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真人

ディスプレイを埋め尽くす、赤と黄色のエラーコード。無数の警告表示が瞬き、不吉な警告音を立て続けていた。

「……またか」

藤原真人は、目の前のパソコンの異常を冷静に見つめていた。

深夜3時のオフィスに、人気はない。

しかし、彼はキーボードに指を滑らせ続けた。残業手当が出るの定かではないし、なんなら今やってる作業だって本来真人の担当作業ではなかった。それでも「お願い」や「君なら」の言葉を弾くことが出来ないのが彼だ。いつでも人の顔色を伺い、怒らせないように、失望させないように、彼はずっとそう生きてた。


その時、彼の頭の中に、直接響くような奇妙な声が聞こえた。

それは、耳からではなく、脳の奥底に直接ノイズが注ぎ込まれるような、異質で、不快極まりない響きだった。

『異常検知。』

『エラーコード:■〇×△⬆✿◆●』

『原因:不明』

『システム停止。生体転送開始。』


真人の意識は急速に遠のいていくった。キーボードに置かれた指先から力が抜け、カタン、と乾いた音を立てた。ディスプレイの文字が光に溶けていった。


ああ、このエラーは修正できなかったか……。


ーーーーー

耳に届くのは、優しい鳥のさえずりだった。 顔にかかるひんやりとした水の感触が、ゆっくりと意識を呼び覚ました。

瞼を開く。 視界に飛び込んできたのは、見慣れない鬱蒼とした森のだ。柔らかな木漏れ日が、足元に広がる苔むした地面を斑に照らしていた。ヒノキでもなく、スギでもない。異質な、しかし生命力に満ちた樹々が天高く伸びていた。葉擦れの音は、まるで世界の言葉のように聞こえた。

「――ここは?」

疑問を口にした瞬間、自分の声が、以前とは全く異なる響きを持っていることに気づく。それは、深い森の響きを宿したような、清澄で伸びやかな声だった。そして、長く伸びた尖った耳が、風の音を鮮明に捉えた。

「……エルフ。」

頭の中に、見覚えのない知識が断片的に流れ込んできた。同時に、自身の意識の深奥から、まるで新しいOSがインストールされたかのような感覚が広がった。

『システム起動。』

『システム名:【鑑定】』

『対象:世界』

『世界名:エレスティカ/状態:異常』

『原因:不明』

『推奨行動:異常原因の特定、システムの補修、拡張』


それは、システムエンジニアとして過ごした日々を思い起こさせる、機械的な声。だが、その声は確実に彼の脳内に存在していた。

藤原真人。元の世界での彼の名前だ。

だが、今は――。

ゆっくりと立ち上がった。以前よりも目線が低く、遥かに軽く、しなやかに動く身体。


彼は近くに広がる水溜まりへ顔を移した。そこに映る顔は、発光しているかのような白い肌と、大きく丸い緑色の瞳の元の世界では縁のないもゆかりも無い綺麗な顔立ちであった。


彼の認識できる情報のその全てがここは別世界であることを告げていた。彼が周囲を見渡した瞬間、システムが起動した。

『【鑑定】――起動』

目に見える全てがデータとして脳内に流れ込み、瞬時に解析されていく。何かが動く音が聞こえ、彼が目を向けた先、森の奥から不穏な気配と足音が迫っているのがわかった。

『【鑑定】――完了。敵性生物、接近中。』 彼は無意識のうちに、右手から淡く光る粒子を収束させ始めた。


「――状況把握。私は、この世界の『異常』を修復するための『変数』として、ここにいる。」


真人は冷静に結論付けた。持ち前の論理的な思考は、この非現実的な状況下でも揺らぐことなく働いた。むしろ、与えられた「鑑定」という力は、彼の思考をより研ぎ澄ませ、世界の真実へと導くツールとなるだろう。

そして、彼の視線の先に、歪んだ気配を纏った異形の影が、ゆっくりと姿を現し始めた。同時に、彼の手には光の粒子で構成された一本の小さな杖が現れた。

#修復系主人公 #元SEの異世界適応記録 #仕様書?送られてませんけど #要件定義って知ってます?

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