第1話 プロローグ
煌夜は京にて国のトップである帝と対面していた。
帝は部屋の上座の間に座り、前には御簾があってお顔が見えなかった。
「烏摩煌夜。はるか遠くの島国であるアングロ・サクソン連合王国にて魔導工兵とはどのような者なのかを学んでくるといい」
「は!お任せを!」
煌夜は正座でそれを了承する。
「ふふ、堅いことは簡単に済まして」
「何を言っているのですか?」
「私との仲ではないか」
御簾の向こうの声が中年男性の声から若い女性の声に変わる。
先ほどの形式上のものとは違い、2人の関係が親しい関係であるのが見て分かる。
「まぁただ個人的に話がしたかっただけよ」
「個人的ですか?」
「貴方の家族についてと父親のこと」
「それはもういいじゃないですか。今更……」
煌夜は顔を背け、その話を拒否する。
「貴方の母方の家系は由緒正しき家系。そして、片親が外国の方である父親。色々と複雑な心境が続く中、貴方を向かせるのもどうかと思っていたのです」
「お気遣いは感謝します。ですが、自分は魔導工兵として生きていくと決めました。この件が魔導工兵として行くのであればそれを了承するまでです」
「うん、そうか。こちらの思惑を言っておくと貴方の潜在能力は凄まじいという判断がされています。そして、それは母方の家系に限らず、父親にも関係があるのではないかと思われています。その証拠に貴方の持つ神は元々別の国の神であったと言う。父親はその国の者の可能性があります」
魔導の素としている神は血統によって決まっていると考えられている。
これは倭以外の考えで、西洋は政略結婚で他国間との結婚がなされ、東洋は特に大国の中華にて周辺諸国からの貢物として女性が送られる場合がある。
これにより他国の神が宿るということがある訳で、不義対策になったりもするが、実際のところは血統事態がぐちゃぐちゃでそこまでの効果はない。
その反面、倭は0という訳ではないけど比較的に少ないため、効果はある。
ただそもそも血統と神が結びつくことはあまり知られていない。
因みに現在の中華は昔に北の遊牧民族による中華の支配されたが、その後国の崩壊が起こり、それを機に各地で奮起して国を建国したことで、複数の国が入り乱れる戦国時代に入っている。
それは大昔、中華が統一される前の春秋戦国時代の再来となった。
まぁそんなこんなで外国人との結婚の少なく、血統に関してにしても国のトップである帝が知らない訳もない。
ただ、倭では少々複雑で、他国の神を自国の神として名前を変えているため、その判断が難しくもあるけど、基本的には日本の神が宿るのでその判断になりやすくはある。
「そもそも話として貴方の両親について知らないことが多過ぎます。そこで奇しくもアングロ・サクソン連合王国内には天竺にある国、ムガル国も含まれていると聞く。貴方の力を知るためにも貴方自身でそれを見つけてきて下さい」
天竺には仏の聖地がある。
現在は廃れており、その教えは天竺の東の半島や島々に渡ってしまったけど、その国の神は違う宗教で現在も続いている。
「それが帝の望みならば……」
「これは帝の命令ではありません。私個人が貴方に貴方自身のことを知って貰いたいからです」
帝は自分がそうした方がいいと思っているけど、煌夜のためになると思っていた。
それは決して帝という立場からではなく、一個人としてのものである。
「承りました。必ずや突き止めて見せます」
「最優先ではなくてもいいのよ。とにかく向こうの暮らしに慣れてからでお願いしますね」
「はい」
堅苦しい応えに帝の方が戸惑ってしまう。
「では下がっていいよ」
煌夜は一礼。
さらに部屋を出る際にもう一度一礼をして出て行った。
「はぁ……。私が帝になったばかりに全然軽く話してくれなくて……」
帝は煌夜の堅苦しい言動に残念がり、そして悲しんでいた。
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「煌夜〜、島の外に行っても大丈夫?」
「大丈夫ですよ。高江姉さん」
煌夜の頭をポンポンと手を乗せてくる女性は美龗高江。
煌夜は15歳であるものの背は150cmくらいで背が低く、対して高江は20歳で170cmくらいの背で女性にしては高身長だろう。
「姉さん、煌夜は立派に育ちました。問題ないでしょう」
「成人したと言ってもまだ子どもだぜぇ?心配もするだろう」
近くには高江と似た顔をした眼鏡姿の女性で名は美龗羽津。
見た目のほとんどは高江と瓜二つではあるが、気さくな高江に比べて知的な印象を受ける。
「はぁ…、姉さんの面倒見が良いのは良いことではありますが、煌夜にはそろそろ自立する頃でしょう」
「せっかく魔導工兵になったっていうのに最初の任務ははるか遠くの国に行ってこいなんてな、バ…」
「姉さん、その辺で。不敬罪になって知りませんよ」
「おっといけねぇ」
煌夜としては高江が心配してくれるのは嬉しいことだし、多分羽津も心配していながらもその上で背中を押してくれているのだろう。
「高江姉さん、羽津姉さん、心配しないで。絶対に果たしてくるから」
「あぁ。まぁ、お前も魔導工兵だ。立派に務めてこい」
「ふふふ。姉さん、ツンデレですか?」
「はぁ!?違うっての!」
「煌夜、何かあれば羽津姉さんに連絡して下さいね。頼りない姉さんよりも頼りにして下さい」
「お前ぇ!」
「はは…」
高江が羽津に殴りかかっていたが、子どものように抑え付けられていた。
それを見て煌夜は苦笑いしてしまった。
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外伝の方が難しく書こうとし過ぎて難航しているため、新作の方から投稿しようと思います。
因みに第1章は1日おきに投稿予定。