第1話 改めての新たな日常
カントゥイド村の大型リューズを討伐して2日後。
討伐隊には1日の休暇を与えられ、参加した煌夜も貰って翌日のこと。
急遽討伐隊に参加したことで今日から仕事初日となり、寮で自分の指導する立場にあるベレットを待つ。
「おはよう!コウヤ!」
階段から駆け降りてきたベレットが手を振りながら挨拶してきた。
「おは…あ……」
挨拶を返そうした煌夜だったが、ベレットが階段を踏み外し、地面に頭突きした。
「大丈夫ですか?」
煌夜はすぐに駆け寄る。
「あははは…転んじゃった……」
ベレットは自分から起き上がったけど、鼻血を流していた。
「もう、また階段から落ちたの?」
そこに受付の女性が来て、ポケットからハンカチを取り出して鼻血を拭き取った。
ベレットがドジって怪我をするのは日常茶飯事で、ここや総本部、職場の人たちは自分のとは別にハンカチを持ち歩いている。
さらに要所要所に救急箱が置かれていて、これに関してベレット関係なく置いてはあるものの、中身はベレットがいなかった頃よりも少し多めにしている。
当の本人は昔からこういう体質なのか、大怪我にはならず、軽傷か多少の痛みで済んでいたりする。
「ありがとうございます」
「気をつけてね」
女性は受付に戻って行った。
ベレットは多少痛みを負いながらも立ち上がり、煌夜が同行する形で外に出た。
今日の仕事は半日。
お昼からは休みの予定。
休みは取ったけど、煌夜は特殊な力を使ったことによる反動を考慮してのエスラの指示である。
魔導工兵の仕事はベレットが本来の役割のため、抜けたところで問題はない。
工場に着いた2人は仕事を行う。
とは言っても煌夜はこちらに来てすぐに大型リィーズの討伐隊に同行したため、仕事は魔導工兵の「兵」の部分しか教えられていない。
今日は「工」の部分を教えてもらう。
まぁその「工」は糸を作る作業とできた糸を倉庫に運ぶ作業がある。
基本的にリィーズの起きやすい前者の方を集中的に行い、週に一度は後者を行うようにしている。
会社は個々で違いはあるものの、基本的には糸を製作する工場、その糸を保管する倉庫、そして内外を管理する事務所がある。
事務所は定期的に掃除するから、あまりリィーズは現れない。
倉庫は糸を保管する場所。
隅っこはどうであれ、糸近くは綺麗にしてある。
外との出入口があるからそこからのゴミで発生する可能性があるが、比較的に低いだろう。
1日だけそこの勤務になるのは念のためでしかない。
工場は一応掃除するとはいえ、常に埃は出るし、精密機械があるから頻繁には掃除はできない。
割合にすれば9(工場):1(倉庫):0(事務所)という感じだろう。
仕事内容は工事が糸を作る作業、倉庫まで運ぶ作業、掃除となり、倉庫は倉庫管理(主に糸の保存と掃除)となる。
実際作業は難しい訳ではないので、追々覚えていけばいいだろう。
昼時。
会社の人たち(ベレットも含む)と昼飯を軽く済ませ、昼からはお休みなので会社を後にする。
来たのは寮ではなく総本部。
「ミック」
「コウヤか」
煌夜はミックに声を掛け、ミックは顔を上げて返事をした。
その光景は以前の召集の時と似ているが、その時よりもマシそうだ。
「ミック、朝来たやつ?」
「えぇ。コウヤも似たような用件だと思いますよ」
最近というか、こちらに来てから総本部に行くことが多いが、総本部に限らずに各国の本部や各街での支部に魔導工兵が訪れることは少ない。
普段は寮と仕事場を行き来し、出退勤事態は仕事場の会社から総本部などに伝わるようになっている。
魔導工兵個人が何かあれば直接訪れる訳だし、総本部など側からは寮に伝えるようにするか手紙で伝える場合もある。
直接会う必要があるなら、そうするように伝える訳である。
あとは以前のような緊急性がある場合には会社に連絡を入れることもある。
因みに今回は朝に寮の人から「時間がある時に総本部に来て下さい。担当者から話があります」ということを聞いていた。
一応それほど重要な用件ではないということも聞いている。
煌夜はミックと別れ、総本部に入って自分の担当者であるエイダに伺う。
一室に案内され、そこでエイダから用件を聞く。
「今回来て頂いたのはベレットの件です」
「ベレット?」
それがどういうことはすぐには理解できなかったが、ミックとの関係性からはあり得なくもなかった。
「一応として総長からの要請…というより要望だと思いますが、ベレットは先日の討伐隊にて力を得たという話なので、それをどうにか物にするために鍛え直してして欲しいそうです」
「鍛え直し…それは先輩方ではなく僕ですか?」
「詳しい話は分かりませんが、そちらの国の剣術を取り入れるのはどうだろうか…という話は聞きました」
先日ベレットは人型リィーズを倒すために【主神】の力を得た。
元々戦闘に不向きでドジっ子なベレットは小型リィーズでも何とか倒せるレベルである。
魔導に関して強力とは言い難く、魔導工兵自体が相応しくないのでは思われているくらい。
それでも魔導を持つ存在は貴重であるため、相応しくなくても鍛えるしかなかった。
そこに【主神】の力はベレットだけでなく周りにも影響する力を持っている。
それを利用したいのだろう。
総長はベレットの潜在能力に気づいていたが、大半は大きく力を得たと思いながらも安心してリィーズ討伐を任せられる程度にしか認識していない。
根本的に戦闘能力が低いからだ。
それをどうにかするために煌夜を呼んだのだろう。
「それをミックと合同で…ですか?」
「話は聞きましたか?」
「触りくらいは」
「そうですか。今回は煌夜さんが主軸になるでしょう。ミックさんに関しては西洋剣術を再度教えるためという話です」
「なるほど」
ミックは貴族出身。
他にもいない訳ではないけど、年齢が近く学校時代からの同級生というのが大きい。
まぁ本人は厄介事が流れてきたと思ってそうではあるが。
「その件を引き受けますが、期待はできないと思いますが…」
「それは同意します」
今までも教えてきただろうから、覚えられると2人は思えなかった。
そもそもドジっ子な部分が1番問題だろうから。
「それでまだ日は浅いですが、やっていけそうですか?」
「まだ不安なことはあります。ただ魔導工兵としての仕事は大丈夫だと思います。多分日常生活の方が大変な気がする」
「魔導工兵の仕事はそちらの国での多少違いはあってもしているという話でしたので確かにそうですね。日常生活に関しては慣れてもらうしかありません。何かあれば寮の職員に聞いて下さい」
「はい」
エイダのような総本部の職員は魔導工兵…特にリィーズ関係を主に魔導工兵たちの繋がりを持つ。
生活に関しては寮の職員に任せている。
「1つ聞きたいんですけど」
「はい、なんでしょう?」
「総本部などの職員の採用ってどのようになっているんでしょうか?」
「一応守秘義務がありますので、あまり詳しいことは言えませんが、コウヤは少し詳しく言ってもいいでしょう」
魔導工兵は特別な存在であるから、その情報も貴重。
一職員の採用も内部情報はちゃんと開示不可である。
それはどの会社でも同じようなものだが、魔導工兵の管理を行う職員の採用情報は国家上層部の採用と同じくらいの機密情報となる。
煌夜は本場の魔導工兵とその仕組みを知るために来ている。
だから、全部とはいかなくとも多少は開示していい許可が出ているのだろう。
「採用する条件は特にありません。ただ魔導持たない一般の人を対象にしています。そもそも魔導持ちは発見されて魔導工兵、もしくは望まずまたは戦闘に合わない魔導持ちは職員になることが多いので」
採用要項は他の一般会社と変わらない。
あるとすれば人柄くらい。
それに関しては面接で判断することになる。
魔導持ちは基本的には魔導工兵になってもらう様にしている。
そもそも魔導工兵は少なく、多いに越したことはない。
それでも個人の希望や魔導自体が戦闘向きではない場合もあるため、その時は職員に、それすらも拒否する場合は総本部以下の魔導工兵の組織がある街で生活し、監視されることになる。
これは魔導工兵という組織が全て魔導持ちを管理している訳ではないが、世間すれば魔導持ち=魔導工兵がしたという認識を持たれてしまうため、魔導持ちを発見する必要があり、組織入りしなくても野放しにする訳にもいかず、監視して場合によっては使用制限する。
魔導工兵という名自体は西洋諸国に伝わり、職として確立されているが、組織自体は違うため、他国の組織とは魔導工兵の管理するために情報を渡すこともあるが、国から経営資金を頂いている手前、魔導工兵同士の問題が起きれば肩入れをしながら解決しなければならない。
アングロ・サクソン連合王国では総本部は各地の本部や支部の管理を含めて他国との関わりも行わなければならないため、特に重要職。
部署ごとで難易度の違いはあったりする。
まぁ、総本部でもセントラル内だけの限定的な職員の仕事なら支部と大差なかったりする。
因みにエイダが煌夜を担当するということは重要職。
情報管理もお手のものだろう。
「あえて違う点を上げるなら総本部の一部は国際組織という位置付けとなります」
連合王国内の本部は連合王国内だけの国際組織とも言えるが、総本部は大陸側の国々や遠方の国、他の大陸にも幅を利かせ、さらにはアングロ・サクソン連合王国の魔導工兵組織は魔導工兵組織として初の組織であり現在においてもトップの位置にあり、その階級は世界各国以上の世界一の組織となる。
つまりは採用自体も並大抵のものではない。
「それに就ているエイダさんは僕が想像できないほどの努力をしたんですね」
「はい。その職に関しては普通の職員とは別に採用試験があります。この試験はどの本部、支部でも受けることができ、合格すれば総本部に移動することになりますが、その引越しの費用も組織が受け持ちます。私は少々違いますけど」
「違う?」
「私の出身はここセントラルでもマーシア王国でもなく、連合王国内の他の国出身です。ただ、幼少期に親の都合でセントラルに来ました。その後に試験を受けたので移動時間を短縮して仕事に就きました」
そもそもセントラル出身ではなければ本部や支部で試験を受けて合格しなければ総本部に移動することはない。
ただ何かしらの事情でセントラルに来ることがあればエイダのようなパターンもある。
セントラルで住んでいて総本部で受ければその分早く仕事に就けるが、他のところから事前に来たなら移動の費用は実費の人もいる。
「そうなんですか。その前後間は聞かないとして、職員も寮住みですよね?」
「はい、ただ魔導工兵よりは強制ではありません。魔導工兵は緊急時にすぐ連絡する必要があるため、その街の出身者でも寮に住んでもらってます。職員は一般会社と変わりません」
魔導工兵が寮に住むのは組織側の都合でしかない。
連絡を寮で一括に行えるから。
ただお休みとかだと寮にいるとは限らないため、当人にすぐ届くわけではない。
「ありがとうございます。このくらいで大丈夫です」
聞きたいことは聞けたので煌夜は感謝を言う。
「えぇ、これくらいは。あと、少々関係ない話になるかもしれませんけども」
「はい、なんですか?」
「前にちょっと話しましたけど、連合王国の政治面での役割を持つ魔導工兵議会…通称《議会》は組織の一部。それでも所属する議員と職員は別だとしても、議長はこちらの職員の引き抜きを行うこともあるため、採用に関わることもあります」
魔導工兵議会…《議会》はアングロ・サクソン連合王国の政治を担う存在。
そのトップの議長は総長エスラと双璧であり、魔導工兵を立場故に魔導工兵のことを考えるエスラとは違い、議長は一般人からの選出もあり得る。
だから、一般的な考えを持つ議長からの意見で職員採用を行う場合がある。
まぁ実際、煌夜もとい倭国…それ以前に国というものとアングロ・サクソン連合王国は同じではない。
アングロ・サクソン連合王国は国であって国ではない。
実際に国王がいるわけではないから。
もし、連合王国を参考にする場合は総長を軍事的リーダー…例えば将軍に置き換え、議長を政治的リーダーを宰相に置き換えればできなくもないが、そこに国のトップである国王を置いた上で考える必要がある。
これはあくまでも参考程度でしかない。
煌夜も主に魔導工兵という職を学びに来ただけで、組織に関してはある程度入手できればいいだけの二の次。
煌夜的には職員のことを深く知りたい訳ではなく、あることを知りたいためのちょっとした情報なれば…くらいにしか思っていない。
最後の情報は煌夜にとっては重要ではなかった。
煌夜はあくまでも組織の情報を知りたいだけの体で早々と話を終えた。
今回は説明回になりましたが、そもそも第1章が急ピッチだったので、第2章はもう少し多めになるかも。
この投稿と同時に第1章の補足説明や人物紹介をしています。
本編で説明するか分からないので、ある程度参考になればと思います(章ごとで入れる予定)。
次回はベレットの修行の関して。
一先ず話を終えた煌夜はベレットの鍛えるために準備することに。
訪れたのは戦う者にとっての大事なものを扱う鍛冶屋であった。
次回、魔導鍛治師




