表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レイクス戦記  作者: ゆう
時の始まり
3/24

聖都へ

第二話 聖都へ


雪原を渡る足音は、ただ一人分。

振り返れば白に埋もれる道を、レイクスは黙々と歩んでいた。

外套の内に抱く遺骨の包みは、歩みのたびに重さを主張し、鎖骨の上で香草袋が微かに揺れた。


――「もうすぐ……一緒にお母さんのお墓にいけるね」


セラの声が胸の奥で響いた。

レイクスは短く頷くだけで答え、雪道を進む。



峠を越えると、白亜の尖塔が雪雲を突き抜けるように現れた。

聖都エルディナ。女神信仰の中心にして、人々の憧れの地。


街道には巡礼者が列をなし、祈りの声を合わせていた。

「女神よ、我らを守りたまえ……」

老女の震える声、子どもの澄んだ歌声が重なり、

聖泉から漂う水霧が光を受けて揺れ、街全体を神秘の色に包んでいた。


レイクスは遺骨を抱き直す。

――ここに彼女を帰す。



大聖堂の前、整然と並ぶ第一騎士団。

白銀の鎧と蒼布を纏い、雪を背に立つその姿は威光そのものだった。

そして中央に立つ一人――


アルミナ・セラフィム。

第一騎士団長。聖女の盾と呼ばれる存在。

その瞳がレイクスを射抜いた瞬間、周囲の巡礼者は息を呑み、沈黙した。


「……お前が国境の街を救った剣士か」

アルミナの声は冷ややかに澄み、祈りの歌を断ち切る。


レイクスは外套を整え、膝をつき、深く頭を垂れた。

「この地に眠る者の墓へ、ひとりを帰したい。……許されるだろうか」


アルミナは一歩近づき、見下ろす。

「ならば、あれほどの力を振るったのは何のためだ。

 人々は口々に感謝しているぞ。お前は誇るべきだ」


レイクスは顔を上げずに答えた。

「……私は何もしていない。ただ彼女との約束を守っただけだ」


沈黙が落ちた。

巡礼者たちはその言葉にざわめいたが、アルミナはただ深く息を吐いた。


「……名を問うても答えぬのだろうな」

「……名乗る理由はない」


短いやり取りの後、アルミナは聖泉の方を指し示した。

「聖泉はすべての者を拒まぬ。墓参を望むなら、行くがよい」


レイクスは深く頭を下げ、低く告げる。

「恩に着る」


再び立ち上がり、白亜の街路を進む彼の背を、アルミナは長く見送っていた。

「……約束のためにだけ剣を振るう者か。人のためでも己のためでもなく――ただ約束を」


雪に混じる祈りの声を背に、レイクスは聖泉の方へと歩を進めた。

香草袋が揺れ、その響きは、セラが隣を歩いているかのようだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ