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レイクス戦記  作者: ゆう
時の始まり
2/24

襲撃のゴブリン

# 第一話 襲撃のゴブリン


街の空は赤く染まっていた。

雪明かりを覆い隠す炎の反射が、不吉に街を照らす。

防壁は破られ、瓦礫と血が雪に散っていた。

女と子どもが泣き叫び、広場へと押し寄せる。


「押し返せ! 盾列を崩すな!」

怒声が響き、分厚い盾の列が必死に槍を突き出していた。

それはエルディナ第二騎士団――鉄壁の名を持つ軍勢。


だが、迫るゴブリンの群れは倍以上。獣じみた咆哮と太鼓の響きが街を震わせ、盾列はじりじりと押し下げられていた。


---


その時、街道から一人の男が歩み出る。

レイクス。


外套を払い、剣を抜いた瞬間、雪明かりに雷光が閃く。

稲妻を纏った刃が一閃し、突進してきた数体のゴブリンがまとめて斬り伏せられた。

黒い閃光が群れを弾き飛ばし、焼け焦げた影が雪に崩れ落ちる。


「……何者だ」

盾列の後方から低く響く声。

鋼鉄の鎧に長槍を構えた男――第二騎士団長、ゼノス・ハルバート。


彼の眼差しは怒気ではなく、戦場を統べる者の威圧に満ちていた。


「この街は我らが守る。だが――今は力が足りぬ」


その言葉に兵士たちがざわめく。

「団長が……助力を……?」

「ならば、あの剣士は……」


ゼノスは槍を掲げ、続けた。

「剣士よ、並び立て。指揮は私が執る」


レイクスは振り返らず、わずかに頷いた。

「……わかった」


---


ゴブリンの群れが雪崩のように押し寄せた。

盾列が軋み、兵士が必死に支える。


その頭上に雷鳴が轟き、黒い閃光が雪を薙ぎ払う。

焼け焦げた臭いが広がり、敵の咆哮が恐怖に変わった。


「す、すげぇ……!」

「人がやっているのか……」

兵士たちの声が漏れる。


「今だ! 前へ!」

ゼノスの号令に、第二騎士団が一斉に槍を突き出した。

雷と槍が交わり、防衛線は再び息を吹き返した。


レイクスは黙々と剣を振るい、雷を放つ。

その姿は人の列の中にあっても孤高で、誰の視線も寄せつけなかった。


---


やがて戦場に静寂が訪れる。

ゴブリンの群れは壊滅し、残党は雪原へ逃げ去った。

街には炎が残っていたが、人々の命は守られた。


震える市民が駆け寄り、声を上げる。

「……ありがとう……本当にありがとう……」


兵士の一人も、息を荒げながらレイクスに言葉を投げた。

「剣士殿! あんた、一体何者なんだ!」


ゼノスは槍を杖にしながら、彼を見据えた。

「名を聞かせろ。その剣は……ただの傭兵のものではない」


レイクスは答えなかった。

剣を収め、背を向ける。

人々の感謝の声を背に受けながら、静かに街を後にした。


ゼノスはその背を見送り、低く呟く。

「……あれは、人を救うためだけに剣を振るう者の目だ」


雪が再び降り始め、炎に覆われた街を白く覆い隠していった。


---

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