第67話 Brave and Holder
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『爆鳴気』というのを知っているだろうか。
難しい理論は省くが、水素と酸素を混ぜた気体に火を近づけると大きな音を上げながら爆発する現象だ。
これを作るにはもちろん水素と酸素が必要だ。
あの船旅以降、神の力とは違う力を求めた僕が行き着いたのは前の世界ではよくあった『科学』の力だった。
そして二年間の月日を掛けて微力だが水魔法を応用して、酸素と水素を生み出す力を身につけた。
その結果、周辺に魔法で生み出した爆鳴気を使って広場に居た冒険者達の注意を逸らし難なく侵入に成功した。
そして今、僕の目の前にはかつての親友と大切な家族の姿があった。
一人この広場に残ったライングはシアーをベッドに寝かせ、ゆっくりとこちらへ振り返る。
「…………」
「…………」
まったく変わらないその姿。
金髪の髪に水色に輝く瞳。昔の知るライングのままだ。
しかしその顔を見た時、嬉しさよりも恐怖の方が大きかった。
『お前は必要ない』
何度も反芻する忌まわし幻影が僕の脳内に憑いてまわる。だが今はもう関係ない。
ライングは……シアーを攫ったんだ。僕には彼女を取り返す義務がある。
そんな使命を胸の内に秘め、サミーはゆっくりと口を開いた。
「久しぶりだな…………ライング」
「サミー、久しぶり!」
あの時から変わらず元気な声がサミーを出迎えた。
白々しい。あの雨の日を僕は忘れていないというのに。
僕は腰に手を置きいつでも剣を抜けるようにする。だが、ライングに警戒の様子は無い。正しく旧友との再開を果たしたように笑顔を浮かべていた。
「生きてたんだな! 本当によかった」
「シアーを返せ」
「ああこの娘か。驚いたよ、お前のお母さんにそっくりだ」
「いつまでそんな調子なんだ。早く彼女を返せ」
会話が噛み合わない。
どういうことだ。まさかライングはこの状況を理解してないのか?
サミーの知る彼の雰囲気とこの歪な状況に違和感を覚える。
「5秒だ。5秒以内に彼女を解放しろ」
「…………解放しなかったらどうなるんだ?」
瞬間。ライングの眼の色に熱が帯び、森の木々が激しく揺れた。
サミーの首筋に冷や汗がたらりと流れる。
しかし動揺は見せない。ライングの前で動揺を見せることは死に近づくことだから。
「お前を倒してから彼女を取り戻す」
「…………そうか」
サミーの警告にライングはあっけからんに返事を返した。
その彼とは似ても似つかない様子に内心疑問を持ちながらもサミーはゆっくりと数え始める。
「5」
剣の柄に手をかける。
「4」
走り出せるように体勢を低くする。
「3」
瞬間的に無詠唱で水魔法を構築、すぐに撃ち出せるようにする。
「2」
剣を抜きながら前に向けて駆ける。
「い…………」
━━パァン!!
「え……?」
鋭く乾いた音が響くと同時に、サミーの左頬を何かが通り過ぎる。
左頬に触ってみると手には赤い血が付いていたのだった。
「この音は」
耳を刺激させるその大きな音。
前の世界ではドラマやアニメの中で嫌というほど聞いた。だがこの異世界と呼ばれるこの世界でその音を聞くことになるとは思わなかった。
「銃…………?」
正面に立つライングを見る。
彼の手にはこの世界とは場違いな筒状の形をした代物、引鉄を引くだけで簡単に人を殺せる凶器が握られていた。
「外したか。やっぱりまだまだ"勇者の剣"は使いこなせないなぁ」
「ッ…………」
そう言うとライングは"勇者の剣"と呼ばれた銃を見て落胆の声を上げた。そしてゆっくりと腰に携えた剣を抜き、広場の中心へ歩き始める。
サミーはそれに付いて行くように彼の後を追った。
そしてこの場にサミーとライング。二人が相間見えた。
「やっぱり、お前とは戦うことになるんだな。残念だよ」
「何が残念だ。初めからわかっていだろう」
「そうだな。ところで俺達が子供の頃に木で作った剣を使って戦っただろ」
「そうだったな」
脳裏に浮かぶのはただひたすらに夢を追い続けてた時の光景。
あの時は本当に楽しかった。だがまさかその結果がこんなことになるとは思わなかったが。
「子供の頃は100回やって俺が80回は勝ったよな」
「ライングは力が強かったからな。全く敵わなかった」
「でもサミーは俺に20回勝ってるんだ。………………20回も俺に勝ってるんだ」
「…………何が言いたい?」
サミーの問いにライングは口角を上げながら右手に持った剣を構えると。
「つまりな、俺の方が強いってことさ!」
開戦の狼煙を上げるように左手に持った銃をサミーに向けて引鉄を引いた。
その数三発、淡く輝く弾丸がサミーへ迫る。
「甘く見られたな。まあ仕方ないよな」
あの時からずっと会っていなかったからな。
そんな落胆のような言葉と共に三つの弾丸を剣で弾いた。
サミーは一つ深呼吸をした後、右手に持つ剣をライングに向け一言。
「"バレット"」
紡がれた言葉と同時にサミーの周りに大量の小さな水の粒子が生成され、その全てがライングに向けて発射された。
その様相はまさしく弾幕。並の者は避けるのも不可能だろう。しかしライングは違う。
「へえ……!」
感嘆の声を漏らしながら剣を地面に突き立てる。
その瞬間、地面から炎の壁が吹き出し、水の粒子を全て蒸発させた。
防御壁。一流の魔法使いが使う防御魔法だ。
攻撃を受け止めたライングは得意気な声色で防御壁を解除する。
「神の力はそんなもんなの…………か?」
そこにサミーの姿は無かった。まるで煙のように消え失せていた。
一瞬での移動、ライングは周りを見渡しサミーの姿を探す。
しかしこの広場でサミーの姿が見当たらない。どこだと思ったその時。
━━バンッ!
「なっ……!」
ライングの足元の地面が大きな音を立てながら爆発した。
痛みは無いが、その衝撃は体勢を崩させるには充分だった。
「"水よ、螺旋が如く撃ち抜け"」
その隙を狙ってライングの左後方、木々が生い茂る森の方から水の弾丸が狙いを定めた。
水の弾丸の狙いは頭。体勢の崩れたライングに弾丸を避ける術は…………ある。
「勇者の剣よ!!」
そう叫び手に持った銃に力を込めながら水の弾丸に向けて発射した。
放たれた勇者の剣の一撃は轟音の雄叫びを上げながら水の弾丸を貫通。その先にいるサミーの下まで迫った。
「…………!」
サミーは地面を転がりその一撃を回避。後ろに生えた樹が大きな音を立てながら崩れるのであった。
倒れた樹を見てサミーは目を見開いた。
(さっきのとは威力が全然違う。あの銃、まさか遺物か?)
遺物、それは『太古の昔に存在した兵器』。その威力は国を沈めるほどの力があるという危険な代物だ。
あの銃を真っ先に対処しなければ。
サミーは木々の間を縫うように広場を走る。
(さっきみたいに足元に爆鳴気を仕掛けるのはもう通用しない。ともかく早く移動しないと…………っ!)
「そこか!」
直後、ハウリング音のようなキーンという音と共に光の柱が現れその歩みを阻んだ。
ライングの魔法だ。光の柱は輝きと共にサミーに向けて熱線を撃ち放った。
「チッ……」
素早く身体を捻り回避しようとするが、熱線は左肩を掠めた。
このままではまずい。サミーは行手を遮る光の柱とは反対方向へ逃げ込もうとする、だが。
「逃がさない! "ブライトピラー!"」
逃げた先にも光の柱が。再びきびつを返し逃げようとしてもまた光の柱。
横目に広場に視線を向けると、ライングが真っ直ぐこちらの方を見ていた。
「クソッ……」
このまま隠れながらの攻撃は困難だろう。そう判断したサミーは苦虫を噛み潰したような顔をしながら広場の中心へ向かった。
広場の中心には一丁の銃と一振りの剣を手にしたライングがサミーを待っていた。
「いやぁ、あの水魔法には驚いた。これも神の力ってヤツなのか?」
「………………」
「とはいえ俺だってこの三年間、魔法の修行をし続けたんだ。もう小細工は通用しないぞ!」
ライングは戦いをしている相手に笑顔を浮かべながら話している。
相変わらずコイツは変わっていない。あの時のようにみんなを率いるカリスマを持つヤツだよ。
「準備運動はこれで終わりだ。こっから本番だぜ!」
「そうか」
小さな広場の中心。神の力を持つ者と勇者が中央にある篝火を挟んで並び立つ。
ライングはゆっくりと銃口を正面に構え、サミーは無詠唱で水魔法を構築、水の槍をライングへ向けた。
「さぁて、久しぶりの戦いだ。確か最後にやった時はサミーが勝ったんだっけな」
「…………ライングは動きが単純だからな」
「あ、そうだったのか?」
「フェイントに騙されすぎなんだよ。もう少し相手を観察しろ」
「いやぁ、俺ってそういうの難しくてさぁ」
まるで酒場で話すような会話をしながら、その時が来るのを二人はじっと待っていた。
その時は訪れる。空からポタリポタリと雨が降ってきたのだ。雨は徐々に勢いが増していき、広場を囲った篝火を次々と消していく。
そして、最後の篝火、二人を挟む篝火が消えた瞬間。
「「くらえ!!」」
両者の声が重なると同時に激闘の幕が開かれた。




