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2つ目の変数

「よろしく。アレックス・ライト君」

真人は差し出した手を、力強く握り返してきた青年を見つめ、静かに告げた。

「あぁ!よろしく、ブラザー……って、ん?」

アレックスは反射的に言葉を返したが、その直後、まるで何かに気づいたかのように動きを止めた。彼の青い瞳が、真人を訝しげに見上げた。

「……なんで、俺のファミリーネームを知ってるんだ?」

アレックスの声には、恐怖心や警戒心が滲んでいた。元の世界でのファミリーネームを、この異世界で初対面のエルフが知るはずがない。

真人はアレックスの反応を予測していたかのように、冷静に、しかし穏やかに告げた。

「ああ、失礼した。驚かせてしまい、申し訳ない。順番が前後してしまったね。まず、私も君と同じ地球からの転生者だ」

アレックスの顔から、一瞬で全ての表情が消え去った。彼の口が小さく開き、信じられない、という戸惑いがその瞳に満ちた。

「……転生者……だと?」

真人は頷いた。

「正確には、元の世界で死を遂げた魂が、この世界で新たな肉体と『ギフト』と呼ばれる不思議な力を授かり、再生した存在。それが私たちだと考えている。」

アレックスは言葉を失い、その場に崩れ落ちた。彼は自分がこの世界でただ一人の「異物」だと信じて疑わなかった。この数ヶ月、誰にも理解されない孤独を抱えていたのだ。それが、目の前のエルフもまた、同じ境遇だという。

「マジかよ……」アレックスの声には、驚きと同時に仲間がいる安堵が入り混じっていた。

「……てっきり俺だけかと。ん?待てよ?なんであんたはエルフになってんだ?。俺は元の姿と1ミリも変わってねぇんだぞ?!」

真人の【鑑定】が、アレックスを解析する。

『肉体構成:人間種』

『人種:不明』

『エラー:分類不可、異界性生命体』

『原因:色/髪、瞳の色が異常』

確かに、町で見かけた人間種とは一線を画していた。彼は地球人としての特徴を色濃く残しているようだ。対して、自分はエルフとしての明確な肉体的変化を遂げている。この違いは、転生におけるランダム性か、あるいは何らかの意図があるのか。

「肉体の変化については、今の私には解析不能だ。恐らく、転生の際にランダムで割り振られる要素か、あるいは、ギフトやシステムの介入によるものだろう。それよりも、ここでは話しにくい。場所を移そう。」

真人はそう提案し、アレックスが暮らす隠れ家へ向かった。

アレックスの隠れ家は、彼の陽気な性格を反映してか、決して整理されているとは言えなかった。散らかった机の上には、地球とは違う地理が描かれた地図や、たくさんの手書きのメモが散乱していた。真人はアレックスが用意した小さな踏み台のようなものに腰掛けた。するとあぐらをかいたアレックスが先に口を開いた。

「改めて、俺はアレックス・ライト。知っているかもしれないが、アメリカで駆け出しのフォトジャーナリストをしていた。」

「私は藤原真人。日本でシステムエンジニアをしていた。この世界には昨朝転移してきたばかりで、何しろ情報がない。机の上に見えるのはこの世界の地図で間違いないだろうか。」

「あぁそうだぜ!」

机から床へ下ろされた地図に真人は【鑑定】をすぐに発動させた。アレックスの持つ情報を自身のシステムに照合させていく。

アレックスは、元フォトジャーナリストだけあって、情報収集能力に長けていた。

「俺は半年前にこの世界に来た。最初は混乱したけど、すぐに『透視』の力に気づいて、それでなんとかやってきたって感じだな。あちこち旅して、見たものを書き込んでるんだ。」

アレックスは自身の経験を語り、手書きの地図を広げた。彼が描き込んだ危険地帯や魔物の生息域は、真人の【鑑定】が示す魔素の濃い場所と完全に一致した。

「興味深い。」

真人は、二人のギフトの組み合わせの潜在能力を冷静に分析した。

「私の【鑑定】は、私の目を通して、見える物の魔素の流れなどの情報ををデータとして認識する。しかし、君の【透視】は、物理的な透過情報を得る。これは、互いのギフトを補完し合う関係にある。」

さらに、アレックスの「勘」や「経験」は、真人のシステム的な思考にはない新たな「変数」となり得ると真人は考えた。

「二人合わさると最強って奴か!おっコミック展開になってきたな!」アレックスは興奮気味に言った。

「その認識で基本は問題ない。まずは、私たちの連携を試すため、そして、この世界の『異常』についてより深いデータを取れる場所を知りたい。」地図にある井戸のようなマークを指さし真人が問いかけた。

「この街の近くにある、このマークはなんだ?」

「ああ、それはちょっとした洞窟ダンジョンだ。あんま強い魔物は出ねぇけど、経験稼ぎにはちょうどいいって評判のな。明日、行ってみるかい?」

「問題ない。明朝、町の南門で落ち合おう。」


翌朝、二人はダンジョンへと向かった。街からほど近い森の中に、ぽっかりと口を開けた洞窟があった。

真人は【鑑定】を発動させた。

『対象:空間/名称:緑陰の洞窟ダンジョン、状態:高魔素濃度空間』

『危険度:低』

『行動予測:多数の魔性体生息』

『推奨行動:慎重な進行、魔素の挙動を観測』

洞窟の入り口からは、瘴気とまではいかないが、微かな不穏な魔素が漏れ出していた。内部の魔素の濃度は通常の森よりも高い。おそらく、これがここ周辺の魔物の発生源となっているのだと真人は考えた。

「……入るのは初めてなんだよなぁ……。うおっ、なんかゾワゾワすんな」アレックスの言葉には少し恐怖心が滲んでいた。

「問題ない。危険度は低い。」

真人はアレックスを落ち着かせるように冷静に告げ、洞窟の奥へと足を踏み入れた。

アレックスは、真人の冷静さに感心しながら、自身の【透視】を起動させ、真人の後に続いた。彼の視界は、石の壁を透過し、洞窟の内部構造や、隠された通路、そして蠢く魔物の影を捉えた。

「へへ、俺の【透視】にかかれば、隠し通路も、敵の位置も丸見えだぜ!」

アレックスは自信満々に、真人が次に進むべき方向を指示した。彼の指示に従い、真人は迷いなく進んだ。やがて、太陽光が届かなくなった頃、突然、アレックスが叫んだ。

「右方向、三体。天井から奇襲を仕掛けてくるぞ!」彼の【透視】が、天井に張り付き近づく、蜘蛛のような魔物の姿を捉えていたのだ。しかし一匹でも視界に捉えることが出来れば、真人の【鑑定】の出番だ。

『対象:敵性生物 / 種族: ケイブ・スピナー、状態: 警戒、興奮』

『危険度:低』

『行動予測:奇襲』

『推奨行動:防御魔法発動後、カウンター反撃』

真人は杖を構える。彼の身体はエルフとして覚醒したばかりだが、その動きには一切の迷いがない。杖から放たれた優しい光は瞬く間に二人を囲い、天井から奇襲攻撃をしようとしたケイブ・スピナーを弾き飛ばした。すかさずアレックスが前方に飛んだケイブ・スピナーに高速で追いつき、その核を正確に貫いた。残りの二体も、真人が放つ風の刃によってあっという間に無力化された。

初めてのダンジョン制圧は、流れるように終了した。

元の道を戻りながらアレックスは子供のようにはしゃいで真人に言った。

「すげぇ!やっぱ俺ら最強のコンビじゃね!?」

「確かに効率的だ。しかし、このダンジョンはあくまで小規模。より大規模な、世界の歪みの根源に近い場所では、これ以上の魔素汚染が予測される」

真人は、アレックスの言葉にも冷静さを失わない。彼の視線は、この世界の異常。その一点に向かっている。そして、真人の脳裏には、いまだ納得のできない根深い疑問も残っていた。

この世界には、なぜ「普通の動物」がいないのかである。

「アレックス。私はこの世界の動物の不在と、魔物の異常さが、深く世界の『異常』に繋がっていると考えている。」真人は、ダンジョンを出て、いつもより澄んで感じる森の空気を吸い込みながら言った。「このダンジョンで得たデータも、この仮説を裏付けるものだった」

「普通の動物?そんなもん、この世界にはいない。そういうもんって訳じゃないのか?」アレックスは拍子抜けしたように言った。彼にとって、魔物と共存する世界は最初から「そういうもの」であり、深く疑問を抱くことはなかった。

「そう感じるのも無理はない。しかし、その認識自体が、異常の影響を受けている可能性がある。」真人は真剣な表情で告げた。「獣人種を調べるべきだ。彼らは、この世界の生命の在り方と、魔素の歪みの関係を解き明かす鍵になるかもしれない。」

真人の真剣な眼差しに、アレックスはアレックスなりに、彼の言う「世界の異常」の根深さを感じ取った。

「獣人種か……。そういや、俺、旅してた時に、狐人族の集落の近くを通ったことがあるぜ。あんまり人間が寄り付かない場所だけど……。行ってみるか?」

アレックスの言葉に、真人の【鑑定】が即座に反応した。

『推奨行動:狐人族集落への移動、情報収集』

「その集落へ向かおう。そこが、次の目的地だ。」

真人の瞳は、新たな解析対象を見定めたかのように、鋭く輝いていた。

【本日の残業報告】

・転生者(盗賊)との接触完了

・初ダンジョン潜入→制圧

・動物:やっぱりいない

・目的地:狐人族集落に決定


#本日の残業報告 #修復系主人公 #元SEの異世界適応記録 #仲間より仕様書ください #ヒーローって名乗る盗賊いる? #ダンジョン攻略完了報告書出して #普通の動物どこいったの問題 #次は獣人種でバグチェック

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