第20話 兄妹愛
煌夜たちが部屋を出て、扉が閉じた。
「ミリー、元気…ではないね」
ミックはミリーに話しかけて、歩み寄る。
「随分と待たせてしまった。だけど…ぐっ、そう易々といきませんね」
歩み寄ろうとしたミックの目の前の地面が盛り上がり、何かが突っ込んできた。
咄嗟に剣を抜いて防御するが、勢いは止まらずに後ろの扉を破壊し、さらにその先の窓と壁を突き破って外に追い出された。
3階から投げ出されたミックはそのまま落下していく。
「あれは…ロキ…」
自分の襲ってきたモノが何かを下から見て、それが昔いた自分とミリーの愛犬で、死後リィーズとして生まれ変わった犬のリィーズだった。
「というより受け身を。ぐっ」
受け身はしたが、多少の痛みを受け、すぐにそれを治す。
「マックス、マイラ、ポピー、ローラ、ハル…」
地面に降り立ったのはロキを先頭にした奇形のモノたち。
全部がリィーズでミリーと仲間。
その中にはミックが知っているリィーズもいる。
このリィーズたちは小型と中型のダストやロットンが多く、唯一ロキだけはキメラである。
ロキはミリーが自身の意思で仲間にした最初の存在。
因みにレイラはミリーが自身の魔導に気付く前からの繋がりで、ほぼほぼ無意識になった感じである。
(みんなミリーを守りたいのは分かっているのですが、半強制的な所もある。でも、君たちは君たちなりに守っていて欲しい。僕はそれを突破してミリーを助ける)
ミックは改めて決意を決め、立ち向かう。
小型のリィーズはそれ程厄介ではない。
中型なら2体なら戦えない事もないが、目の前にいるのは小型10体、中型5体、そしてキメラのロキ。
中型5体の時点で厄介なのにロキがいる。
しかし、ロキはどこに走って行った。
(ミリーの下に戻るのだろうか。それでも脅威なのは変わらない。それなら)
ミックは窓を割って建物の中に入る。
それに反応してリィーズたちも追いかけて来た。
(無理に戦う必要がない。とにかくミリーの所に行かないと)
自分の知らないリィーズがいたから、セントラルに行った後、意図的に数を増やしていたのだろう。
小型でも初心者狩りや数体なら一人前を倒せる。
中型なら一人前や数体ならベテランも倒せる可能性がある。
大型は大き過ぎて逆に選ばない。
後はキメラと人型なら倒せる者は限られる。
実際どれくらいいるかは分からないけど、態々倒す必要もない。
まぁただ、ミック自身が倒したくないという気持ちもあったりする。
建物に入ってもゆっくりしている場合ではない。
すぐに部屋から出て、廊下を走る。
その道中に小型が時々現れるが、それを避けて通る。
(流石に多過ぎる)
階段に辿り着いた所で既に5体。
さらに階段には中型のダストがいた。
ミックは階段の手すりにジャンプにし、ダストを避ける様に突破しようとした。
ダストは体を伸ばしてミックの足を掴む。
「ごめん」
ミックは剣でそれを切り、拘束を解く。
そのまま落下すれば階段に落ちるので、上の階段の底横に手をつけて押し、その勢いで踊り場に転がり落ちる。
追撃を恐れて、すぐに階段を駆け上がる。
しかし、そこで足を止める。
目の前の通路に中型1体に小型5体がいた。
(誰かが指示しているのか)
通路に配置されたリィーズたち、集団行動をするリィーズたち、明らかに誰かが指示して、ミックを止めようとしている。
(ここにいたら後ろから来る)
1階の廊下で後ろから外で会ったリィーズたちが追いかけて来ているのを確認していた。
だから、ここで止まっていては挟み撃ちに遭う。
しかも、上の階にはまたも中型のダストが…さらにその上の踊り場には小型が2体配置されていた。
先ほど様に突破するのは難しい。
ミックは周りを見る。
それと同時に間取りを照らし合わせる。
館は1階が真ん中廊下で両側に部屋がある構造をしているのに対して、2階と3階は入り口側に廊下で窓とは反対側に大きな部屋が並んでいる。
ミックはすぐそこの部屋に入る。
袋小路になってしまう可能性は高いが、挟み撃ちよりもマシだろうと判断からの行動である。
それに少しこの部屋が気になったという理由もある。
部屋に入ったミックはすぐに扉を机や椅子で閉じた。
そして、改めてこの部屋を観察する。
(まだ残されているんですね)
ここはミックとミリーの部屋である。
もう数年いなかったのにそこにはまだミックの私物が置かれていた。
(しかも、掃除がされている)
部屋の半分をそれぞれ分けて設置されており、ミリーだけでなく、ミックの方も掃除がされていた。
隅々まで。
(それしても静か。ここが主人の部屋だからでしょう)
振り返って扉の方を見て、静かになっている事に気付く。
扉を壊してでも突破してくると思って、封鎖していたのだが、突破してくる様子はない。
ここがミリーの部屋だから聖域の様な汚してはいけない場所だと認識しているのかもしれない。
(それなら休憩しながらどうするか考えるとしよう)
あまり時間を掛ける訳にはいかないと思いながらも、何体いるか分からないリィーズを避けながらミリーに行く事は難しい。
仮に突破出来ても最終地点にはロキが待機しているのは確実。
それを無視してミリーに近付く事は出来ない。
でも、取れる策は2つに絞られている。
リィーズたちを無視して何とかミリーに辿り着き、ミリーに掛けられた洗脳をどうにかして解除する。
リィーズたちに掛けられたミリーの仲間の契約を解きながら最終的にミリーに掛けられた洗脳を解除する。
前者は早くミリーに辿り着く可能性はあるけど、囲まれたらそれは終わり。
後者は時間は掛かるものの、確実な策ではある。
ただしこの2つの策には契約も洗脳も解除する手段を持っている事が前提としてある。
それが無い今、その策は意味を為さない。
仮に出来ても、後者に関しては解除後にリィーズは野良の状態になるから、取るべき選択肢ではないかもしれない。
そもそもミリーと仲間のリィーズたちを殺さないという決意を持ったミックだから難易度が上がっている。
殺すという選択肢が取れれば格段と楽になる一方、レイラ次第で参戦すると不可能になる。
ミリーを…という選択をすれば確実にレイラが敵対する。
それ以前にレイラが相手にならない状況というのはミックがミリーの兄だからとミックの事をよく知っているから参戦していない。
今の状況はミックにしか取れない状況で、不殺の策もミックにしか取れない。
ふと、ある物が発見する。
「これって……」
それはあり得たかもしれない絵とそれに寄せられた1枚の質の良い紙。
「な、何でこんな物が……」
そこに描かれた絵に涙をこぼすミック。
絵にはミリーと思われる赤ちゃん、ミリーを抱えてあやすディアン、同じくミリーをあやそうとしているミック、その様子を微笑んで見つめるベッドに横たわっているミックの母親、ベッドの奥にその全体図を見守るレイラが立っていた。
時期的にミリーとミックの母親は出会っていない。
母親が亡くなった後にミリーが生まれている。
だからこの絵は偽りの集合絵。
そして、それに寄せられた1枚の紙にはこう書かれていた。
『あり得たかもしれない家族を永遠に』
幾つもの偶然が重なり、今の状況が生まれたに過ぎないが、確かにこの絵の様な状況になっていたかもしれない。
だからこそ残そうとした1枚の絵。
今では1人は亡くなり、1人は人格を乗っ取られ、1人は操られ、1人は我が子を守ろうと、そして最後の1人は妹を助けようと行動している。
もうこの絵の様にはならない。
だけど、残っている者の繋がりはまだある。
その中心にいるのはミリー。
ミリーを失えば、この家族は瓦解する。
そして、そのミリーを救えるのはミックしかいない。
「そうだ、僕がやるのは修復する事」
ミックは納めていた剣を抜き取った。
その剣身には淡く光っていた。
部屋を出たミックは目の前に廊下側に中型3体、小型7体いて、階段側に中型3体、小型8体いて、その奥の階段に中型1体と小型2体がいた。
挟み撃ちに遭っていると言えなくもないが、ミックはそこに突っ込んで行った。
今のミックの実力ではこの戦力には勝てない。
でも、それを打開する方法を持っていた。
その方法は奇しくもある策を講じるのに丁度良かった。
階段側のリィーズたちの攻撃を避けながら、中型1体を斬りつける。
しかし、倒れはしなかった。
「マックス、少し手伝って下さい」
それに応える様に斬りつけられた中型のロットンがすぐ近くにいた中型のダストに突進をした。
少し怯んだ所をミックが斬りつける。
「ポピー…」
またも協力を促し、それに応えるリィーズ。
それを連鎖していく。
今まで敵だったリィーズたちが味方になった様な言動…だが、決してそういう事ではない。
新たに手に入れた力。
正しくは《レストレーション》という魔導と『レストア』という能力である。
・『レストア』
元の状態に戻す回復…修復を行う。
今まではただ妹を助ける為に父親を倒すという目的はあったものの明確な方法はなく、実際どうすればいいか分からない状態で、仮に父親を目の前にしたらダメ元で倒そうと思っていた。
まぁ実際対面した時は妹の状態に絶望して気絶してしまった。
その状態と自分の無力感で滅入ってしまったからである。
決して何も考えていなかった訳ではない。
ただ、父親を倒さなければ妹を助けられないと思っていて、不可能を可能にする力を持つ父親に勝つ方法をずっと考えていた。
でもそれは幾ら考えても出てこない。
何故なら力も実力も格上である父親を倒す事は出来ないから。
それがミックの魔導……の特異性を阻めていた。
ミックの特異性。
それは元に戻す力。
2人とはまた違った特異性である。
そして、ミックがリィーズたちに行ったのはミリーを通して行なっていたディアンの『洗脳』を解いた。
もちろんミリーの方も解かれる対象となり得るのが、ミリーのよりディアンの方がミリーを経由している分、繋がりは弱い。
全力を出せばどちらも解く事は出来るが、敢えて力を抑えてディアンの方だけを解いている。
ミックは味方を増やし、この場を収める。
リィーズたちの中で昔に会っているモノはミックに反応してくれていた。
それ以外は状況を把握出来ていないのか、その場に立ち止まっている。
「皆、ちょっとついて来て」
ミックは昔馴染みのリィーズたちを連れて先を進む。
さっきよりも進行は悪くなく、昔馴染みのリィーズは引き連れて行く事は出来るけど、そうではないリィーズには今は放置する事にした。
そして、ミリーのいる部屋に戻って来た。
「ここに居て下さい」
ミックはリィーズたちにそう言って既に扉が壊れている部屋に入る。
中にはロキとミリー。
最終防衛としてロキが立ち塞がっていた。
それを捉えるとミックは走り出し、ロキは遠吠えを上げてからミックに向かった。
「仲間を呼んだのかな?でも、皆が僕たちの戦いを邪魔させない様に塞いでくれる。だから、一対一で勝負」
ミックの剣とロキのリィーズ化で伸びた歯がぶつかる。
ここからは容易に斬らせてくれない。
だから、本気の戦いの末、確実に解く。
お互いミリーに攻撃が当たらないかつ決してこの部屋から離れない様に戦っている。
仮に離れてもミックは昔馴染みのリィーズたちにこことミリーを守る様に伝えている。
「レイラさんは立場的に一緒に居ない時があるだろう。でも、今も昔も君が居たからだ。ありがとう。これから先も妹を守って貰いたい。だから、今は休んで」
実力はロキの方が上。
ただし、攻撃するには体を当てる必要がある。
ロキがミックを噛みつき、再び部屋から追い出される。
『レストア』
しかし、ミックは剣を納めてむしろ受け止めていた。
ミックとロキを包む様に淡い光が包み込む。
ロキが噛む事をやめ、眠りについた。
ミックはロキの頭を撫でる。
また落下しそうな所を昔馴染みのリィーズたちが受け止め、廊下に置かれる。
「皆ありがとう」
ミックは皆に感謝を告げ、再度部屋に入る。
これでミリーと直接向き合える。
今の自分ならミリーを戻せるという確信はある。
しかし、触れなければならない。
近付いて、机を回り込んでミリーとの距離が1mくらいに差し掛かった時、突然フワフワと意識が落ちそうになるのを耐え、一旦距離を取る。
「今の感じ……」
初めて体験する感覚ではあったが、その感覚が気を許すものだとすぐに理解した。
それがミリーの特異性である事を。
(つまり、回復能力よりも『魅了』という力を増大させた?)
回復能力を使った様子はないけれども、ディアンの力で特異性を強調したのかもしれない。
(しかも限られた狭い範囲に凝縮する事で強制的に仲間にしてしまうのだろう)
元々は相互承諾によって仲間となるミリーの魔導。
それを強制的に仲間にする力に変わっている。
それでもやれる手はある。
今の魔導なら無理を通せるが、意志は必要ではある。
ミックは『レストア』を使って正常に戻し、もう一度向かう。
1m程の距離になってまた同じく『魅了』に掛けられる感覚に陥るが、『レストア』で解除。
しかし、『魅了』が掛けられ続けるのでこちらも『レストア』を何度も使う。
そして、ミックの手がミリーを触れるその瞬間。
「ァァァァァァ」
ミリーから叫声が発せられる。
その叫声に反応して何処からともなくリィーズが複数現れて、その一体がミックに体当たりをしてミリーとの距離を離される。
「わん」
「来るな!」
その事態に手助けする為に部屋へ入ろうとしたロキを含めた昔馴染みのリィーズたちを大声を出して静止させる。
(今の一瞬で範囲が広がった。それとミリーから発せられている力には『洗脳』も含まれている。だから、強制的に仲間に出来ている)
ミックは体当たりして来たリィーズに『レストア』を掛けて、部屋の外に飛ばす。
自分はその後に部屋に留まる様に着地した。
そして、今の状況を何となくで判断する事が出来ていた。
(今この部屋に居たらダメだ。でも、引く訳にはいかない。ロキたちが来たら仲間にされる。ここは1人で戦うしかない)
向かってくるリィーズは小型が多いが、中型が2体いる。
その時点では今のミックで一応対処可能…たが、それはミリーの『魅了』を受け続けていない場合での話。
向かって来た1体を『レストア』で解除させても、部屋の外に出せないのですぐに仲間にされる。
つまり、ミリーの『魅了』の範囲外に飛ばさなければミックの負けは確実。
小型に囲まれて襲って来た。
その時。
「お兄ちゃん…」
女の子の声が聞こえた。
ミックはそれ反応し、小型同士の隙間からミリーを見る。
そこには手を伸ばすミリーがいた。
虚な目を見る限り、決して洗脳が解けた訳ではない。
それでもそれはさっきの叫声を除けば初めての動きである。
しかし、瞬きを一回したら元の姿に戻っていた。
それは幻影だったのか。
「お兄ちゃんが必ず助けてやるからな」
幻影かどうかなんてミックにはどうでも良かった。
より一層兄として助けたいと思う様になった。
そして気付いた事もあった。
「お兄ちゃん気付いたんだ。嬉しいって思ってはいけないと思うんだけど、あいつが僕に無関心って事なかったんだって…」
あいつ。
それはディアンのもう一つの人格。
ミックをミリーから遠ざけ様としていたけど、ミック個人として興味を持たれていないと思っていた。
でも、ミリーが手を伸ばした時、ミックの中で何かが砕けたのを感じた。
それがミックが自分に脅威となり得る覚醒をさせない為の楔であった。
リィーズたちに囲まれた中でミックは発動した。
【導神】『ラインホープ』
ミックを包む淡い光が大きくなり、背中から淡い光の管が伸びて部屋の外にいるロキたちに当たって包み込む。
「皆の希望を持ってミリーを助けよう」
ロキたちが部屋に入って来て、リィーズを相手をする。
「あいつが1人で無理やりを押し通すなら、僕は仲間でそれを超える。だからそれで妹を…ミリーを救う」
リィーズたちによって閉ざされたミリーとの道がロキたちによって開き、再びミリーに歩み寄る。
もうミリーの『魅了』もディアンの『洗脳』も効かない。
今は【導神】を使っているからで、『レストア』だけではそうはいかない。
後はミリーを戻すだけ。
ミックはミリーを触れるとまたも叫声を上げる。
拒絶反応。
それと再び現れるリィーズたち。
仲間になっていたリィーズなのか。
周囲にいたリィーズが仲間になったのかは分からない。
2人のいる床から盛り上がり、人型のリィーズがミックを襲う。
ロキたちがそれに反応するも他のリィーズで手一杯。
ミックが意識をそっちに向けようとした時。
そのリィーズに赤いモノが絡みつく。
「ミックはミリーに集中しなさい」
聞き覚えのある声。
それに気づきながらも、意識はミリーの方に向き直る。
「戻って来てくれ!」
ミックはミリーを引き寄せ、抱きしめる。
淡い光はミリーを包み、光が強くなる。
その光は周りを覆う程に広がっていく。
少し経ち、光が収まっていく。
そこには眠りについてミックに体を預けるミリーがいた。
今回はミックがミリーを助ける回でした。
少々危機的状況感がなく、結構あっさり解決した感がありますが、実際にそれを入れるとリィーズたちに苦戦、ロキに苦戦、ミリーを助けるのに苦戦と3段階あり、多くて3話くらい使うかもしれません。
そもそも『レストア』という力自体もこの話で考え付いたものなので、急な展開にはなってしました。
まぁ正直言えば解決策が他で見つからなかったし、リィーズたちを突破するには倒すかミリーとの繋がりを解除するかになってしまう。
その上での『レストア』なので、リィーズからロキまでトントン拍子になりました。
ミリー戦では『レストア』では突破出来ない状況下での【導神】の発動。
こちらは第1章というよりキャラ設定の時点で決まっていました。
ただその時とは少々変わっており、ロキたちリィーズも含めての同時解除という展開でした。
『レストア』が出来た事で変更となりました。
次回はミリーを助けてクリフォードたちが戻ってきた所をちょっとだけ。
文字数が少なかったので多少増やして、前半はそんなに重要ではなく後半の方が重要な話になります。
何とかミリーを救い出したミック。
そこに助太刀してくれたレイラ、煌夜を運ぶクリフォード、クリフォードについてきたベレットが戻ってきた。
お互い成功した事を報告して、ミックはクリフォードに父親の戦いに参加したい旨を伝えた上でアガートラムを見せて欲しいと伝える。
次回、託された想い




