BADEND:Suicide Rendezvous
注意
この話は本編とは関係ありません。
この話には過激な描写が含まれております。読む際には注意をお願いします。
*
冷たい、氷のように冷たい感触が僕の手に伝わる。
「お、おい…………ライング?」
身体を揺すって起こそうとしても彼は喋ることはない。
腹にある大きな傷から溢れ出る血が僕の手を濡らしている。
「おいライング…………!」
何度も何度も大きな声で呼びかけても。目を覚ますことはない。
そして徐々に白くなる肌をただただ呆然と眺めることしかできなかった。
「嘘、嘘に決まってる…………」
自分の中でその事実を受けれらずに否定する。
そうだ、これは嘘なんだ。あの彼が、最強の力を持つ彼が…………。
『自分の心にだけは絶対に嘘をつかないでね。それってとても苦しくて、悲しいことだから』
突如頭の中を刺激するあの言葉。それはかつて誓った約束の言葉。
やめろ、やめてくれ。これは嘘じゃないんだ。嘘じゃないんだ。
「お願いだからさ…………」
懇願するように彼の胸に顔を埋める。まるで母親に抱き付く子供のように。わがままな子供のように。
「…………アハ」
━━限界だった。
大切な人を理不尽に失う光景が。守ることができず砂のように手からこぼれ落ちる感覚が。
そして何よりも誰も守ることができなかった自分の心が、もう限界だった。
「ハ…………ハハハ…………」
最初に失ったのはお母さん。
言ってしまえば不幸な事故、でもお母さんは僕の代わりに車に轢かれてしまった。
僕が早く反応できていれば、僕が代わりに轢かれていればあんなことは起こらなかった。何度も後悔した。
「ハハ…………アハハハ」
二つ目に失ったのもお母さん。
流行り病による病死、誰にでもありそうな不幸な出来事。
まだ小さな子どもだった僕はお母さんを助けることができずに日に日に痩せ細るお母さんを泣きながら見ることしかできなかった。
そしてお母さんは一人寂しく死んでしまった。
自分の不甲斐なさが嫌になった。お母さんの後を追おうとすら思った。でも大切な親友を置いて逃げるわけにはいかなかった。
「ヒヒ……イヒヒハハハ」
三つ目に失ったのは共に旅をした海の女。
海の魔物の毒による毒死、この世界ではよくある仕方のないこと。だけど、その根本的な原因は僕にあった。
油断して選択を誤ったのだ。その結果僕の身体は疲労が限界に達し、彼女の治療をすることができなかった。
そして目を覚ました僕が見たのは真っ青な肌になった彼女の姿だった。
『サミーが生きててよかった。アタイのことは気にしないで全力で夢を追ってくれよ』
彼女が最後に残した言葉は三年経った今でも僕の心に深く突き刺さって離れない。
だけど死んだ彼女から逃げた僕には後悔する資格もない。
「アーハッハッハ!!」
そして四つ目に失ったのは、親友。
今僕の前で冷たくなってる人。
僕を刺した恨めしい存在。でも何年も共に楽しく過ごした大切な存在。
それが今、僕の剣に自らを刺して死んでしまった。
━━━━もう、疲れた。
「ウヒヒヒ…………アハハハハハ!!」
死んじゃった。死んじゃった。
僕を残してまた死んじゃった。
あーあー、また僕の手元からまた大切な人が死んじゃった。
「アヒヒヒヒ、アーハッハッハ!」
苦しいなぁ、悲しいなぁ。
大切な人はみんな死んじゃうんだ。
辛いなぁ、寂しいなぁ。
胸が締め付けられて息が止まりそうだよ。
「ハハハハハハ!」
大切な人を無くさせるわるいやつなんて消えちゃったがいいよな。それが世の為人の為なんだから。
あそこにちょうど良い道具もあることだし。
「アッハッハッハッハッ!!」
道具を拾ってわるいやつの頭に付ける。
大丈夫、大丈夫。さっくり終わるからさ。
「アハハハハ!」
さて、彼の物語の終焉の顛末を語ろうか。
彼は『勇者の剣』と言われた、今は亡き勇者の形見である代物を拾い上げ手に取った。
「アッハッハッハ!! あぁ…………ようやく終われるんだ」
もはや彼を止められる者は誰もいない。母も友も、自分でさえこの世界から消えてしまったのだから。
そうして彼はカチャリと撃鉄を起こし、その銃口を自身の頭に突きつける。
「アハハハ…………楽しかったなぁ…………」
思い出に浸りながら『勇者の剣』に自身の生命力を注ぎ込む。
死ぬために命を懸け、思い出のために涙を流す。その光景は悲劇の終着点としてはまさしく上等と言うべきものだ。
それが正しいのかは誰にもわからないが。
そうして、生命力を注ぎ込んだ彼は大切な親友の側に近づいた。
「…………お母さん、ライング、バラ、今から行くね」
小さく、霞むように呟いた彼はその引鉄に手をかけると。
━━バァン!
この世界とは無縁な、乾いた音が雨の中に木霊する。
彼は頭から真っ赤な血を噴射させながら先に死んだ勇者の隣に倒れ込んだ。
「━━━━━━━━」
そうしてこの場に生きている者はいなくなり、降りしきる雨が死んだ者を慰めるように血に塗れた頭を洗い流しているのだった。
血溜まりに溺れる二人の勇者の姿はまるで仲睦まじい家族のように笑顔を浮かべながら寄り添い合っている。
「サミー………………」
こうして彼の物語は終わりを告げた。大切な存在を一人残して。
雨は、大地を濡らし、彼らの赤い血を洗い流すだけ。
雨は無情に降り続けている。
━━ただただ無情に、降り続けている。
*
やあ、初めまして。
ここは簡単に言えば物語を完遂できなかった者に助言を贈る場。まあ反省部屋とでも思ってくれたまえ。
私は話好きのおせっかい人間。呼び名に困るのなら、気軽に『紅茶のお兄さん』とでも呼んでくれ。
さて、今回は大切な者の死に直面した主人公の心が限界を迎えてしまったようだな。
確かに人の心は脆い。ガラスのように簡単に砕け、砂のように散らばるだろう。
かく言う私も涙脆い性格でね。感動する物語には思わず泣いてしまうものだ。
閑話休題。この悲劇を回避するためには何よりも大切な者の死を回避させる必要があるだろう。
とはいえ前世や小さな子供の頃での死の回避は無理だ。
なので、大きくなり力を付けた時に、大切な者の死を回避させるよう努めてくれたまえ。
それでは今回はここまでだ。
またここに訪れたときは美味しい紅茶でもご馳走しよう。




