第66話 Hearts let beat
唐突に訪れた友との再会。
共に夢を歩んでいた頃からまったく変わらずその姿を見て思わずこう思った。
『心が躍る』と。
*
雨雲が空を覆う夜。
青々とした森の中、小さな篝火が順序よく立てられ小さな広場が作られていた。
広場には十五人ほどの男女が野営をしており、皆どこかそわそわとした雰囲気で夜を過ごしていた。
「なあもうすぐだよな?」
鎧を着た男の声が小さく響く。
その声は不安の入り混じる声は暗い夜の恐怖をさらに深めている。
「ああ、リーダーの号令があったらすぐにやるぞ」
その言葉と共に一人の人間に注目が集まる。
それは屈強な肉体を持つ金色の髪の男。目を閉じながら座るその姿はまさしく騎士道物語に登場する騎士の姿そのものだろう。
傍らには緑髪の小さな女性がおり、その時が来るのをじっと待っている。
「………………」
その男。ライングは静かに森の声に耳を傾けている。
木々が揺れる音、虫の鳴き声、篝火がパチパチと燃える音。
森を形作る全ての音を目を閉じながら耳で感じていた。
「…………ライング、何か考えごと?」
ふと、傍らに居るケーアが話しかけてきた。
ライングはゆっくりとその青白い瞳を開き彼女を見据える。
「あぁ、シオンのことが心配でね」
「…………そういえばここに居ないわね」
半刻前からこの場にいない魔法使いの様子が気がかりなのかライングは少し落とした声で語った。
「うおーい! 遂に見つけたぞ!!」
「どうしたどうしたぁ!」
そんな時、広場の様子が騒がしくなる。
「シオンさんが言っていた神の力を持つ巫女だ!」
「マジか! まさか本当にいたとは」
ライングが騒ぎの中心に向かうとそこには綺麗な青白い髪の少女を背負った冒険者が現れていた。
冒険者はライングに気付くと嬉しそうに彼に近寄り少女を見せてくる。
「リーダー喜んでくれ。神の巫女を捕まえて来た。これで魔王に対抗できるはずだ」
「━━━、!」
ライングは言葉を失った。
その幼い少女の顔にライングは見覚えがあったからだ。
死んだ親友が愛した母親。彼の初めて見せた涙の理由となった人物の顔と瓜二つだったのだ。
声を震わせながら彼は喜びの表情を浮かべる冒険者に問いた。
「彼女をどこで捕まえたんだ」
「こっからすぐ近くにあるあの村だよ。シオンさんが教えてくれたんだ」
「シオンが…………?」
どういうことだ、何故シオンが知っている。ライングの頭に疑問が浮かび上がる。
しかし、その疑問はすぐさま別の問題が塗り替えてしまう。
━━バァン!!
森の方から激しい爆発音が響いたのだ。
この場に居る全ての人間がその音の方向を見る、が。
━━バァン!! バァン!! バァン!!
広場を囲うように爆発音が規則的に響き渡る。
「おい、なんだよこの音…………」
「魔物か?」
「わからない、なんなの……?」
唐突な異常に冒険者達は慌てふためき動揺の声が上がり始めた。
この様子に見かねたライングは右手を挙げて注目を誘う。
そして毅然とした態度で冒険者達に告げた。
「五人チームに別れて原因を捜索。その後は各々の判断に任せ、合図を待っていてくれ」
「「了解!!」」
十五人の冒険者達はライングの命令に従い行動を開始する。
そうしてこの場にはライングとケーア、そして少女を背負った冒険者の三人が残った。
「…………ライング、私たちはどうするの?」
「ケーアは彼と一緒にシオンの様子を見てきてくれ。その少女は…………僕が預かっておくよ」
「わかったぜ」
冒険者は少女をライングに渡し。そしてケーアと共に歩き始める。
「…………気をつけてね」
広場を出ようとした時、ケーアがライングに語りかけた。
少女を背負ったライングは青白い瞳を細めながら。
「大丈夫さ」
そう言って微笑みを向けた。
「…………」
さて、騒ぎが通り過ぎ一つの静寂の訪れた広場の中。ライングは野営する拠点で背負った少女を簡易ベッドに寝かせる。
神の巫女と呼ばれる少女。何度その顔を見ても、死んだ親友の母親の顔そのものだ。
まるで生まれ変わったかのように。
「…………」
少女が神の巫女なら。噂で聞いた神の力を持つ勇者の生まれ変わりとは一体何者なのだろうか。
いや、実は彼の中ではもうわかっていた。その人物の正体に。
「………………」
背後から足音が聞こえる。
振り返らなくても分かる。足音の人物の姿が。
『━━━! 絶対に生き残ってくれよ! お前に教えて欲しいこと沢山残ってるんだから!』
『━━━、貴方はとても強い人間よ。だからまた会えると信じているわ』
『…………頑張って』
もうあの約束は果たされないだろうとライング心の内で諦めていた。二度と再開の日は訪れないだろうと。
『……おう! 絶対にまた会おうな!』
しかし、約束の時は訪れたのだ。まるで神様が運命を操ったかのように。
ゆっくりと後ろへ振り返る。
そこには予想通りの人間が立っていた。
「…………」
「…………」
目の前に立つ人物の顔を見る。
青いマントを羽織るその男。長年の月日が経ち少し白髪が生えてきている青みがかった黒髪。大人びた雰囲気を漂わす眉毛。老練の力を確信させる茶色い瞳孔。あの時と全く変わってない童顔。
そして俺の姿を映す決意に満ちた瞳。
あの時のままだ。あの時みんなで夢を見たあの頃とまったく変わっていない姿だ。
あぁ心が躍る、心が躍る。
アイツが神の力を持つというのも納得しかない。何せ俺の親友であると同時にライバルなのだから。
そして同時に悲しくもある。
あの眼だ。あの眼を見て確信した。俺はこれからアイツと戦うということに。
そんな俺の考えていることも露知らず。目の前に立つ親友はゆっくりと口を開いた。
「久しぶりだな…………ライング」
「サミー、久しぶり!」
冷徹な表情のサミーを見て俺はあの頃と同じように笑顔を返すのだ。




