第6話 旅立ちの朝
人間誰しも踏み出す一歩はいつも躊躇いを見せる。
しかしその一歩を踏み出せば、青々とした景色が広がっているものだ。
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目の前には垂れた眉毛、茶黒い瞳孔、短く切った青みがかった黒髪、そしてまだまだ幼さが目立つ顔が写っていた。
「うん。今日も調子はバッチリだ」
静かな朝、僕は鏡で自分の顔を見ていた。うん、どこもおかしいところはない。今日もしっかりとした童顔だ。
十五歳になりこの世界で成人した僕はようやく冒険者になれるようになった。
そして今日、この村に一番近い『アローグン王国』という国で冒険者になるための試験を受ける。もちろん大切な親友のライングとシオンも一緒にだ。
「今まで、住まわせてくれてありがとう」
家に対してお礼をする。
元々、この家は村の村長の所有物だった。お母さんが無くなり天涯孤独になった僕に村長は変わらずこの家に住ませてくれた。
そして今日でこの家ともお別れ。お母さんとの思い出が沢山ある家だけど、これは僕自身が決めたことだから。
「それじゃあ……さようなら」
別れの挨拶を終えて、扉を開く。
そうして家を出ると二人が既に家の前で待っていた。
「おはよう! 今日も良い天気だな!」
「おはようサミー、昨日はしっかり眠れた?」
レザーアーマーを身に纏い、腰には無骨な鉄の剣をぶら下げながら今日も元気に水色の眼を輝かせている親友、ライング。
家に代々受け継がれているらしい、魔法使いが使う水色の綺麗ローブを着こなし、腰には親から貰った魔導書をぶら下げ、長い銀色の髪を靡かせ微笑んでいる親友、シオン。
そして鉄の胸当てを付け、ライングと同じ無骨な鉄の剣、そして期待に胸を膨らませている僕、サミー。
みんな思い思いの格好で最高の今日を迎えた。
「二人とも、おはよう。今日は沢山寝たから大丈夫だよ」
「馬車はもう来てるから、すぐにでも行けるわよ」
「よし、それじゃあ行こうか!」
ライングの掛け声と共に僕たちは村の外に向かう。
外に出ると、いつもお世話になっている行商の人が馬車の前で僕達を待っていて。その周りには村のみんなが見送りに来てくれていた。
その中から村長が前に出て僕達に話しかけてくる。
「三人とも元気そうじゃな」
「おうよ! 今日は冒険者試験だからな!」
「ライングは元気すぎるわ。私はいつも通りよ」
「僕は少し緊張してるなぁ」
三者三様の答えに思わずみんなが笑い、僕達も釣られて笑った。
「その調子なら大丈夫そうじゃな。三人とも、精一杯頑張るのじゃよ」
村長の激励に続くように村の人達から「頑張れよ!」という声援が上がった。
新たな生を受けて十五年。僕はこの村の人達に愛されていることを改めて知った。
「皆さん、そろそろ時間です」
馬車の前にいた行商の人が声をかけてきた。
この日のために行商の人に無理を言って送迎してもらえるように頼んでいたのだ。待たせるのも申し訳ない。
「準備はよろしいですか?」
旅立ちにはふさわしいほどに晴れている朝日の下、僕たちはお互いの顔を見合わせる。答えは決まっていた。
「「「はい! お願いします!」」」
そうして僕たちは行商の馬車に乗り込み、目的地であるアローグン王国に向かって出発した。
(お母さん、行ってきます)