第7話 総長への直談判
総本部に着いた3人は総長に繋げて貰おうと受付に話す。
意外にもすんなりと了承を得たので3人は総長室の扉の前に立ち、あの騒がしかったベレットも大人しくしていた。
煌夜がノックをすると
「入れ」
扉の向こうからは特に何も言わずに許可が出た。
3人は総長室に入ると総長がこちらを向いて座っていた。
「ミックにベレット、そしてコウヤか。どうした?」
煌夜が一歩出て話し出す。
「先に言っておきます。ミックに非はありません。全て僕が考案して2人が協力して貰っているというを理解して貰えると」
「話の流れは理解している。ミックが話したんだろ?それでコウヤが押したというより引っ張り、ベレットに事情を話した。その上でここに来ている」
討伐の件で知っているミックとその現場の近くにある村が故郷であるベレットが居て、煌夜自身がそう言うということで総長はすぐに理解したのだろう。
「それでベレットは行きたい訳か」
「は、はい」
あんなに明るかったベレットが萎縮している。
「お前には討伐隊に参加できるほどの経験も魔導もないのは理解してるよな」
「はい……」
「余計な面倒事を避けるために内密にしていたんだがな」
総長は視線をミックに向ける。
「1ついいですか?」
「何だ?」
そこに煌夜が割って入り、総長は視線を煌夜に向ける。
「討伐隊の仕事は何ですか?」
「そんなことは答えるまでもない、リィーズを討伐するためだ。それ以外に何がある?」
「それは確かに主目的はそうですね」
「何が言いたいんだ?」
討伐隊の目的はリィーズを倒すことに変わりない。
それは煌夜も理解している。
「元々魔導工兵はリィーズを倒すことと同時に民を助けることではないんですか?」
「………」
少し間が開く。
「つまり、そっちで参加できないかということか?」
「はい」
魔導工兵はリィーズを倒せる唯一の存在。
逆に言えばリィーズから民を守れるのも魔導工兵である。
ベレットの場合はリィーズと相対する訳ではない。
リィーズの攻撃が故郷に向かないために守るということである。
「そもそも話として何でお前がそれに付き合う?」
「ベレットさんが教育係というのもありますけど、知らずに終わっているって悲しいことだと思うんです。早々に事が終わればそれほどでもないですけども、最悪の場合はそうなる可能性はないじゃないですか?」
早々に終われば「え?そんなこと起きてたの?」とすぐに家族に無事を聞くことになるが、もし、報告の内容に家族や故郷の話が出てきたら悲しいし、それはそれで問題でしかない。
討伐隊の隊長であるエーリクや魔導工兵の長である総長の責任問題となり、当の本人は自分には参加するだけの実力がなかったと嘆くことになる。
そうならないために家族や故郷を守らせても大丈夫ではないかと言っている。
「その可能性は低いと思うが……、後方で守るだけなら問題ないだろう。許可してやる」
総長からお許しが出た。
「それでコウヤ、お前はどうする?教育係がいなくなることになるが」
「同行を許可して貰えると嬉しいのですが……」
「別に許可してもいい。そっちの方が楽でいいからな。行かないってことになったら代わりの奴を用意せんといかんしな」
煌夜が同行することには簡単に通ってしまった。
「ベレットと煌夜が参加することはミック、お前が伝えろ」
「了解しました」
ミックは先遣隊の1人で、2人もそこに参加するになるため、それを伝えるのは討伐隊であるミックがするしかない。
「それじゃあ、話はこの辺でいいな」
「はい」
「ありがとうございます」
「あ、ありがとうございます」
煌夜たちは振り返り、部屋を出ようとした時
「コウヤ、お前は少々話がある」
「僕だけですか?」
「あぁ。2人は先に準備していてくれ」
「分かりました」
ミックとベレットが出て行った。
「それで話とは何でしょうか?」
「初対面のベレットに肩入れしたのは何故だ?」
ベレットに限らず、この街にいるほとんどは初対面。
ベレットに肩入れしただけでなく、同居人とはいえミックの悩みを解消しようとした。
その理由を聞きたいのだろう。
「自分が無力だったから家族を失うことになるなんて悲しいじゃないですか」
「うん?そう言うってことは……まぁそこについては追求しないでおこう」
「助かります」
総長はこんな性格だが、弁えはできる。
「話を少し変えるが、ベレットの魔導は特殊だ。しかし今は一般的な魔導工兵とそう変わりない」
「ベレットさんの魔導はまだ見たことはないですけど、そうなんですか?」
「アイツは本来なら万能型で戦闘に限らず、後方支援も指揮官にも慣れる逸材。あの性格では指揮官は難しくあるものの、ミックと似た行動は可能なはずさ」
魔導には鼓舞するような味方の力を増幅するモノも存在する。
戦闘、支援、鼓舞、その全てをベレットの魔導は有すると言う。
「何故それを僕に?」
「お前に初めて会った時、気付いたよ。お前が『神の導き手』だとはな」
「『神の導き手』?」
総長から聞かされた言葉に煌夜は聞き返す。
「魔導は元々神の力を使っているのは知っているな」
「はい」
魔導は神を素にした力。
煌夜は烏枢沙摩明王を素にしている。
魔導名は《火頭金剛》。
その内容は『浄火』という浄化の火を主に使う能力。
「その神には特殊なタイプがいる。神を束ねる【主神】タイプ、神を導く【導神】タイプの2つ。お前は【導神】タイプだ。まぁ、今はそこまでの力はないかもだがな」
「【主神】タイプに【導神】タイプ?」
「あぁ。別の言い方をすれば【主神】タイプは王、【導神】タイプは賢者というべきか」
「どうして僕が【導神】タイプだと分かるんですか?」
「そういう能力があると思ってくれ」
「な、なるほど……」
総長ははぐらかしたが、煌夜が追求する理由もないため、納得するしかない。
「因みにベレットは【主神】にも【導神】にもなれる逸材だ。ただあの性格だと【導神】は難しいだろうから【主神】になれるよう頑張って欲しいものだ」
「ベレットさんの場合は王は王でも象徴的な王な感じですね」
「まぁ鼓舞するタイプだろうな」
神によってはどちらにもなれる可能性はあるが、どっちもということはなく、そしてなれるという訳でもない。
性格や能力の使い方、成長度合いによるものが大きい。
そもそもその素質がない神は大抵汎用神と呼ばれることもあるけど、決して弱い訳ではない。
ただ、汎用神と呼ばれる神は割といるからこそそう呼ばれることが多い。
「話はそんなところだ。あまり長話もよくないしな」
「では僕は急ぎますので」
煌夜は振り返り、ドアを向かおうとしたところ……
「あ、1つ言い忘れてたな。準備は寒さ対策の上着だけでいいからな。あとは自分が戦闘で必要くらいだ」
「分かりました」
煌夜は総長室から出る。
「総長ってなんだかんだ言って面倒見いい気がする」
総長に聞こえない声で小言を言う。