第55話 報告書
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報告
今回、アローグン王国から南西にある村にて儀式の痕跡及び大規模の幻影魔法の行使が見られた。
それに伴いアローグン王国及び冒険者ギルドにその経緯を報告する。
筆者が確認した痕跡からA級の儀式が予想される。確認する際は注意されたし。
これより
1.筆者と筆者の所属するパーティー(以下、「青い空」と呼称)が目撃した内容とその対応
2.行使された魔法・儀式と発生原因
3.顛末・『被験体A』の処遇
以上の順に報告する。
1.青い空が目撃した内容とその対応
青い空はアローグン王国にある大衆酒場『剣のより所』にて、謎の少年から依頼書を受け取り。次の日、ギルドから正式に依頼を受諾した。
そして一日半の移動後、依頼に記された村に到着。村の村長のご厚意で一泊させてもらうことになった。
夕食時、村長から『魔物は既に追い払った』という報告を受けた。
この時の魔力の乱れは特に無し、おそらく儀式の影響が表面に出なかったと思われる。
次の日の早朝、村を立とうとしたところ、魔物の群れが村を襲撃。青い空の三人で対応に当たるが、村長の娘『被験体A』が『魔物の長』に攫われてしまう。
村長の懇願を受け青い空は村長の娘の救出依頼を受諾した。
追記:襲撃時、魔物から大容量の魔力の痕跡、及び儀式の痕跡を確認。特に鳥型の魔物から強い痕跡が見られた。
魔物の長の住処にて『被験体A』を救出。
この時、青い空のメンバーが負傷。幸いにも軽傷で済んだ。
その時『魔物の長』の幻影魔法と地魔法の使用を確認。
魔物の長の住処には儀式の祭壇とその生贄らしき骨、銀貨数枚を確認。
青い空は『被験体A』を送り届けようと村に戻るが。この時村は既に幻影魔法が解除され壊滅状態になっていた。
この時から村の中にも大規模な儀式の痕跡と奔流する魔力を確認する事ができた。
その後、青い空は『被験体A』と共にアローグン王国へ帰還。
以上が筆者と青い空が目撃した内容になる。
2. 行使された魔法・儀式と発生原因
現場での痕跡と冒険者ギルドの管理する資料を確認した結果、今回の件で使用された儀式と魔法は以下の二つで確定した。
儀式『冒涜する魂』
魔法『幻影魔法・リバイブヴィジョン』
原因は三ヶ月前の大規模な魔物の襲撃によるもの。この襲撃で村は壊滅。
村の村長は『被験体A』を守るため、村に残された古の儀式を行使したと思われる。
『冒涜する魂』で村人二十四名の魂を魔力に変換。
半分の魔力を使い魔物の姿を形成させ『魔物の長』に、残りの半分は『被験体A』へ注ぎ込んだものと見られる。
それにより、魔物の襲撃に対応できたが、『被験体A』を除く村の住人は全て魂ごと無くなった。
村の住人が無くなったショックで『被験体A』に注がれた魔力が暴走。無意識のうちに幻影魔法である『リバイブヴィジョン』を行使したと思われる。
幻影魔法が解除された原因は、儀式によって生み出された魔力の半分を持っていた『魔物の長』が撃退されたことにより、急激に魔力が減退し幻影魔法の維持が困難になったから。
3. 顛末・『被験体A』の処遇
『被験体A』の体内には未だに大量の魔力が残留しており、尚且つ体内での魔力生成量も一般の冒険者の約六倍多く生成されているのを確認した。
加えて儀式の影響により高水準の幻影魔法を行使できるようになっている。
ロールクォーツの測定では『適正魔法:地 魔力操作精度:A』であり魔法の才能に関して突出しているが、本人の魔法に関する知識が皆無なため、体内魔力の操作を誤る危険がある。
現在は魔力の暴走などは確認されていないが依然油断はできない状況である。
それに加えて、先の件の影響からか『被験体A』は何かの対象に依存しなければ自我、及び体内に残っている魔力の暴走の危険がある。
現在その対象は青い空所属の冒険者、ライングへ向けられている。
以上の理由から、現在『被験体A』は青い空の所属としている。
魔力の操作に関しては青い空のメンバーが適宜教育を施すことになる。
この件に関しては、アローグン王国冒険者ギルド会長『ムーンライ・ワルツ』氏の承諾を得ている。
依頼書を渡した子供についての詳細や目的は不明。後日その子供の捜索をするもその痕跡は見つけられず。
以上の結果を踏まえ。この報告書をB級閲覧制限特約書に。並びに未だ儀式の痕跡が残っている村の区域をA+級魔力汚染区域の登録を願います。
冒険者パーティー『青い空 シオン』
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「ふぅ」
ペンを置き、椅子の背にもたれながら一息つく。
私は現在、アローグン王国にある宿屋のロビーで冒険者ギルドに渡す報告書を書いていた。
今回の依頼は様々な出来事が起こった。今までの明るい原っぱでワイワイ素材を探すのとは違う。それこそ命の危険がある依頼だった。
そして大規模な儀式と魔法が行使され結果的に一つの村が滅び、儀式の影響を受けたケーアが私達の仲間になった。
そうした理由からギルドに対して報告をしなければいけなくなったということだ。
今後のため、という理由もあるが何より幻影魔法の使用者であり、儀式の被害者であるケーアを陰謀から守るためには後ろ盾が必要だった。
この仕事は私にしかできない。ライングは感情が先に出てしまうし、サミーは怪我をしてしまって上手く動けない。
何よりアローグン王国内で強い繋がりを持っているママの持っているコネが役に立った。これでしばらくの時間を稼げるはずだ。
「あとはこれよね」
一通の封筒。あの時、大衆酒場で謎の子供からもらった依頼書が入っていた封筒だ。
結局、あの子供の正体は掴めなかった。手掛かりは子供の顔と、封筒に押されている緑色の鼠の紋章が刻まれた封蝋だけだった。
おそらく、あの子供とはまた会うことになる。その時は絶対に何を考えているか聞き出さないと。
「ふぁー、かなり寝てしまっていた」
ふと扉が開かれサミーが入ってきた。
傷は塞がっているが、まだ無理はできない状態なのに。
「サミー、なんで起きたの」
「え、いや……」
「いいから寝てて。今はゆっくり休むのが貴方のすることよ」
その言葉にサミーは困ったように頭を掻いた。
彼、いつもはのほほんとしているのに、仲間が危険な状況になると自分を顧みずに行動しちゃう。
私達が八歳の時もそうだった。
三人で冒険と称して村の外に探検に行った時、一匹の魔物に遭遇してしまった。幼かった私はワンワン泣いてしまいそれが魔物を刺激してしまった。そして私に向かってきた攻撃を彼はその身を挺して守ったのだ。
その後は大変だった。サミーは肩から血を流しながら魔物を追い払ったが倒れてしまい、ライングと私はわけも分からず泣き喚くしかなかった。幸いすぐに村の人に見つけてもらってサミーの命は助かったけど、肩にはその時の傷が今も残っている。
「いや、さすがにずっと寝てるのは退屈だよ。ちょっとだけ酒場に行ってもいい?」
「だめよ」
「お願い」
「だめ」
「この通り!」
「だめ。そんなに退屈なら何冊か小説を貸してあげる」
「はあ……わかった。シオンもあまり根を詰めすぎるなよ」
少し不貞腐れながらサミーは再び自分の部屋に戻った。
彼はいつも大人っぽく振る舞っているけど、私といるときに時々子供みたいになる。これはライングは知らない、私だけが知っている一面。
「……ふふっ」
その光景を見て私はクスッと笑った。
さて、もう少しだけ頑張ろう。青い空のために、そして━━━━のために。
私は再び紙に向かってペンを走らせ始めた。
これにて追想『幻影の村』は終わりです。
ここまでご覧いただき誠に有難う御座いました。
感想や気になることなどがありましたらお気軽にお書きください。
それでは今回はこれにて、次のお話もお楽しみに。




