第82話 前置き
*
「この身体にはシアーと私の二つの人格が宿っていたの」
「………………二重人格」
お父さんとお母さん、神の巫女、循環する魂、シアー、そして誓約。
思わぬ話が津波のように押し寄せてくる。
混乱する僕を見て、彼女は申し訳なさそうに顔を伏せた。
「いきなりこんなに話すとわからないわよね」
「…………いや大丈夫。なんとか理解はできるよ」
「…………ごめんなさいね。でもサミーには話さないといけないと思ったの」
するとお母さんは座っている僕の手をぎゅっと握った。
冷たい感触が伝わる。まるであの時のライングみたいに。
「━━━、ッ!」
「私ね、サミーのことがとても心配だったの。ちゃんと冒険者になれたのかしら、友達とは仲良くできてるかしら、病気とかになってないかしら、…………一人で辛い思いをしてないかしら」
その眼は憂いを帯びながらも、とても優しい眼をしていた。
あぁ、そんな眼で僕を見ないで欲しい。ついつい甘えたくなってしまいそうだよ。
「そんなことばかり考えていたわ。…………だからね、お母さんに聴かせて欲しいの。サミーが生まれ変わって見てきた全てを。サミーの口から」
「…………え?」
その期待を込めた言葉は僕の心臓をとくんと跳ね上げた。
何故、僕が生まれ変わった……転生したことを知っているのか。
これは胸の中でずっとしまっていたのに。
「私はお母さんなのよ。そのぐらいわかるわ」
「ははは、お母さんには敵わないなぁ…………」
「ね、聴かせて。サミーの人生を」
お母さんが亡くなった後の人生。…………違う。『僕』が歩んだ人生の全てを知りたいと、彼女は言った。
そして、おそらくだが僕にはその話をする義務がある。
「うん、わかった。少し長い話になるけど大丈夫?」
「ええ、いっぱい聴かせて」
彼女の親愛の込めた瞳にうつつを抜かしながら、僕は自分の歩んだ人生を語り始める。
━━雨の音が聞こえ続ける僕の人生を。




