第70話 青い雨
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剣が打ち合う音がこの広場に大きく木霊する。
「いくぞォ!! サミー!」
「ぐッ……」
過去のライングの剣技は一言で言えば力押し。天性の才能によって生み出された剛力の剣だった。
しかし現在、三年の時が過ぎたライングの剣技は至高の技へと昇華していた。
初手の左からの水平切り、流れるような動きで切り上げからの切り落とし。全てが洗練された隙のない剣術だ。
だが僕も三年の間、怠惰に過ごしていない。
このフェリアルの地で日々凶暴な魔物との相手をしてきた。村の人達を守るために。
剣を傾けて初撃を受け止め切り上げ攻撃は後ろに少し跳び避けながらライングの側面に足を運びつつ剣を突き出した。
キンッと軽い金属音が響く。突き攻撃は防がれてしまった。
一瞬の隙を突いた一撃だったが、それをライングは難なく防いだ。
そんなライングの表情は、戦闘中だと言うのにどこか嬉しそうな笑みを浮かべていた。
「サミーの剣はあの頃より強くなってるな。本当に最高にかっこいいぜ!」
「…………状況をわかっているのか?」
「当然だ。だが、それももう終わりだな…………」
「?」
そう雨空を見上げて顔を濡らしながら名残惜しそうな表情を浮かべると剣を両手に力を込めて構えた。
"もう終わり"とはどう言うことだ? それにライングのどこか生き急いでいるような雰囲気は一体。
「サミー、これが最後だ! 俺の渾身の力を込めてやるからな」
「…………」
「いくぜ……"光よ、剣に舞い降りし真なる光よ━━━━」
それは魔法の詠唱。ライングの切り札にして、僕が見た中で最強の魔法。
「"━━━救われぬ者を救うがため。大切な者を守るがため。この両腕に祝福の力を賜り給え"」
詠唱を紡ぐたびに、ライングの持つ剣が金色の輝きをが増し始める。その姿はまるで世界を救う勇者のように、雨の中で光を放っている。
「━━━!」
瞬間、光の線が見えたと同時にライングの姿が消えた。いや違う、僕の目の前に移動したのだ。まるで稲妻のように。
「"ホーリー━━━」
姿勢を低くしながら、光輝く剣を振り上げる。
「━━━エッジィ!!"」
爆音を響かせながら黄金に輝く剣が僕へ迫る。
そしてこれぞまさしく神の一撃。全てを凌駕する最強の魔法と言わんばかりにこの小さな広場に光の柱を打ち立てた。
「━━━、あぁ」
確かにこれはライングの全力だ。三年前より研ぎ澄まされ、それでいて威力は計り知れないほどに強力。まさにこの世界で最強の魔法と言っても過言ではない。
だが、僕だって伊達に神の力を有していない。
それに加えて、僕がライングの切り札の対抗策を考えていないわけがない。
「え…………」
「………………」
そこには剣で競り合う僕とライングの姿が。
僕は目を細めて目の前のライングを見つめる。
一方のライングは今何が起こったのかわからないのかその表情は困惑に包まれていた。
「光が…………消えた?」
ライングの渾身の魔法、『ホーリーエッジ』は発動しなかった。いや、正確に言うのなら剣に纏った光の魔力は雲散し水に溶けた。
「…………あの時、僕は一つだけ嘘を吐いた。もう魔法は撃てないってね」
あの時。僕がライングの銃撃を受け倒れた時だ。実は一回分だけ、魔法を使えるだけの魔力を取って置いたのだ。生命力を懸けて生成した魔力を。
「そして僕が使った魔法でその剣に水を纏わせた」
「水を……纏わせた?」
海が青く見える理由を知っているだろうか。
海の水は七色の光の性質を持つ太陽の光を水中で拡散しながら徐々に吸収する。そして七色の光の中で青色の光は吸収されにくく長く海に残るので海が青く見える。
つまり、水は光を吸収できるのだ。
これはその応用。ライングの光魔法を僕の水魔法で吸収し散乱させたのだ。そして光の魔法は霧となって雲散した。
「それでもギリギリだった。なんせ動き回る剣を狙って魔法を纏わせないといけないからね」
「ハ、ハハハ…………」
さすがのライングもこの結果には笑うしかなかった。まさか自身の渾身の一撃をこんな風に受け止められるとは思わないだろう。
「やっぱりすげえな……サミーは」
「これで終わりだ。シアーは返してもらうよ」
そう、元々ここに訪れた目的は攫われたシアーを奪還するため。神の力だか巫女なんて今の僕には関係ない話だ。
「…………あぁ、そうだな」
「ライング?」
その時、ライングの気配が変わった。まるで悔いは無いと悟ったかのように。その青く澄んだ瞳を纏わせながら。
「これで終わりにしようか」
「……………………え?」
さくりと。僕に寄りかかるようにして、あっさりと吸い込まれるようにその身体を僕の持つ剣に突っ込むのだった。




