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第一章(仮)

風呂敷を散々広げて長くなってしまったもの。連載という都合のいい形をとる。

第一章

【下校から次の日の目覚め迄】

 (一)廊下にある窓の外は雲一つない空が広がっていた。淡く藤色に染まっていた。ただ、上部は昼間の鮮やかさを引き摺る青空で埋められており、沈みゆく陽に従い、淡く紫がかっていた。しかし、陽そのものは燦々と橙赤を示していた。

 (二)放課後になって、私はすぐさま下校した。昇降口までするりと下り、駐輪場に向かった。鍵を開けて、手で押して、車道に出た。校舎内の騒音はもう聞こえない。私はサドルに跨り、裾を軽く払って、ペダルに足をかけて漕ぎ始めた。少し速く漕いだので、春先の空気が眼球に染みるような寒さを感じさせた。見上げると藤色、橙色、水色の諧調を呈していた。最初に差し掛かるT字路を左折し、校舎を横目に通過した。畑や農園ばかりの畦道を経て、寺と神社を素通りした。自然公園の近辺まで来て、やがて家に着いた。ここに帰るまで、木々や草花には殆ど目を掛けなかった。片並木の脇道や狭い水路を繋ぐ橋を渡ったが全く覚えていなかった。

 (三)家に帰って、自分の部屋に入り、部屋着に着替えた。この部屋は、二畳半ほどの広さで、磨りガラスの窓が南方に付いている。窓の下に本棚があり、その左隣にクローゼット、その向かいにはベッドが東方の壁に接して置いてある。机はベッドの隣に、北方の壁に向かって置かれている。居心地は悪くない。

 (四)電気ヒーターをつけて、椅子に座って読書をする。外はすっかり暗くなって、それに従ってか私の気分も厭世的になる。そういう心持ちになると時間が過ぎるのが早くなる。読書、勉強、食事、風呂、云々。これらがまるで希釈されてしまい、実際に行ったか否かわからなくなるのだ。本を繰っても意識はぼんやりとして、全て徒爾に思える。机に向かっても同じことだ。米や主菜をほとんど噛んだか否かもわからぬままに呑み込む。お湯に浸かっていても、そのまま溺れてしまえばいいとさえ思う。ポツンポツンと雫が垂れるように、一日のやる事が全く受動的に消化されていく。そうして、歯磨きをして、私は寝る準備をしていた。鏡の自分は酷く仏頂面に映じた。

 (五)部屋のドアを開けると淀んだ空気が迎え出た。熱帯夜みたいにジメッとしたイヤな感じ。これから寝ると言うのに、それを成すにも体力は要ると言うのに、酷く疲れた。どうしてこんな気分になったの?きっと、ぬるま湯みたいな暖房のせいだ。或いは締め切った部屋の作りのせいだ。或いは、私のせいだ。私はそんな気持ちは{顔に出さないで}部屋のベッドに入る。毛布の中はうすら寒くてみじろいだ。少女はため息をつく。いつ何処で誰に見られてるかわかったもんじゃない。だからいつでもぼんやりしておくのである。何時も不必要な反芻をしてしまう。しかし、今日は珍しくベッドに入るなり入眠した。

 (六)気付けば、外にいた。暫く望洋としていた。自分はどうやらベンチに座っているらしい。上を見ると、パーゴラのような日避けがある。そこには、つる植物の類が絡み付いていた。仄かに雨の後の土臭さを感じる。ふと少年はベンチに手を置いた。ひんやりと雨水を感じられる。瞼が若干開かれた。意識を僅かに明瞭にさせた。それが泡のフィルターが掛けられたような視界を微かに明るくさせた。そのお陰か、周囲を見ることができた。見渡さないと、肌では分からない。

そこには、どうやら人が一人いる。

それも耳が痛む程寒々しい日なのに。

そこには、薄寒い風が優しくある。

それも鼻先を紅くさせ、鈍くなる。

そこには、侘しい欅が一本ある。

それも年老いた大木、大胆に剪定される。

 (七)もう一度、右を見て人を確認した。向こうも此方を見ている。目が合った。然し何もないかのように視線をずらす。目から離れて、顔から離れて、背後の、向こうから見て左後ろのコンクリートの壁に、移る。ここまで来ると向こうの顔は、殊に表情などはわからない。服装とか髪色とかが何となく知覚出来るだけだ。

 (八)急激に微睡が強くなってきた。いや、そうではない。むしろ、覚醒してきているのだろうか。視界は見え難い端部から泡のフィルターが濃くなる。身体の統御は出来なくなった。体の中の水分が全て鉛に置き換わったかのように感じられる。ベンチに座っていることすら儘ならない。どうしようもなく日避けを見させられる。それより他ない。首が座らない。両手脚は脱力した。寒さはわからない。風に撫でられる感覚は殆ど無くなった。視界は狭く、瞼は重くなった。曇天はまるでターナーの様だ。然し直ぐに光もなくなる。

 (九)ずるずると目が覚めた、喉が痛い。毛布の中は私の体温で温まっていた。毛布から手を出すと朝の寒さに包まれ、引っ込めた。少女は暫く毛布から出なかった。憂鬱の分銅が彼女に重々しくのしかかっていた。床に触れている手——接触している一切は床との親和性がとても高いのだ。そんな虚妄を抱えても仕方がない。彼女はゆっくりと体を起こした。冷気は素早く侵入する。暖房は止まっている。部屋を照らす太陽が恨めしく思えた。


ここに書いたものは訂正される可能性が高い。草稿段階、と言えば都合がいいかもしれない。

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