第16話 市街戦 開戦
翌朝。
まだ日が昇る前、エーリク隊、ウィロー隊、クリフ隊、デレック隊は作戦にあるそれぞれの持ち場に向かう。
そして、日が昇るその瞬間、クリフが巨大な岩をホーリーヘッドの門前に叩き落とした。
それが開戦の狼煙の如く轟音が鳴り響く。
それと同時にクリフは小型通信機で1、3、6番を押す。
エーリク隊、ウィロー隊、デレック隊が轟音もしくは小型通信機からの音で侵攻する。
クリフ隊はクリフとそのクリフに選ばれた回復役のネイト。
ネイトは汎用神の神リカバリーを素とする《リカバー》を持ち、『リカバリー』を使用する。
この『リカバリー』は1人用回復で複数人を回復する事が出来ない。
その代わり、外傷や疲労など体力回復をしてくれる。
その為、1人に限り継戦可能な回復能力となる。
今回のクリフ隊にとっては丁度良い魔導と言える。
まぁ、当の本人は目の前の大量のリィーズや正規兵に怯え、何よりもクリフの圧にやられていた。
クリフの親はマーシア王国の正規兵で、その心得を持っている。
寡黙な性格も相まって圧を放っていた。
デレック隊は1人1人の実力が今回のホーリーヘッド戦における魔導工兵の中でも高い部類にいる者が多く、総合力が1番高い為問題ない。
エーリク隊とウィロー隊は既に編成する前から決まっているエーリク隊の隊員の方が強過ぎる(全体の1番と2番がいる)為、編成はエーリク隊が2、3人ベテランと若い者を多めに、ウィロー隊は中間が多めになっている。
ウィロー隊はバランスで選ばれている所があるけど、強敵が現れた場合に対応できない可能性はあるっていうのが不安要素。
エーリク隊、ウィロー隊、デレック隊が進む先にはリィーズが待ち構えており、それを倒していく。
通路の大きさ的に大型が待ち構えている可能性は低く、警戒する必要があるのは人型と魔導工兵。
あとは物量との勝負となる。
順調に進む中、リィーズの数が多くなり、対応が難しくなる頃、それは起きた。
「え?なん…で?」
1人が倒れた。
それはリィーズの攻撃を受けたからではない。
味方としていた1人の魔導工兵が1人の魔導工兵を倒したからだ。
それがエーリク隊、ウィロー隊で見られた。
ただし、エーリク隊にはエーリクとクリフォードがいて、何人かは対応する事が出来た。
それによりすぐに鎮圧された。
逆にウィロー隊では何人かは対応出来たものの、裏切った中に実力者がいた事がすぐに鎮圧する事が出来なかった。
その名はレスター。
元男爵家の息子で総本部所属の魔導工兵の中では上位の実力者である。
元貴族である通り、裏切ったのは元貴族家や貴族家の者である。
全員貴族家や元貴族家という事ではないが、市民出身よりも割合的に多いので、少々厄介になる。
因みにクリフ隊のネイトはその1人ではあったけど、不運にも1人だけクリフ隊に配属されたので、どうしようもできなかった。
「レスター、これはどういう事?」
「どういう事と言いましても、ディアン先輩に寝返るって事ですよ」
ディアンは一応表向きに貴族主義を掲げていた。
それに当てられ、この様な存在が現れたのかも知れない。
「寝返る?仮に貴方の様な方がどれだけいるかは分かりませんが、…まぁ確かに一部隊の壊滅、もしくは遅れを取らせる事は出来ますか」
レスターが実力者であっても、エーリク、クリフォード、クリフに太刀打ちは出来ないだろう。
ただし、バランスで考えられたウィロー隊に配属されたのはレスターにとっては嬉しい限りだろう。
各隊長の中で実力が低いのはウィローであるから、壊滅する可能性もあり得る訳である。
「ウィローさん、ここは私が担当致しますわ」
ウィローの前に立ったのはスカーレット。
「貴族という選ばれた権力を自ら捨てた者が何を言っている?まぁ、私よりも強い者が他の隊にいるのは嬉しい限りですよ、本当に」
実際、スカーレットとレスターの実力はレスターの方が上である。
それでもスカーレットは火力が高かったり、相性的に勝てる見込みがあったりするが。
「待ちなさい」
ウィローがスカーレットの肩に手を乗せる。
「少々舐めている様子。私がやりましょう」
スカーレットの前に出る。
「いつも後ろにいた長がいつもどお〜り後ろに居た方がいいと思いますよ」
「分かりました。お願いしますわ」
「周りはお願いします」
「了解致しましたわ」
スカーレットは周りにいる残りの魔導工兵を指示して、リィーズと裏切り者の対処に入る。
「それでいつも通り後ろに居て欲しいと言いましたか?ただ役目としてやっているだけですが?」
「まぁ仮に戦えるとして相性は悪いんじゃないですかね?よっぽどまだスカーレットの方が良かったと思いますが?」
煽り続けるレスター。
それにやられる事なく、一歩も引かずに立ち向かう事を選ぶウィロー。
ーーーーーーー
丁度その頃、エーリク隊では裏切り者を捕え終えた所だった。
(こちらの隊で裏切り者が現れた。戦力低下は否めませんが、他の隊でも注意を)
エーリクが他の隊に報告を行い、クリフ隊とデレック隊から返事が来て、ウィロー隊からは来なかった。
「どうやらウィロー隊の方でも出た可能性があるな」
「はい」
「大丈夫何ですか?」
ミックは心配して聞く。
「問題ないさ」
「そうですね。裏切り者の主犯格はレスターで間違いないでしょうし、負けるなんて事はないですよ」
「レスターさんは総本部でも強い方の筈ですし、勝てる人なんて相性の良さそうなスカーレットさんくらいしか…」
現在の総本部の者のほとんどはそう答えるだろう。
後方支援は戦闘型に勝てないという認識を持っているからだ。
「まぁ今は後方支援に専念しているが、誰だって初歩は戦闘員として教えられる。学校卒業後もしくは魔導工兵として活動し始めた後で担当が変わる事がある」
「ミックも卒業後にそう言われて、現在は討伐隊に参加する事になっているのではないですか」
「そうですけど、私だって勝てる戦闘型は少ないですよ。それなのに戦闘型でも上位にいるレスターさんに勝てるんですか?」
「彼女は回復能力があるというだけで後方支援に選ばれてしまった。戦闘型としての才能を持ちながら。それが他の後方支援との違いかも知れないが、もしかしたら今の後方支援の中にも同じタイプはいる可能性がある」
「彼女の場合は魔導工兵として20歳までは戦闘型として仕事をしていました。当時はまだクリフよりも実力は上でした。後方支援になってからはそれに専念する為に前線に出る事が少なくなり、はっきりとした実力を皆に見せる事は無くなりましたからね」
「ただ、魔導工兵たる者日々修行はしている。エーリクは現在のウィローの実力を知ってるか?」
「多分、総長、私、クリフを含めた昔から総本部にいる者には模擬戦をする事はありますから」
「なら、安心だな」
後方支援を専念して実力を下げる訳にはいかないから、実力をむしろ上げられる様に修行はしている。
因みに実力を見せないのは役目をちゃんと熟す為にあまり実力として頼られたくないからである。
ーーーーーーー
『フリーズ』
レスターは魔導でウィローの足元を凍らせる。
レスターの魔導は妖精ジャックフロストを素とする《フローズンジェネラル》を使用し、主に『フリーズ』という凍らせる力を使う。
この『フリーズ』は一応条件があり、空中には発動出来ない事になっている。
それでも戦いに支障は少ない。
『ウォッシュ』
ウィローは持っていた剣に水を纏わせる。
『フリーズ』
すぐに発動した。
それに今し方剣の水が凍ってしまった。
「残念ながら貴方の力は効きません」
ウィローは剣を振り、前に踏み出した。
剣にあった氷は飛び、足にあった氷は残しながらもウィローの足は靴を脱ぐかの様に抜けた。
『フリーズ』
再度発動したレスター。
今度はウィローの下半身を凍らせた。
「少々面倒くさい事を」
ウィローは蹴って飛ばした。
「何故、何故効かぬ」
「それだけ修行しているという事です」
ウィローの魔導は『ウォッシュ』…「洗う」能力を持つ。
この「洗う」能力の効果は2つある。
1つは悪いものを洗うという意味での「洗う」で、対リィーズや回復で使っている。
もう一つは洗い流すという意味での「洗う」で、こっちは文字通り洗い流す事が出来る。
大抵のものを洗い流す事が出来るが、弱点もある。
そもそもとして実力が上のものには効きづらく、強大な力や物量には弱い。
そういう意味ではエーリクやクリフ、そして総長に勝つのは難しい。
クリフォードはギリ対応可能という感じである。
それでレスターは実力の差はそれ程なく対リィーズ戦ならレスター、対人戦は格上との修行をしているウィロー。
魔導に関してはレスターの魔導がほぼほぼ単体攻撃になるのはウィローにはほとんど効かない。
使い方次第では良い勝負するかもしれない。
「これならどうです!」
『フリーズスパイク』
ウィローの地面と天井が凍り付き、棘が伸びる。
『ウォッシュ』
ウィローは地面から氷を蹴っ飛ばし、着地した後、ジャンプして天井の氷を壊す。
「こちらはあまり時間は掛けられないので、行きます」
ウィローは駆け出す。
『フリーズ!』
大声で叫んだレスター。周り全体に凍りついていく。
「無茶な…」
明らかに自分の戦い方ではない行動にそう言いつつも、それを止めなければならないとウィローは思った。
『ウォッシュ』
剣から放たれる水の斬撃。
凍りついていく地面を抉って止める。
天井には左手から水を飛ばす。
しかし、水は広範囲にはいかず、氷は広がっていく。
『ジェネラルフロスト』
追い討ちを掛ける様に発動した。
完全に凍らせる能力ではなく、凍らせ続ける能力を発動させた。
それは氷ではなく雪。
一面は雪景色へと変わっていく。
「レスターの切り札ですか……」
先程の『フリーズ』は決して自暴自棄になって発動したと思ったウィローではあったが、これを見て準備であったと気付いた。
そしてそれは今洞窟にいるという状況では最悪な状況でもある。
温度が下がり、低体温症を引き起こす可能性が出てくるからである。
ウィローやスカーレットの様に氷や寒さに対する対策があれば別だが、皆が皆持っている訳ではない。
だから、今まで以上に危機感を持たなければならなかった。
ウィローは地面の雪を『ウォッシュ』で表面を溶かし、雪を氷へと変えて水の膜を靴の様にして、滑って進む。
レスターは今『ジェネラルフロスト』に力を入れており、隙がある状態。
そこにウィローが滑っている事による加速で接近。
『オールウォッシュ』
水の膜に覆われた剣を振り下ろす。
対処に遅れたレスターはもろに喰らう。
刃はレスターを通らずに覆われた水が変形し、レスターを覆う。
全身を水に覆われたレスターに水は渦巻く。
それによってなのか、『ジェネラルフロスト』が解除される。
この『オールウォッシュ』という能力は水の中で洗濯する効果である。
これは呼吸困難と水の中で身動き出来ない状態にする事が出来る訳だが、決して脱出出来ない訳ではない。
というか、レスターでも自身の魔導を使えば脱出する事は出来る。
ただ、大抵はこれを発動する事が初見で急に呼吸困難になるから、パニックを起こして正常に考えられない状態になってしまう。
さらにはただ水の中にいるという訳ではなく洗っているので、冷静さを欠けさせている。
だからもうこれで終わりである。
苦しむレスターが「ゴボッ」と空気が口から抜けた時、ウィローはレスターを解放した。
レスターは口の中に入った水を吐き出し、地面に倒れた。
一応生きている。
殺したい訳ではないので、気絶止まり。
周りではスカーレットを含めた火の魔導を持つ魔導工兵達が周りの雪を溶かしていた。
ウィローは他の隊に連絡をする。
(こちらウィロー隊、裏切り者が現れてその対処を行なっていました。現在鎮圧完了した事を報告します)
(了解致しました。エーリク隊でも同様の事が起こり、早急に鎮圧しました)
(そちらでも起きましたか)
(一応予想通りではありますが……)
予想通り。
つまりは裏切り者が現れると分かっていた事になる。
元々『魔導工兵』内でも貴族派というのはいた。
そしてそれが総本部内にもいるというのは上層部は知っていた。
さらに前日の堤防での攻防。
貴族出身の何人かに不審な動きがあると感じていた。
それを踏まえてエーリクはそれを各隊長に伝えて警戒する様に伝えていた。
それでも実際に起こされては困るというのもあった。
(各隊に報告します。これよりクリフ隊を除く3つの隊は一度『魔導工兵』ホーリーヘッド支部に向かって下さい。そこでエーリク隊で捕まえた者達を引き渡して館に向かいます。ウィロー隊、デレック隊は渡された後、支部の攻略に移って下さい)
このまま放置する訳にもいかないので、連れて行きながら支部に置いておく予定である。
因みにクリフ隊にいるネイトはクリフから圧を受け、さらには裏切り者の報告をされただろう後により強い圧を受けた事により余計に裏切れない状況に陥っていった。
回復を損なうと逆に怪しまれてしまうので、より一層回復に力を注いでいた。
エーリク隊、ウィロー隊、デレック隊はホーリーヘッドの中に入る。
それぞれの場所から支部がある中央の広場に向かう。
道中はリィーズや正規兵、数人の魔導工兵と対峙した。
そして、3つの隊は支部の前で合流を果たす。
「それではお願いします」
「了解しました」
エーリク隊が連れていた裏切り者達をウィロー隊に引き渡して、エーリク隊はその場から離れた。
市街戦が始まりました。
最初の戦闘は裏切り者でした。
元々貴族派というのは昔からあったんですが、ディアンの存在がそれを増長させた感じになります。
裏切る所はウィロー隊がデレック隊と合流する形になるので裏切るならウィロー隊だけの時に狙った感じになります。
次回は支部攻略戦、主にある人物との戦闘になります。
ホーリーヘッド支部に着いたウィロー隊とデレック隊。
その支部を攻略する為にそれぞれの隊で攻略を行う。
そして、地下に潜むある人物に挑む。
次回、支部攻略戦。




