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ブルーコリーハート〜異世界転生した僕の青い物語〜  作者: ジョン・ヤマト
幕間 Lady Queen'sは粛々とワインを飲み交わす
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第72話 Lady Queen'sは粛々とワインを飲み交わす

    *


 男が去った酒場にて、ふと銀髪の長い髪がふわりと揺れる。

 時折聞こえてくるため息には哀愁が入り混じり、その人物の暗い心境が見え隠れしていた。


「サミー…………」


 小さく、か細い呟き。

 客もマスターも居ない酒場でただ一人、その女性はカウンターで項垂れていた。

 傍らにあるのは高級のワインボトルに二個のワイングラス。その内の一つに注がれている高級なワインを彼女は名残惜しそうにそして憎々しげに飲んでいた。


 開きっぱなしになった扉からは夜の冷たい空気と共に雨の香りが入り込み彼女の鼻腔をくすぐっている。

 そんなことは気にも止めずに青い空(ブルースカイ)の魔法使いシオンは、一人寂しく冷たい一時をただただ浪費していた。


「あら、貴女はまだ居たのね」


 そんな時、女性の声が聞こえてくる。

 声の方向を見てみるとそこには、この寂れた小さな酒場にまったく似合わない赤いドレスで着飾った金髪の少女の姿が。


 少女はその顔に微笑みを貼り付かせながら優雅な足取りで先程サミーの座っていた席に座った。


「これいただくわね」


 そう言ってさっきまでサミーの使っていたワイングラスにトクトクと音を立てながらワインを注ぐと、グラスに口を付け喉を鳴らした。


 その一つ一つに艶やかな魅力を孕ませるその所作。その所作の中にシオンは、彼女が何かを自慢している様子がありありと感じられた。

 まるで、『このグラス(サミー)は私の物』とでも言うように。


 気に入らない。その誇示するような笑みが気に入らない。


「あの、貴女は誰ですか?」

「あら、まさか知らないのかしら?」


 女はわざとらしく語尾を上げて言い放った。

 シオンは大きなため息を吐きながらゆっくりと目の前の女の人物の名前を口にする。


「『ローランド』。裏社会の情報屋でこの密会の主催者」

「正解♡」


 少女、『ローランド』は嫌味のような無垢な少女のような嬉しそうな笑顔をシオンへ向けた。

 その笑顔にシオンは無視しながらワイングラスをカウンターへ置いた。

 トンという音が静かな酒場全体を響かせる。


「まさか本当に知らないかと思って心配したわ」

「昨日、私の下に手紙とワイングラスが届けられた。人の沢山いるあの場所でそんな芸当ができるのは()()ぐらいよ」


 あの時のことは忘れもしなかった。

 手紙には『サミーに会わせてあげる。招待状(ワイングラス)を持ってこちらに来なさい』という気取った文章と共にこの酒場が示されていた。


 その時のシオンは動揺を隠せなかった。何故サミーのことを知っているのか、と。その様子を見た他の冒険者から体調の心配させられたほどに。


「それで、わざわざこんな場所にあのローランドが何の用よ」

「あら? 私はこの密会の主催者よ。それにここは私がよく通っている店、お気に入りの店に来て何が悪いのかしら?」


 その惚けた態度にシオンの目が細まる。

 気に入らない。この煽るような態度が気に入らないと。


 しかしそんなシオンの感情は露知らず、ローランドはシオンへ向けて嫌味一杯の笑みを浮かべている。


「私の事はいいじゃない。それより驚いたわ。まさか魔女の末裔がこんなところに居るとはね」

「………………」


 『魔女』。その言葉にシオンは思わずピクリと反応してしまう。


 それは彼女にとって触れられたくない禁忌であり、大切な物を全て破壊するには充分な威力を持つモノだった。

 そんな彼女にとって衝撃の言葉を言い放った少女は嬉々として話を続ける。


「本名、『シオン・ヘリオス』。年齢22歳。アローグン王国の郊外にある小さな村のパン屋の娘として生を受ける。15歳まではその村で過ごし成人の儀を受けるとアローグン王国の冒険者ギルドにて冒険者に登録。それ以降はずっと冒険者パーティー青い空(ブルースカイ)の術師兼参謀として活動を続けている」


 『ローランド』が語ったそれは、彼女の生い立ちだった。どこで生まれ、どこで育ち、現在は何をしているのかというのを赤裸々に語っていた。


「父親は普通のパン屋さんだけど、母親は何百年と恐れられていた魔女の一族の末裔、そして貴女はその娘」

「…………『ローランド』というのは人の過去をぺらぺら喋るのが趣味なんですか?」

「違うわ、ただ確認したかっただけよ。貴女の本音をね」


 本音、と。シオンは『ローランド』の言葉を言い返す。


 外はぽたりぽたりと小さな雨粒が地面を跳ねており。まもなく大量の雨が降ることを警告している。


「そうよ。なんで今更(サミー)のことを取り戻そうとしたのかをね。そのために(サミー)のお願いを聴いてこうして場をセッティングしたんだから」

「………………」

「それにしても青い空(ブルースカイ)もだらしないわよねぇ。仲間一人救えなかった癖に今頃になって取り戻そうとしてるのだからねぇ」


 そう思わない。と、微笑みかけながらシオンへ問いかけた。

 シオンはその様子をみて鬱陶しそうな面持ちで彼女の問いに答えた。


「サミーを取り戻しに来たのは、もちろん神の力を手に入れ魔王を倒すために…………」

「違うわよね」


 取り繕った表面の答えにローランドは言葉を遮る。そして頬杖を付きながら得意気な面持ちでシオンを見た。


 『ローランド』がここに訪れた理由は一つ。『この魔女の真意を知りたかったから』、断じてこんな棒読みな定型文を聞きに来たわけでは無い。


 そのためにサミーのお願いをわざわざ聞き、そして普段なら他人に決して振る舞わない高級なワインを招待状として取り出したのだ。


「そもそもだけど、魔王を倒すのに『神の力は必要無い』わ。それに今までまるで彼の動向を知らないみたいに振る舞ってたけどそれも嘘よね。だってわざわざ彼の泊まっている宿に直接手紙を送ったのだもの」

「………………」


 『ローランド』は詰問を繰り返し、シオンは沈黙を貫いている。

 これはお話とは程遠い、ほとんど尋問に近かった。

 何が何でも話してもらうという意志と。これだけは話せないという意志のぶつかり合いだった。


「ねえ、何故黙ってるのよ」

「………………」

「はあ仕方ないわね」


 これだけは言いたくなかったけど。と言いながらワインを一口飲み、ゆっくりと艶やかな唇で言葉を紡いだ。

 それはサミーですら知らない情報だった。


「三年前のあの時、巨大なオオカミとの戦いの後、彼が言うにはパーティーから逃げた理由は自身の不甲斐無さを実感してって言っていたわ」

「……………………」

「だけどそれはおかしいのよ。責任感の強い彼がそんな選択するのはありえない。それでルードデイの担当の()()に軽く調べてもらったけど本当は…………」


 その先の言葉は続かなかった。シオンの魔力の込められた左手が『ローランド』に向けられたからだ。


 込められて魔力は風。一度言葉を紡げば風の刃がローランドを襲うだろう。


「…………それ以上はやめなさい」

「あら怖いわねぇ。口で敵わなくなったから暴力で訴えるの?」


 小さな体躯で隣の女を下卑た笑みで見下ろす『ローランド』と、無表情で隣の女を横目に睨みつけるシオン。


 ペン(情報)を使い人を殺す女と、(魔法)を使い殺す女が睨み合う。


 外は既にざあざあと雨が降りしきっており、開かれた扉から冷たい風がこの酒場にも入り込んでいた。


「………………フフフ」

「………………」


 一触即発の緊張。先に折れたのはシオンの方だっだ。

 ゆったりとした微笑みを浮かべながら左手をカウンターへ下ろした。


「そうね、暴力はいけないわ」

「あら案外素直ね」

「あら? ローランドでも知らないことがあるのね。私は貴女とは違ってか弱い淑女なのよ」

「それは知らない情報だったわ。提供ありがとね」


 あはははと、二人は互いに笑い合った。眼は据わったままに、狙いを定めた獲物を逃すまいと言わんばかりの眼差しで。


「アハハ、そうね、愉快だから一つだけ教えて上げるわ。私がサミーを連れ戻しに来た本当の理由わね、『サミーは私のことが必要だった』からよ」

「ハハハハ…………は?」


 シオンのその言葉に『ローランド』は思わず素っ頓狂な声を上げた。


 そんな情報は全く知らない。シオンへ疑惑の眼を向け、それならと問い詰める。


「なんでさっき彼は拒絶したのよ。貴女が…………」


 その真意を聞き出そうと声を上げたその時、外に大きな異変が訪れた。突如として外から光の柱がこの村全体を照らしたのだ。


 唐突に照らされたその光に『ローランド』は思わず腕で顔を覆い隠してまう。

 それが失敗だった。覆った腕を解くと先程まで隣に座っていたシオンの姿が消えていたのだ。


「今夜はここまでね」


 声が聞こえて見てみると、扉の先にシオンが立っていた。

 ゆっくり、勝ち誇るような笑みを浮かべその長い銀色の髪を雨に濡らしている。


「最後にこれだけは言っておくわ。サミーは必ず私の下に帰って来るわ。だって彼には私が必要なんだから」


 そう言い捨てるとシオンは降りしきる雨の暗闇へ消えていった。


 そうして一人、酒場に残った『ローランド』はグラスにワインを注ぐと、粗雑に持ち上げ。


「はぁ…………」


 どこかの誰かのように深く、大きなため息を一つ吐きながら。


「必要なのはどっちなんだか」


 そう小さく呟いてグラスの中身を一気に飲み干した。


 外は雨がざあざあと激しく降りしきっていた。彼女はただその音に耳を傾けながら最後の一杯を楽しむのだった。

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星空を見上げれば〜私達は星々の夢を見る〜 短編の近未来ファンタジー百合小説です。 本作品と併せてお読みいただけると嬉しいです。
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