第13話 懇願と叱責
「こ、ここはスタンレー堤防…」
ミックの見る先には堤防の道が見えていた。
そして、そこにいるモノも確認した。
「り、リィーズがこんなにも!?」
現在も魔導工兵たちが戦っているリィーズを確認し、その数に驚いていた。
「これが貴方の父親が用意したモノですよ」
ミックは近くにいる3人に気付いた。
「エーリクさんにコウヤとベレット、何でここに…。うん?父親が用意した?」
「はい、現在貴方の父親はマーシア王国とウェールズ公国に宣戦布告という名の奇襲を仕掛けました」
「まさか、そんな……」
薄らとそういう野心的なものを持っている事はミック自身も感じてはいても、実際には実行しないと思っていた。
何故なら一国相手に勝てるとは思えなかった。
しかも実際には二国と戦っている。
それが信じれなかった。
「うわぁぁぁぁ」
突然大声を上げたミック。
「どうしました!?」
「さっきベレットが押し出した時にそこの壁に激突したからその時の痛みが来たんだと思います」
ミックを心配したエーリクに煌夜は説明した。
「ベレット、お願い出来る?」
「うん」
ベレットは背中を抑えるミックに近づく。
『聖復』
前回の人型リィーズ討伐戦の際に【主神】の力と共に得た魔導。
一応『発光』の一能力としてであり、その回復能力。
元々戦闘向きの魔導の為、本来の回復タイプの魔導と比べると少し劣る。
それでも解釈としてはベレットの『聖復』は「あるものを無くす」になる。
まぁ【主神】の『象徴』は「継続回復」という効果になっているから、もしかしたら回復の効果が出来るかもしれない。
その『聖復』によりミックが今感じている痛みを無くした。
「ありがとうございます、ベレット」
「これしか出来ないから後は自分で」
「はい」
ベレットは首を振って否定しながら答えた。
その痛みは自分が付けたものだからだろう。
『回復』
ミックは自身に回復を行う。
その間にエーリクがここまでの状況を教える。
因みにこの間にもリィーズに襲われている為、煌夜とベレットが倒していた。
「なるほど、何となく把握しました。エーリクさんは勝てる見込みはあるんですか?」
ミックはエーリクの実力を知っていながらも、ここまで大規模な戦争を引き起こした自分の父親に勝てるのかを聞いた。
父親がどれだけの実力を持つかは実際に見てきた訳ではないが、今回の件を考慮しても簡単に勝てる程甘くはない。
2人の実力がほぼ同じである事は噂で知っていても、差があるのが現実である。
「勝つつもりではありますが、五分五分か彼方が一段上手かもしれません。力比べをすれば私の方が部があるでしょう。しかし、彼方はそれを補えるだけのモノを持っています。今回のリィーズを使ってきた事も考慮すれば以前よりも厄介な力を持っていてもおかしくはありません」
ディアンは現役を引退して大分経つ。
その実力を表には出していない為、実際どのくらいなのかは分からない。
エーリクに負けるつもりがなくても、分からない以上は判断する事は出来ない。
「それなら私もその戦いに参加してもよろしいでしょうか?直接戦いに参加出来る様な力はありませんが、サポートとしてなら私にも可能だと思います」
ミックは自身の父親との戦いに参加したいと言ってきた。
「それは…」
「すみません、その前にこちらに帰った後の話を聞きたいです」
煌夜が答えようとしたエーリクを割って入ってきた。
「うん、確かにそれ以前にも戦う理由があると思うが、それも聞いておこう」
答え自体を変えるつもりはないだろうが、それを聞いておいても損はないとエーリクは思った。
「分かりました」
ミックは了承し、話し始めた。
「前に起きたベレットの故郷で起きた大型の討伐を終えた数日後、私の下に父親から手紙が送られて来ました。その内容は長々と書いておらず、『近日実家に帰る旨の知らせを総本部に送る。その為の準備をしておく様に』と書かれておりました」
その手紙は個人的にミック宛で送られて来た手紙だろう。
内容的には悪い様な事ではないものの、相手がディアンとなれば内容は変わってくる。
「今までにも帰省したいと思ってはいても許可されていなかったので、最初こそ嬉しくは思いました。でも、あの人がそれを許可したという事は何かしらあると予想していました」
ミックは魔導工兵の学校の頃から帰れてない。
それを思えば嬉しくはあるだろう。
ただ、今まで許可してくれなかった人が突然許可する事には警戒してしまう。
「後日、総長から直々に『帰還をする様に』という報告を受けたと聞きました。帰還という言葉には少し疑問に思いながらも戻る必要も私自身あった為、それを了承する事にしました」
「総長はそれについて何か言っておりました?」
「個人的には行くべきではないと言っていましたが、私の家が貴族である以上は強制は出来ないとの事でした」
「総長が今回の事を予見していたかは分かりませんが、そう答えるしかなかったんでしょうね」
魔導持ちであっても、貴族であればそちらが優先される。
だから、総長の行動は何もおかしくはない。
「その後、人知れずにセントラルを発ち、実家があるホーリーヘッドに向かいました」
「辺境伯領やホーリーヘッドに入った際に何か違和感はありませんでしたか?」
エーリクは質問をした。
実は辺境伯領に入ってきて一度も領民を見ていなかった。
公国領の街では戦った惨状が残っていた。
特に辺境伯領近くは奇襲を受け、逃げるのも難しかったから酷く残っていた。
その違和感を持ちながらここまで来ている。
戦争前に何か変わった事がないかを聞いている。
「ないと思います。5年程なので忘れている事もありますが、少なくとも他の町や都市とは変わらなかったと思います」
5年程と言っても子供の記憶。
それに当時のミックにとっては他の事を考えていたから記憶が曖昧になっている。
「そうですか…。それではディアン…父親に会った時はどうですか?」
「見た目も中身も変わり過ぎていました」
「5年程とは言え、見た目はそんな変わらないと思いますが、どのように変わっていましたか?」
「若返った様な感じはしました。前に会った時と同じかそれ以上に」
「うん…、魔導によって意図的に若返っているのか?そもそも40代となれば顔や体に表れてくるものですから、それを隠す事が出来ると思いますが、そういう訳ではないでしょ?」
「はい」
40代なれば老いが表れ始める年齢。
エーリクもその年齢になり始めている年齢で少々気に始めている。
それを踏まえてその老いを消す事は難しくとも、隠す事は出来る。
日々の手入れや化粧によって。
ただディアンの場合はそういう事ではない様だ。
「中身に関しては?」
「人間の皮を被った悪魔。人前では人間の言動はしているものの、考え方は終わっています」
今回の件でもリィーズの起用や自領にいる魔導工兵を洗脳している事は非人道的と言える。
それをどうしているかは分からないけど、ミックがいう事が正しければそれをやっているのが確実にディアンである事になる。
「そうなんですか。最悪と言ってもまだ最低限には皮を被っていたんでしょう。それでもミックにはその皮は被っていなかった。今のディアンはそこまで黒く染まってしまったのだろう」
マーシア王国やウェールズ公国は国や貴族関係で関わり、『魔導工兵』も魔導工兵として関わる事はあっただろう。
それをする上で最低限人道的に振る舞っていたのだろう。
それでも元々性格の悪さは出ていた訳だが。
「それと妹はどうでしたか?」
次に聞くのは妹。
家族構成を把握しているため、エーリクは聞いてみた。
だが、それを聞くと目に見える様に落ち込んだ表情をしたミック。
「無理なら話さなくても…」
「いえ、話して下さい」
その表情を見て「話さなくてもいい」と言おうとしたエーリクを煌夜が遮った。
「この落ち込み様を見るだけで分かります。これ以上は話す必要はありません」
「僕は寧ろ話すべきだと思います。(エーリクさんとしてはミックの父親との戦いに参加して欲しくはないでしょう?)」
「(それはそうですが…)」
「(自分はそれを正したい」
「(……少し様子を見ます)」
「(ありがとうございます)」
小声でエーリクに許可を貰う。
「そ、そう言えば……」
そこにミックが何か思い出した様だ。
「何か思い出した?」
「ずっと前に妹の乳母になって後にメイドになっている人がいました。その人は久しぶりに帰った時は妹の側仕えとしていましたが、今思えばその人…いえ、そのモノはリィーズだった気がします」
それは5年程魔導工兵をしていて学んだリィーズの知識から感じたモノだった。
「そのモノの様子は?」
「言動は人間そのものではありました。私がセントラルに行く前は私も妹も母代わりの様な感じで悪くはありませんでした。父親との関係性は建前では主従関係でありましたが、実際には分かりません」
実はミックとその妹は腹違いの兄妹となり、ミックの母親はミックが煌夜に伝えていた様に既に亡くなっている。
妹の母親は別に存在するが、ミックは知らなかったりする。
昔は妹の面倒を見てくれる優しい人というイメージを持っていて、母親のいないミックにとっては母親代わりにもなっていた。
逆に言えばその人がリィーズであったなら衝撃的な事になる。
まぁ、実際はそれを今気付いている様に気付かない程にそれ以外で何かあったからだろう。
父親との関係性は主君と娘の乳母、主君と召使いという上辺の関係性でしか普段は見せなかっただろうし、ミック自身が子供であった事もあり、細かい所までは知らなかったのだろう。
「今回の黒幕か、本当に主従関係なのか。どう思います?エーリクさん」
「正直分かりませんね。既に人型を味方にしているのは報告を受けているので、ディアンが主導である可能性はあります。ただ、リィーズをいつから蓄えていたのか、人型をずっと懐に納められるだけの力を持っていたのかも分かりません。少なくともミックの言っていたリィーズはずっといた事になります。そのモノが特別であったのかどうかという事になりますね」
元々情報が錯綜している状況でディアンがどうしたいかまではエーリクもクリフォードも、マーシア王国やウェールズ公国も分かっていない。
そのモノがいつからディアンに接触したかによっても変わってくる。
それでもやる事は変わらない。
「例え主導者がディアンでもそのリィーズでも倒す事は変わりません」
今回はディアンを止める事が目的で、リィーズが現れた事で『魔導工兵』が出て来ている。
それは分かっている事ではある。
「さて、その事を今気付くって事は妹に何かあった事になりますよね?」
煌夜は敢えて聞き出す。
それを聞いて明らかに表情を変えるミック。
何かあったのは間違いない。
「今回の件、ミックと同様に妹の方にも何か処遇が下されるかもしれない。一応子供という事で軽くはなると思いますが、もしミックの父親が妹に何かをして何かをさせてしまえばそれがもっと悪くなるかもしれない。そうならない為にもどうするべきか考える必要があると思うんです」
血縁関係は当人に罪がなくても同罪にされる場合がある。
それは同じ考えを持つと思われたり、私怨で復讐されない為である。
教育をしているのは親でその影響を受けていると思われているからである。
「だから、私はエーリクさんのサポートをして……」
それを聞いてもなおディアンとの戦いに参加しようとするミックに煌夜は胸ぐらを掴み、立ち上がらせた。
「今し方操られていた者が行った所でまた同じ事になればそれこそ迷惑にしかならんだろ!」
激情し、怒声を上げる。
そして、放した。
ミックは呆気に取られた様に煌夜を見つめていた。
「今回の件が起きる前ならまだ家族間の問題になり、危機感を覚えていたミックが止めるべきだった。しかし今はマーシア王国やウェールズ公国、そしてリィーズ討伐の為に参加した『魔導工兵』が父親を止める理由を持ってしまった。だから参加する理由はあっても無理して参加する必要はなくなり、むしろ邪魔になるなら参加しない方が良い」
今までは事情を知るのは家族でしかなかったから、他が参加出来なかった。
しかし今は規模拡大し、参加出来る対象が増えてしまい、参加する必要がなくなってしまった。
「父親の方はそれを目的として向かっている訳だし、結果ももう大体は決まっていると思う。だけど、妹の方はこの戦争に参加するしないにしても戦争であるからこちらの誰かが見つけた場合に必ず保護するかどうかは個人の判断になる。敵と見なせば倒すという選択もあり得るんですから」
戦争は目的や決まりがあっても、個々の戦いでは個人またはその時いた仲間の判断によって決まる。
事前に保護や捕虜といった殺さない事を伝えていれば少しは変わるだろうけども、別にそれは言っていない。
言っていない理由は戦争不慣れ、対人戦不慣れなどの経験の浅い者に枷を持たせたくないのと、そもそもミックの妹だと判断出来るのがミックだけなので言った所で分からないからである。
「そう言えば妹は魔導持ちと聞いた気がしますが、それが利用とする理由だったりしますか?」
「その可能性はあります」
妹が魔導持ちである事は何人かに伝えている。
その理由は可能性としては低くも魔導工兵の学校に入学する可能性があるからである。
伝えるにしても総本部の何人かと学校関係者や総長が信用出来る者に限って伝えている。
「妹…ミリーは今年で10歳。入学出来る年齢でありますし、特例としてそれ以前から入学可能と聞きますから、伝えておけば入学したという情報が来ると思ったんです」
ミックから見た父親の性格からその可能性は低いと思いながらもその可能性を期待していた。
しかし実際にはそんな事は無かった訳である。
「ただミリーの魔導を思えばその可能性は無かったんです」
「父親の性格によってではなくですか?」
「それもありますが、今回の件でそれは確実だったという事が分かりました」
元々ミックには厳しい所を見せて遠ざけていたのに対して、妹のミリーには厳しい所を見せた上で遠ざけていなかった。
その違いは魔導にあるとミックは思った。
「私たち親子には『リィーズを回復出来る』という特徴を持ちながらもそれぞれで特異性を持っていました」
回復型や回復可能な魔導はリィーズに対して回復が出来ない。
その上でディアンやミックにはそれを可能としているが、2人には違いがある。
「私は回復を用いてリィーズを倒す事を可能とし、父親は回復とその副作用という毒を用いて大体の事が出来てしまう。そして、ミリーは回復を用いる事でリィーズと仲良く出来てしまうのです」
2人と比べれば倒すという力は持っていなくても、リィーズと仲良く出来る事は2人とは違ったヤバさがあった。
「え?それって……」
近くで聞いていたベレットが察してしまった。
「それは今回の件の様な事は可能ですか?」
エーリクが2人の代わりに聞き出す。
「分かりません。これ程の規模はしていませんので、ただ大型や人型と仲良くする事は出来ます。これはリィーズ側の判断により仲良く出来る事が出来ます」
ミックは過去に見てきた妹ミリーの魔導を伝えた。
元々秘匿していたから多くは出来なかっただろうけど、ディアンが隠していた可能性もあるため、規模に関しては分からない。
それでもリィーズ側の判断により仲良く出来ていた事はずっと見てきた事なので理解していた。
「それを参考にしているのか、それに付け加える形で自分の魔導を使ったか」
エーリクがそれを聞き、ディアンがどうやったかを予想するが、これである事実も判明した。
「これで少なくとも妹の魔導が使われている可能性が出てきた訳ですが……」
加担っていう事にはまだならないが、何も知らない者からすれば倒さなきゃいけない相手と判断されてしまう。
「ここは兄として止めるべきだと思うんだけど?」
「それは貴方がやらなければならない。助けたいと思うなら一番優先するべき事ではありませんか?」
煌夜とエーリクは訴える。
「その為なら僕は手伝いますよ」
「私もするよ!」
実際に解決しなければならないのはミックだけど、その為の手伝いをしても良いと言う煌夜とベレット。
「分かりました。父親をどうにか出来ないのは悔しいですが、妹を護れるなら本望です」
元々妹を護る為に父親をどうにかしようとしていたミック。
一番は妹で、二の次が父親であった。
それがいつの間にか逆転し、父親をどうにかする事を優先してしまっていた。
まぁ実際その通りではあったけど、それを他の者がしてくれるからこそ妹を優先する事ができる。
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治療を終えて、他の魔導工兵たちもここの対処を終えた事でミックがこの部隊に入る事をエーリクがみんなに伝えた。
一応反論もあったが、ごく一部であり今ここで信用して貰わなければ困る。
ミックを捕虜として拘束した所で連れて行く余裕もないし、ここに放置する訳にもいかない。
エーリクは説得を行い、これから行くホリーヘッドの情報はミック以上に適任はいない事を伝えた。
渋々納得したごく一部にエーリクは「半信半疑のまま、今は納得して欲しい」と言った。
新たにミックが加入して部隊は一度夜を明かす事になる。
今回は煌夜によるミックへの説得でした。
叱責と言ってもあまりしなかった訳ですが、他の作品の主人公と同様に怒ったイメージが著者本人には浮かばず、いざ入れても解釈不一致に思えて描写として抑え気味になっています。
一応怒りの気持ちは持っていますが、『不浄淘汰-忿怒』の補正ありきでの叱責という事にしています。
あと、煌夜とベレットが周りのリィーズを倒している際にベレットは小型だけを相手にしています。
その理由は実力的には中型を倒れますが、不安定かつ補正ありきなので頻繁に使える訳ではないので、小型に専念して貰ってます。
それでも以前は小型すらも倒すのに不安があったので、実力は上がったのは確かです。
次回からこの章最終局面に入っていきますが、ホーリーヘッド手前での話を1話した後にホーリーヘッド戦に入ります。
細かい戦闘はしないので〇〇戦のタイトルになり、最後にこの章のエピローグになる予定です。
次回はホーリーヘッド戦の前夜の話になります。
部隊にミックが入り、敵拠点に行き前に一度拠点を作り、一夜を明かす事にした。
翌日の決戦の為にエーリクとミックは偵察を行い、ミックはホーリーヘッドの事をエーリクに説明する。
それを元にエーリク、ウィロー、クリフが作戦を考えてる。
次回、決戦前夜。




