第15話 エピローグ
「僕は呼ばれたのは何でしょうか?」
帰ってきて早々、総長のエスラに呼び出された煌夜。
「人型のリィーズに遭遇したようだな」
「はい」
「災難だったな。人型のリィーズなら大型のリィーズと同等かそれ以上だからな、よく生き残ったもんだ」
「運が良かっただけです」
「それはそうだな」
実際、煌夜でもベレットでも2人合わせても勝てなかった。
2人がその場で成長しても倒すまでに至らなかった。
むしろ、よくやった方で運が良かった。
「で、お前を呼んだのはそのリィーズについての詳細を聞きたい」
「隊長からはどの程度を?」
「ウィローからの情報も合わせれば知能があることと姿形までだ」
既に隊長のエーリクから報告を受けていたのだろう。
大型討伐と中型の人型のリィーズのこと、そして村のことも合わせて。
その中で大型と村のことに関しては拠点にいる間に情報整理をしていて、それをちゃんと報告することができていた。
人型のリィーズに関しては煌夜とベレットで、ベレットは情報整理が難しく、それを上手く伝えることができないため、煌夜に聞いているのだろう。
「なるほど、分かりました。僕自身が持っている情報を話します」
煌夜は見たことをエスラに話した。
「そのリィーズ、年月事態は長そうだな。ただ、知能が良いって訳でもないな」
「総長は人型とは戦ったことがあるんですか?」
「あぁ、あるさ。まぁそもそも人型は発生率が低い。だから、発生原因が分かっていないことの方が多いが、ただ仮説として長い年月を経った時に突然知能を得るんじゃないかとは言われている」
エスラは長い経験と先駆者たちが積み重ねてきた知識からおおよそのことは把握し、さらにごく僅かな人型のリィーズの情報から自身の仮説や誰かの仮説も持っている。
ただやはり少ない分にそれを確定させることができていない。
「でも、知能が良い訳じゃないってのは?」
「人は自身の力と道具を使っての力がある訳だろ?」
「つまりは徒手空拳かそうではないかってことですか?」
「そうだ。人が道具を用いるのはリーチの差やダメージを与えるのに適しているから。まぁ、簡単な話としてそのリィーズは自身の力だけで戦ってはいたが、決して攻撃力が高い訳でもなかったんだろ?」
「確かに」
植物系のリィーズならリーチの差はそれほど関係ない。
そのリィーズの力の使い方が下手だったのかは分からないけど、もし道具を用いた戦闘ができていたらどうなっていたかという話である。
「知能はあるが、力は弱い。そこから考えられることはそのリィーズは大型になった直後に知能に力を使ってしまったのか、その力は中型もしくはそれよりもちょっと上くらいだろう。無理やり知能に振ってしまったが故に中途半端な進化となってしまった」
多分人型になり得る状態ではなかったのになってしまったのではないかとエスラは推測した。
「これは単なる仮説でしかないが、そもそも大型レベルが2体いるのも少し疑問に思っているから、元々は1個体だったと言われた方がマシかもな」
大型は滅多に出ることはない。
それでも魔導工兵なら人生でまぁまぁ遭遇するほどではあるけど、何年か一度くらいだろう。
そして、同じ場所に大型はいないというのも定説としてある。
だから、(見た目は)中型とはいえ大型と合わせて大型レベルが2体もいるのはおかしい。
その2体が1体だったという方がむしろすっきりとする。
「で、それはこっちが調べるとして。コウヤ」
「はい、何ですか?」
雰囲気の変わったエスラに少し緊張気味になる煌夜。
「お前、まさか神懸かりなんて使ってないよな?」
「神懸かり?」
聞いてきたのは人型のリィーズ戦で煌夜が使った技だ。
煌夜は惚けるように疑問を浮かべる。
「惚けたって無駄だ。その代償は知ってるからな。神懸かりは1、2日では目覚めない。それは神懸かりでしかあり得ない」
エスラが言ってるのは事実。
仮に魔導を使っても1、2日で目覚めることが多い。
ベレットの力にしたって翌日には目覚めた。
それに比べて煌夜は4日も掛かった。
これは惚けるのは難しい。
「仮に使っていたらどうだったんですか?」
しかし、煌夜は強気で聞いた。
「いや、別に咎めるつもりない。それのおかげで村人たちは助かり、時間も稼ぐことはできたからな」
対して雰囲気を軽くしたエスラ。
ある意味、煌夜の言葉で使ったのは本当だと気付いたからだろう。
「結果的にはそうなりましたけど……」
煌夜は戦った理由の一つとして人助けはあったけど、戦っていた時は多少なりに時間稼ぎを考えてはいたものの必死だった。
これは「結果的に良かった」ということだろう。
「話が変わるですが、1つお聞きしてもいいですか?」
「何だ?」
煌夜は話を変える。
決して話から逃れようとしているのではなく、エスラも同様に話はとりあえず終わったという解釈で話を変えた。
「全くの関係ない話になるんですけど、ムガル国に魔導工兵はいらっしゃいますか?」
煌夜が聞いたのは自分の父親についてだった。
「ムガル国だと?何故聞くんだ?」
エスラからすれば連合王国の一国家。
しかもこことは離れた位置にある国。
それを聞くのが不思議だったのだろう。
「我が国にはムガル国の神をモデルにした神がいます。自分のもその1柱でその詳細を知るために遠回りになるんですが、何か知ることができると思いまして……」
敢えて真実を織り交ぜながらも父親を知るためということは隠した上で聞く。
「どういうことだぁ?親の1人が別の国の者という訳じゃないのか?」
「そういう訳ではないですね」
実際はそこまで隠す必要もないけど、今は手っ取り早くするために省く。
「そうか。まぁ、ムガルは元々そっちの国の方が関わりはあっただろうしな。繋がりはあってもおかしくはない」
「国としては交流はなかったですけど、宗教的には個人的に交流はあったみたいです」
「なるほどな。それでそれを認めた上で上手いこと取り込んだ感じか」
元々倭と天竺に交流はない。
天竺で起こった宗教が流れつき、倭はそれを認め、その宗教をより知るために個人的に向かうことはあったくらいで、その学びと国民性を合わせて宗派を広げることになる。
そして、天竺の神が倭の神となるのは神仏習合という2つの宗教が合わさることで発生したものである。
まぁ、西洋に広まる宗教も倭では一部認めてはいるけど、その宗教事態が一神教のため、同じようにはならなかったが。
「それでムガルについてか。経済面ではアングロ・サクソン連合王国もといマーシア王国の稼ぎの大半をムガルが出している。あとはインフラ整備を少々しているくらいか」
これは表向きの情報。
マーシア王国がしていることである。
「魔導工兵に関してはまだ発展途上だな。工場とかも建設して来てるから、こちらの派遣もある」
魔導工兵は元々の存在がいない訳ではないけど、それでもアングロ・サクソン連合王国からすれば人数不足と言える。
さらに加工を現地で行い、加工品を輸入する形を作るために工場も増やしているから、魔導工兵の必要性も増えている状況なのだろう。
「それとこれは現地情報として問題が起きてるって話だ」
「問題?」
「あぁ。あの国にはいくつかの宗教があると聞く。元々ムガルには国教として中東の巨大宗教を認めていたらしいが、別の宗教が力を付けてきているらしい」
ムガル国には元々帝国からある国教が今も続いている。
しかしその当時から庶民らが信仰する宗教があり、それが力を付けていると言う。
「宗教戦争という感じですか」
「どうなるかは分からない。ただ、西洋の宗教と中東の宗教は元々敵対していたため、マーシア王国はもう一つの方に付くらしい」
宗教戦争。
それは別の宗教間または同じ宗教内の宗派間で起こる戦争。
宗教は国教とするほど政治との関係もあるため、国家間の戦争になる場合もある。
今回の場合はムガル国が国教としている中東の宗教とムガル国の庶民らが信仰する独自の宗教が争う形になり、マーシア王国は元々中東の宗教とは敵対的なため、庶民らに付くということらしい。
ただ、中東の国が加入しない可能性もないため、大戦争になる可能性もなくはない。
「そこに魔導工兵が加入する可能性は?」
「ないとは言い切れないだろうな。魔導工兵が戦争に参加しないことは暗黙の了解としてあるが、それは暗黙でしかない。そもそもそのルール自体は魔導工兵という職が確立している西洋内だけの話で、まだ定まっていない国ではどうなっているかは分からない」
西洋内における魔導工兵は戦争の域を超えてしまい、結局は魔導工兵同士の戦いに発展してしまう。
仮に参加しても魔導の使用禁止にした上での参加になる。
それか指揮官に徹するかになるだろう。
魔導工兵って言っても役職持ちの人もいる。
貴族が特にそうだろう。
実際、ミックの父親は魔導工兵でありながらも貴族であるため、戦争になれば指揮する立場になるだろう。
「その反乱というか、多分だがマーシア王国と中東の国の代理戦争となるだろうこの戦争はそう近い内に発生するんじゃないか?」
直接的関わっている訳ではないけど、高い地位にいるエスラは情報が流れてきていて、状況を把握しているのだろう。
そして、場合によっては……参加もなくはない。
「だから、しばらくは現地入りするのはやめた方がいい」
「そうみたいですね」
一応煌夜はムガル国にはこちらに来る際に訪れている。
ただ、港町であったし、大抵港町はアングロ・サクソン連合王国や実質支配しているマーシア王国が色濃くあるため、そういう感じはなかった。
煌夜としてもエイダに悟られないように何もしなかったので、情報としてはあまりない。
「まぁ仮に身内にそこのもんがいたら、もしかしたら関わりがあるかもしれないな」
「いたらですけどね」
エスラは探りを入れてくるが、煌夜はそれを躱わす。
「さて、話はこの辺にしておこうか。こっちはそんなに暇じゃないでな」
「話してくれてありがとうございます」
話が終わり、煌夜が部屋を出ようと振り返ろうとしたら、エスラが立ち上がる。
「それにしても奇遇だな」
「奇遇?」
「あぁ」
(な、何だ……?)
急にエスラの存在感が大きくなったと感じた。
「ふっ、済まん」
エスラが謝ると存在感が縮まる。
「やっと理解した。お前と私は似ている。そしてお前はいつか未来で世界最強の1人になり得る逸材だろうな」
「な、何を言って……」
煌夜はその言葉に戸惑い、そんな煌夜に近付いてエスラは手を差し出す。
「よろしくな」
「は、はい」
煌夜はエスラの手を取り、握手を交わす。
この瞬間、煌夜は倭の魔導工兵として正式に認められ、さらにエスラに気に入れられることなった。
「それでは失礼します」
「あぁ」
煌夜は部屋から出ていく。
「残念だが、マーシア王国はそんな暇はないと思うがな……」
エスラは出て行った煌夜に向かってそう呟いた。
ーーーーーーー
討伐隊が帰ってから数日後、ミックは1通の手紙を受け取り、それを自室で読んでいた。
「そろそろ動き出してしまうのですか」
手紙を掴む手が強くなり、その部分がクシャクシャになる。
「せっかく会ったのに悪いですが、お別れです」




