表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/91

第71話 Rainday Suffering

雨の日の苦しみは、ただただ心を蝕んでいく。

    *


 まるで小さな人形に針を突き立てたように、ライングは背中から剣を生やしていた。剣先から流れる血がぽたりぽたりと地面に落ちるとすぐさまに雨水が洗い流している。


 ライングの表情は剣を刺された痛みと悲しさに歪めながらも、どこか満足気な笑みを浮かべていた。もう後悔は無いとでも言いたげに。


「え━━━え?」


 そんな顔を見て、僕は何が起こったのか分からずに剣から手を離した。


 僕の支えを失ったライングはふらふらとした足取りと共に地面にばたりと仰向けに倒れ込み、大の字で空を仰ぎ見ていた。


「ら、ライング…………?」

「俺さ…………もう疲れたよ」


 胸元から大量の血を流しながらライングはぽつりと呟く。

 その言葉は懺悔。心の限界を表したライングの本音の言葉を自嘲するように語った。


「サミーが居なくなってからさ…………俺、壊れちゃったんだ。魔王を倒すっていう言い訳のために必死に色々な場所を冒険したけど…………誰も信用できなくてさ」

「喋るな! 今治療してやるからな!」

 

 胸元に手をかざし、詠唱するが何も起こらない。ただ僕の手に雨粒が寂しく当たるだけだ。

 先の戦闘で魔力を全て使い切っており、生命力を使って魔力を生成しようとしても、動揺から生成することができない。


 そんな焦っている僕を見て、ライングは僕の手を強く掴みながら、その瞳の奥にある思い出を口にする。


「それでも俺頑張ったぜ…………沢山人を助けて良いことしたよ。…………でも助けた分だけみんな俺に指を差しながらこう言ってきたんだよ。『偽善者』ってな…………ゴホッ!」


 咳と共に口から大量の血を吐き出る。

 手に伝わる温度が段々と冷たくなってきている。

 お母さんが死んだ時、あの時と同じ冷たさ。


「飢餓で壊滅しそうだった村の子供に沢山食べ物を上げた時は、酷かったなぁ…………その食べ物を巡って村人全員が殺し合ってさ…………最後はその子供に『悪魔』なんて言われちまってよ」

「ライング、もういいからっ…………!」


 僕がいくら止めようともライングは虚な眼で語り続ける。


 初めて人を殺した時のこと。仲間を政治に利用され傷つけてしまった時のこと。仲良くなった人が死んでしまった時のこと。そして大切な物を失った時のこと。━━━━もう後ろには戻れなくなってしまったこと。


「ゴホッ! それで得た物が…………『新進気鋭の冒険者パーティー青い空(ブルースカイ)のリーダー』という称号。ハハっ、笑えねぇ…………」

「これ以上喋るな……!」


 それは僕の知らないライングの過去。

 彼にも彼の物語が存在しているんだ。人生とはその物語の積み重ね。その結果がこれとでも言うのか。

 

「あ、そうだ…………サミー…………」


 ふと、ライングが何かを思い出したかのように僕の方を見た。


「…………どうした?」


 その顔は。その顔は。


 ━━━━血と雨に濡れていながらも、太陽のように眩しく輝く笑顔だった。


「ごめんな…………お前に辛い思いをさせちまって」

「え…………」


 どくんと、心臓の跳ね上がる音が聞こえた気がした。

 ライングの言葉、それは謝罪だった。

 なんで、なんで今謝るんだ。僕はライングに辛い思いなんてされていない。


「顔を見ればわかる…………俺以上にお前はこの三年間…………苦しんでたんだよな。だけど俺はお前の親友なのに助けてられなかった。本当にごめんな。あと━━━━━」

「僕こそライングのことを……………………ッ!」

「━━━━━━━━━」


 冷たい、氷のように冷たい感触が手に伝わった。


「お、おい…………ライング?」 


 身体を揺すって起こそうとしても彼は喋ることはない。


「おいライング…………!」

 

 大きな声で呼びかけても。何度も身体を揺さぶり叩いても彼は目を覚さない。


「嘘、嘘に決まってる…………」


 自分の中でその事実を受けれらずに否定する。

 そうだ、これは嘘なんだ。あの彼が、最強の力を持つ彼が…………。


『自分の心にだけは絶対に嘘をつかないでね。それってとても苦しくて、悲しいことだから』


 突如頭の中を刺激するあの言葉。それはかつて誓った約束(呪い)の言葉。

 やめろ、やめてくれ。これは嘘じゃないんだ。嘘じゃないんだ。


「お願いだからさ…………」


 懇願するように彼の胸に顔を埋める。まるで母親に抱き付くわがままな子供のように。

 そんな時、降りしきる雨の中で何者かがサミーの肩に手を置いた。


「え…………?」


 ゆっくりと振り返るとそこには、雨に濡れた母親と同じ面影の少女、シアーの姿があった。


お母さん(シアー)…………」

「サミー…………村へ帰りましょう」


 シアーはか細く、だがはっきりと伝える。それはまるで子を守る母のような強い意志で。


「いや、嫌だ。ライングをここに置いていけない!」

「サミー、彼は…………」


 シアーの言葉にサミーは泣き喚く子供のように首を横に振りながら、彼の身体を離さないように掴み続ける。


「おい! 何者だ!」


 そんな時、森の方から叫ぶ声と共に大勢の足音が響いてくる。

 声の方向を見るとそこにはライングの引き連れた冒険者達が集まっていた。雨の影響で正確な姿が確認できないが、大量の人数であるのだけは今のサミーにも理解できた。


「行きましょう」

「あ…………」


 シアーに無理矢理手を引かれながら、サミーはライングを名残惜しそうに手放し、おぼつかない足取りで冒険者達から逃げて行くのだった。


 その表情は大切な存在を失った悲しみ、それを見捨ててしまった自身への後悔の色に染まっていた。


「…………サミー…………?」


 そんな事は露知らず、サミーとシアーは雨の中の森を駆け抜ける。


「…………サミー…………サミー…………サミー…………サミー…………!」


 そして緑髪の少女は呪詛のようにその名前を繰り返し、雨の暗闇で淡く輝く笑みを浮かべながら、この場から去っていく彼の姿を見送るのだった。







 さて、他を寄せ付けない圧倒的な力と勇者の剣という強力な武器を振るう最強のライバルであり勇者でもある青年。しかし自身の持つ全ての力と知力を使い、最後は勇者の渾身の一撃を受け止め見事に勝利をもぎ取った。

 おめでとう『サミー』。この戦いは間違いなく君の勝利だ。

これにて第五章『青く憂鬱なこころ』は終わりです。

ここまでご覧いただき誠に有難う御座いました。


感想や気になることなどがありましたらお気軽にお書きください。

それでは今回はこれにて、次のお話もお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星空を見上げれば〜私達は星々の夢を見る〜 短編の近未来ファンタジー百合小説です。 本作品と併せてお読みいただけると嬉しいです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ