第68話 Spread Your Waves
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水の槍と弾丸。互いが撃ち出した魔法が交差する。
二つの魔法は二人を横を通り抜け後方の樹が爆ぜた。
開戦の狼煙と共にサミーとライングは剣を駆け抜ける。
「いくぞサミー!」
片手で振るう両者の狂いなき一太刀、振るうたびに剣同士の打ち合う金属音が雨の中に木霊する。
互いに一歩も引かないの攻防。しかし元々の力量の差だろうか、僅かながらライングが押していた。
(押し切られる……!)
このままではまずい。サミーは一旦距離を取ろうと後方へ跳ぼうとする。
「逃がさない!」
しかしライングはその隙を見逃さない。手に持った銃を跳んだサミーへ向け発泡した。
放たれた弾丸は右肩へ当たった。瞬間、全身が燃えるような感覚がサミーを襲った。
「ぐぅ…………!」
肩を抑えながら唐突な熱さに耐える。
しかし迫り来るライングの剣がその熱さを忘れさせた。
キインという一際大きな金属音と共に両者の距離が空けられた。
サミーの頭の中は先程の攻撃の正体についての疑問で埋め尽くされていた。
理由は二つ。一つはあの一発を受けたというのに身体には一切の傷が無かったから。
そしてもう一つ、身体の内側が燃えるように熱いから。
(あの感覚、あれはただの銃じゃない。まるで鋭く研ぎ澄ました魔法を喰らったようだった……)
この世界の古代の兵器の中には魔力を増幅させ、それを撃ち出す砲台のような物がある。おそらくあの銃もその一種なのだろうとサミーは推測する。
そして同時に考える。この状況を突破する方法を。
(幸いライングはあまりアレの扱いが上手じゃない。だが厄介なのには変わりはない!)
接近戦を仕掛ければ、ライングの元々の力に押し負け、遠距離戦ではあの銃と強力な魔法によってジリジリと追い詰められる。
まさに進むも地獄、退くも地獄という状況。
(だがやってやる…………………………シアーを取り戻すために!)
秘めたる思いは一つ、シアーを取り戻す。サミーは彼女を守るために今この場にいるのだ。
そのための全力をここで引き出す。
「"水よ、波動となり大地を埋め尽くし、うねる波をもって敵を飲み込め━━"」
「ッ! 魔法か!」
ライングはサミーの知る中では最強の人間。その存在に対抗するなら自身の最強の技で迎え撃つ。
「"━━水よ跳ねろ。スプレッド"」
ぽちゃんと一滴の雫が落ちる小さな音と呼応するように地面が青色に染まる。それは海のように広がり広場を埋め尽くすと、降りしきる雨によって沢山の丸い波紋が作られている。
「これは………」
足首にまで浸る水。未だに地面に手を置き微動だにしないサミー。その正体は高濃度の魔力。
一体ここから何が起きるのかとライングは警戒を強める。
━━ポチャン
再び水の跳ねる音が嫌なほどに響いた時、変化は訪れた。
足元から唐突に水がライングの顔に目掛けて勢いよく噴き出したのだ。
「クッ!」
顔を逸らし噴き出した水を紙一重で避ける。
しかし攻撃は止まらない。目の前に水で作られたナイフが三本、刃をライングに向けられていた。
「これは!」
困惑の声を上げながらもナイフに向かって銃を放ち撃ち落とす、が。
「━━がはっ」
突如背中に強い衝撃と共に骨の軋む音が間近に聞こえた。
「こいつは…………」
それは大きな水の塊。
ナイフに気を取られた隙を突き砲弾のような大きく硬い水の塊が背後から衝突したのだ。
その衝撃は巨大な魔物を倒れ伏させるほど。それほどの衝撃を受けたライングは思わず膝を付きながら、この現象を発生させた術者を睨む。
「サミー…………」
「はぁ…………はぁ…………」
広範囲陣地水魔法『スプレッド・ユア・ウェイブス』
これはサミーが持つ魔法の中で最も強力な魔法。
一定の範囲内に水の陣地を生み出し、その範囲内のあらゆる場所から縦横無尽にサミーの持つ魔法を生み出し敵を殲滅する。まさしく一人軍隊とも言える強力な魔法だ。
あの船旅以降、サミーの中に生まれた『失いたくない』という願いと三年間の研究の末に編み出された。
しかしそんな強力な魔法にも弱点は存在する。
一つは術者であるサミーはその場から一切動けないこと。そしてもう一つは、
「はぁ…………ふぅ…………」
広範囲に強力な魔法を生み出すという性質上、莫大な魔力を消費するということだ。限界まで魔法を使用した場合、極度の疲労が襲い、最悪体内の生命力を蝕む危険性まである。
この魔法の持続時間は1分。その間に目の前の敵を倒さなければいけない。
(残り50。このまま一気に…………)
眼を大きく見開いて、膝を付くライングを見据えながら陣地から周囲を埋め尽くす量の魔法を生み出しライングを水の魔法で囲う。
一方、窮地に追い詰められたライング。彼はこの光景を見て、水色の瞳を輝かせながら心の中で笑っていた。
(ハハハ……すげえなサミー。ここまで強い魔法を使えるようになってるなんて)
再開を果たした親友がここまでの力を携えて帰ってきたのだ。冒険者として、そしてライバルとして心が躍らないわけがない。
(だけど俺も負けられない。俺にはやるべきことがあるんだ!)
ゆっくりと立ち上がり周りを見渡す。
見えるのは埋め尽くされた水魔法の壁。その先にサミーは待っている。
これこそまさに勇者が乗り越えるべき壁だ。この壁を乗り越えて。
「思いっきり…………な」
新たな決意を胸に"勇者の剣"という名の銃を握る手に力を籠める。
そして真っ直ぐ向かう先を指で指し示すと。
「いくぞ、サミー!」
そこに向けて一直線に駆け始めた。
「…………っ、発射!」
同時に滞空していた水魔法が一斉にライングに向けられ発射される。
水の刃に水の弾丸。迫り来る数多の魔法に対してライングは笑顔と共に言葉を紡いだ
「"風よ、天昇る栄光無重の足跡を踏ませろ! インビンシブルステップ!"」
瞬間、緑の光がライングの足元を纏い始めた。
と同時に目の前に迫って来る魔法を、風のように飛び越えるのだった。
ひらりと跳ねる音が響くとライングは宙を飛んでいた。
その姿はまさしく鳥。重さをものともせずに空を舞う鳥のようだった。
そして魔法を飛び越えたライングはそのまま空から銃を構える。
「いくぜ、サミー! 俺の渾身の一撃を受けてみろよ!」
掛け声と共に、力を籠めて何回も引鉄を引いた。
雨が降りしきる中、バンバンバンという連続した音と共に放たれた弾丸達は真っ直ぐとサミーへ向かって突き進む。
「スプレッド……! がぁっ!」
サミーは迫り来る弾丸に対抗しようと叫ぶように詠唱を紡ぐが、その言葉を魔法の弾丸が遮った。
五発もの弾が身体を貫き、サミーはゆっくりと地面に倒れ伏した。
時間にして42秒。短くも長い戦いが終わりを見せた。




