解雇、そして新たなる始まり
突如会社から解雇を通達された。
音を立てて崩れていく安定した日々から目を背けるように買った宝くじは……
「これが君に渡せる最後の給料だ」
社長の言葉に俺は耳を疑う。一体どういうことだ?
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「勝利、ごはんまだー?」
わが妹はだらしなくソファーに寝そべり、スマホを弄りながらそう声をかけてきた。
「お前なあ、いつも言うけど居候がその態度でいいと思ってんのか?」
「んー別にー?」
申し訳なさそうな素振りは微塵も見せずに、寝返りを打ちながら応える。
「まったく。もう少しだ、ちょっと待ってろ。」
「今晩のメニューは?」
「カレーだ、カレー。」
またカレーかよ!と悪態をつく妹を無視して、キッチンへと向かう。仕方ないだろう、給料日前なんだ。献立を工夫するほどの余裕は今の俺にはない。
本来であれば居候など住まわせている余裕はないのだが、俺自身が上京した時には家賃も学費もすべて出してもらった親から「静香を頼む」などと言われてしまったら、断る選択肢などなかった。
先月くらいまでは外で飯を食べてくることも多かった静香だが、今月はほとんどずっと家にいる。おかげで今月の食費は1.5倍を超え、財布の中身は限りなく少ない。
「できたぞ、準備手伝えー」
ソファーでごろごろしていた静香に声をかけると、面倒くさそうではあるがふらふらとキッチンにやってきた。
「最近、家にいること増えたよな。なんかあったのか?」
「んー、別に」
カレーを皿に盛りながらそれとなく聞いてみたが、とくに何でもないように静香はこたえた。
「暇ならバイトでもしてくれた方が助かるんだけどな」
静香は俺のつぶやきには答えずにカレーをもってリビングへもどっていった。
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翌日、今日は給料日だ。
出社しながら口座を確認したが、まだ給料は振りこまれていないようだった。銀行の処理時間もあるだろうから、午前中待ってみて振り込まれていなければ確認しよう。そう思って自分の席についた矢先だった。
「掛事くん、ちょっといいかな」
普段は柔和な笑顔を浮かべていることが多い社長が、無理していつも通りの表情をしているような、そんなすこしひきつった表情で話しかけてきた。
仕事をミスった記憶もない。必要な仕事はきちんとこなしているはず。心に当たるようなことは何一つ浮かばないまま、何で呼び出されているのか悩みながら生返事をしてしまう。
ぐるぐると考えを巡らせながら言われるがまま社長室まで行くと、ふと息を吐いたあと社長が封筒を出しながらこう言った。
「本当にすまないが、これが君に渡せる最後の給料だ」
社長の言葉に俺は耳を疑う。一体どういうことだ?
「いや、キミに一切の非は無い。……この会社は、倒産するんだ」
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社長の話を簡単にまとめるとこうだ。
一家経営であるこの小さな会社は、大きな利益は出せないものの事業を続けたり従業員に給料を払えるだけの利益を上げていたが、直近の不況のあおりで経営状態が芳しくない状態にあった。それでも何とかこらえていたが、ついに赤字経営となり社長一家の貯蓄からも経費を捻出しながらなんとか耐え忍んでいた。
ところが先日、そんな状況に嫌気がさしたのか、社長の長男が会社と家の金を持ち逃げしていってしまったという。赤字経営のまま事業を続けることはできず、今月分の給料を従業員に支払った上で会社は倒産となることが決められたという。
「……って、持ち逃げならまるっきり犯罪じゃないですか!」
話を聞く限り、悪いのは全部持ち逃げした長男である。ならば何らかの救済措置などもあるのではないか。
「わかってる。わかっているんだ。それは。」
絞り出すように言う社長は、申し訳なさそうな様子だったが、決して息子を悪く言うことはしなかった。
その葛藤を感じ取った俺は、それ以上何も言うことはできなかった。
本当にすまない、となんども言う社長からいつもより少し多めの給料を受け取り、俺は社長室を出た。
その後、同僚たちが順番に社長室に呼ばれていくが、戻ってくるときには全員なんとも煮え切らない表情になっていた。おそらく俺もそんな表情をしていたのだろう。
突然の出来事に整理がつかないまま、ルーチンワークだけをこなしてその日は退勤した。
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残業が無かった分、いつもより早い退社時刻だ。日は暮れ切らず、まだ空が赤い時間の街はいつもと違った雰囲気で、少し新鮮に感じた。
「はあ、どうすりゃいいんだろうな」
カバンに入れておくのが怖くて胸ポケットに入れた札束の重みを感じながら、来月以降の生活を想像する。
社長の話の後、全社員向けに案内のメールが出されていたが、今回の解雇は完全に会社都合によるものであり、失業手当などの公的な支援がきっちり受けられることと、受けられる様々な支援の内容がリスト形式で掲載されていた。会社の手続きも大変な中、従業員のその後もフォローしてくれてありがたい。
「……まあ、なんとかなるか」
夕暮れの風にあたりながら、考えを巡らせていくうちに冷静になった俺は、そう結論づけて気分を切り替えることにした。ある種の現実逃避であることは自覚していたが、ふさぎ込んでしまうよりかは数倍マシだ。
少なくとも、家に帰れば静香が居る。静香にまで辛気臭い空気を伝染させるわけにはいかないだろう。
そう思って、無理やりにでも気分を切り替えるための何かを探していると、駅前の宝くじ売り場が目に入った。
手元にはいつもより多い給料がある。
来月は失業手当で生活が出来るはずなので、この多い分の給料はある意味での臨時ボーナスと言えるのではないか?
少し強引なポジティブシンキングには、具体性のない計画が必要だ。それこそ、宝くじを当てるというような。
「すみません、スクラッチ3枚ください」
せっかくなので、結果がすぐわかるスクラッチを選んだ。今日の出来事自体が、俺の人生にとってのプラスの出来事なのか、マイナスの出来事なのか。今日結果が出る運試しであれば、それが分かる気がした。
渡されたカードを1枚ずつ削っていく。
1枚目、左側から順に削っていく。
どうせ全部削って空けるんだから、1マスずつ削るなんて言うのは流石にナンセンスだが、全部一気に削るんじゃなくて左から順に削っていくワクワク感くらいは感じたいじゃないか。
2列目まで開けた時点で3000円あたりが見える並びだった。大した金額ではないが、払った金額より儲けられるので、自然と期待感が募る。
3…列目……!
揃った!3000円の当たりだ!
幸先の良いスタートに無意識に期待値が上がっていく。
2枚目も左側から削っていく。
2列目まで開けた時点で、ダブルリーチ。1行目のリーチは……10万円!?
膨らんだ期待とギャンブル特有の興奮が、3列目を早く削れと急かしてくる。
考える猶予も与えず、右手がカードの上にコインを滑らせる……!
……はずれた。
さすがに2連続は無理だったかと思ったが、ふとカードを見直すと3行目のもう一つのリーチが揃っていることに気づく。
揃ったマークを確認すると……え、1億?
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そこから家に帰るまでの記憶が曖昧だ。
覚えているのは、カードを見せたときの宝くじ売り場の店員さんの表情と、当せん金の受け取りはその場ではなく銀行に行かないとできないこと、そして3枚目のスクラッチは当たらなかったことだけだ。
※本作品は
架空アニソン祭2025 の参加楽曲のための”架空”の原作小説として執筆しています。
https://twipla.jp/events/650193
楽曲のバックグラウンドとしての作品になるため、冒頭部のみでの公開予定となります。
(というか冒頭以外の構想は一切無いです)




