覚めたときの体調は最悪だった。

頭は何かで殴られているかのようにガンガンと痛み、

まるでインフルエンザにでもかかったかのように、身体は高熱を発している。

ゆっくりと寝ていた身体を起こすと、部屋の空気が肌を撫でる。

別段、熱いとも冷たいとも感じない程の気温なのにとても寒く感じる。

肌が敏感になっている。服が軽く擦れるだけで感じるこの感触は痛みだ。



ボーっとしながらも、この原因について考えてみる。

基本的に普段から体調には気をつけて生活をしているつもり。

現に、昨日までは特に問題はなかった。

窓を開けたまま寝たわけでもないし、エアコンを付けていたわけでもない。

となると、原因は…



「…ああ、またですか…。」

この突然の身体の変調。

その原因に行き着いた私は、痛む頭を抑えながらもため息を零した。


母曰く、これは遺伝とのこと。

と言っても、うちの家系の人間全てが引き継ぐものではなく、

身体に「印」をもって生まれた者のみ、この症状が出るのだとか。

「印」といってもこれは繕って言ってるだけで、実際はただの痣。


私が…いえ、この家系の人間でも分かっているのはそれくらい。

この「印」自体が一体どんな意味を持っているのかは分からない。

ただ、「印」を持って生まれた場合は色々と制約が課せられて―――



…まあ、今はそんなことはどうでもいいですね。



今日は2学期が始まる始業式。学生(わたし)にとっては本来の(むいみな)生活が始まる。

動こうとすると身体は悲鳴を上げるけど、それを無視して支度を始めた。


時間が経てば綺麗さっぱり、その日のうちにこの不調は無くなるのだから。
















と思っていた時期が私にもありました…とでも言えばいいのだろうか。


「…ぅー…誤算だったかも…しれませんね、これ…。」

そう言いながら私が歩いているのは学校の廊下。

支度を整えて学校へ行き、始業式に出た…ところまでは良かった。

けど、思った以上に身体の不調は大きかったらしい。


今は式を抜けて保健室に向かっている最中。

…実はどのような経緯でこうなったのか、把握しきれていなかったりして。

さらに言うと、思考はこうして冷静のように装っているけど、

目の焦点は合わず、前方がぼやけて見えている。


正直、この遺伝病―――と私は呼んでいる―――でここまで体調を崩したのは初めて。

いつもなら時間が経てば、少しずつ緩和されていき、

少なくとも起きたばかりの時よりは軽くなっているはず。

でも今は、そんな兆しは全く見えなくて…。

自分でも分かる。このフラリフラリと不安定な足取りが。


とりあえず、鏡矢(かがみや)先生―――養護の先生―――に言われたとおり、

保健室のベッドで眠らせてもらおう。




なんて思いながら、廊下の角に差し掛かったところだった。


「きゃっ!?」

「うぇ!?」


自分が何かにぶつかる衝撃。

反動でバランスを崩し、そのままペタンと座り込んでしまった。


「ご、ごめん!大丈夫?」

目の前にある何かから声をかけられた。


…ああ、出会い頭に誰かとぶつかったんですね、私。


でも、正直なところ今はそれどころではない。

顔からぶつかった衝撃のせいか、先ほど以上に頭が変な感じに。

擬音を付けるなら、頭の中がポワンポワンしているというか。

…うん、意味がわからない。相当キてるのかも。


「…あれ?姫月?」

声をかけても反応しない私に焦ったのだろうか、

前にいる人が心配そうに声をかけてくる。


…今、名前を呼ばれた?

ということは、目の前の人は自分の見知った人なのだろうか。

顔を上げ、ずれている焦点をなんとか合わせる。


「…えっ…?あ、えっと…蒼咲君…?」


私の前にいたのは、クラスメイトの男の子だった。




蒼咲君は私の手を取り、立ち上がらせてくれる。

自力で立てるか不安だった私には非常にありがたかった。


「怪我は無い?」

「あ…はい。ごめんなさい、手を煩わせてしまって…。」


それと同時に、申し訳ないという感情が沸き起こる。



自分で言うのも何だけど、私はこの学園にとって問題児だ。

と言っても何か問題を起こしたわけではないですが。

むしろ、成績と態度だけを見れば、世間一般に言う"優等生"に当てはまるはず。

自画自賛するつもりは無いけれど、そう見えるように努力してきた…つもり。

…まぁ、そうせざるを得なかったというのが本当の話だけど。


ただそれとは対照的に、人付き合いを完全に遮断して過ごしてきた。

勿論"優等生"という体裁は崩さないよう、話しかけられたら相応の応対はした。

けれど、気づいたら身も蓋も無い噂が広まっていて、忌諱される存在となっていた。

先生は腫れ物を触るように私を扱い、同級生は遠巻きにそれを見ている日々。


そんな私を見かねて…なのかもしれない。

蒼咲君は何彼と気を使ってくれるようになった。


最初はクラスの中で孤立しないように、色々計らってくれていて…

私自身にその気が無いことに気づいてからは、そういうことはしなくなったけれど、

今までどおり、私に接してくれている。


彼がどうしてそこまで気にかけてくれるのかわからない。

私と親しくすることで生じるメリットはほぼ無く、むしろデメリットの方が多いはず。

…私を心配してくれているのはきっと本心なんだろうなと思う。


だからこそ、申し訳ないと感じてしまう。

私にはそんな資格は無いというのに、甘んじてその好意を受けていることに。





「てか、姫月は何でこんなところに?まだ始業式の途中じゃないの?」


感慨に耽っていた私を、現実へと引き戻す声。


「その…体調が悪くなってしまって、今から保健室に向かう途中なんです…。」


先ほどまでは考え込んでいたおかげで、意識から抜けていたのかもしれない。

改めて自分で口にしたことで再度身体が不調を認識したのか、

急に身体が重く感じ、また焦点が合わなくなってきた。

これは、本格的に不味いかも。





…そういえば、なんで蒼咲君がここにいるんだろう。

まだ始業式は続いているはずなんだけど。




「…よし、保健室まで付き合うよ。ぶつかったお詫びお詫び。」

「え…そういうわけには…。」


今更ながら、体調不良を口に出したのは失敗したと思う。

目の前でそんなことを言われてしまえば誰だって気にかけてしまうのは普通だろうし、

優しいこの人が付き添いを買って出るのは容易に想像できたはず。


そして断ろうとした私の言葉は続かない。

こちらが彼の取る行動を想像できたように、あちらも私の返す返答を想像できるわけで。

私が言葉を紡ぎ終える前に、サッとこの手を取ると保健室の方へと歩き出した。


ああ、もう。

体調が悪いからなんて言い訳を考えるつもりはないけれど、

ここまで考えが至らない今の自分が情けなくて仕方がない。



「いやー、もうどうせ遅刻であることには変わらないし。まあ…遅刻の理由が欲しかったからちょうどいいよ。」


ニヤリと顔を歪めながら、打算的であるように彼は言う。




ああ、もう。貴方は本当に優しすぎる。

どうして、何処まで嫌われ者(わたし)を気にかけるんですか?


そうやって、こちらに気を使わせないようにして。

遅刻の理由が欲しいなんて…そんなこと思ってないの、バレバレなんですよ?










それはそうと、遅刻したから(だから)こんなところにいるんですねこの人は。

全く、新しい学期を遅刻して始めるなんて、怠慢な証ですよ。


…まあ、この状況では絶対に言えませんけど。



そんなことを考えていたから、きっと気づかなかったんです。

この小さなひと時が楽しいと感じてたことなんて。

身体を覆っていた不調が、この時だけ気にならなくなってたなんて。


知らず、私の顔から笑みが零れてた…なんて。






~Side Out/Toka Himeduki

ヒロインさん視点のお話。

ここに挟む必要は無かったのですがいつかは入れなきゃいけなかったので。



しかしこれだけ見るとかなり暗い人に見えそう…。

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