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第53話 VS幻惑の怪鳥

    ✳︎


 村を出て一時間ほど歩いた。


 最初は硬く歩きやすかった地面は足場の悪い沼地になり、進む脚も遅くなってしまった。


 そうして曇り空の下、足首まで浸かる沼を進んで行き、怪鳥の住処らしき場所に辿り着いた。


「あれは……台座?」


 そこには半径5メートル程の木で作られた丸い台座がポツンと沼地の上に建てられていた。


 その周りには台座の外を囲うように何本もの白い物体が等間隔に沼地に沈められており、台座には七枚の銀貨が置いてあり、その銀貨からは何本もの線が引かれ、七芒星の形を描いていた。


 その様相はまるで邪教の儀式を思わせた。


「儀式の跡……やはりね」

「やはり? シオン何か━━」

「おい! あそこ見てみろ!」


 ライングが台座の上を指差した。そこには横になって倒れている褐色肌の緑髪の少女、ケーアちゃんの姿があった。


 見つけた僕達は彼女の下に駆け寄ろうとしたが。


「ポォーウッ!!」


 甲高い鳴き声が僕達の歩を止めさせた。

 怪鳥だ。孔雀のような翼を羽ばたかせ僕達を睨み付けている。


 僕達は慌てて武器を取り臨戦体制に入る。


「ライング、シオン、作戦通りやるぞ!」

「おう!」

「…………」


 ライングは怪鳥の下に駆け抜け、僕とシオンはケーアちゃんが戦闘に巻き込まれないように、台座から離れた場所に移動した。


「魔法を構築するのにどのくらいかかる?」

「三十秒。詠唱を始めるからしっかり守って」

「了解」

「"岩よ、纏し力以て魔を守護する攻壁とならん。風よ━━」


 詠唱と共に魔導書のページが勢いよく捲られていく。

 さて、この相手にライングはどれだけ保つことができるのか。


「お前の相手は俺だぞ!」

「シャッァー!」


 怪鳥は翼を勢いよく羽ばたかせ、羽根の刃を飛ばして来た。ライングは沼に足を取られながらもその攻撃を躱していく。


「ハッ! ヤァ!」


 流れてきた羽根の刃を剣で叩き落とし、シオンを守る。

 十五秒。シオンの詠唱が完了するまで残り半分。


「……チッ」

「ピャシャー!!」


 段々と飛ばしてくる羽根の数が多くなって来ている。今は怪鳥の注意はライングが引いているが、あの弾幕の厚さではいずれ攻撃が当たってしまう。早くして撃ち落とさなければいけない。


「━━強大な嵐を生み出し邪を払わん"」

「終わったか!」


 シオンは頷きで応え右手に持った魔導書を怪鳥の方に向けた。

 

「"ウィンドスフィア・ストーム!"」


 その言葉と共に、魔導書からサッカーボールほどの大きさの風の球が撃ち出された。球は瞬く間に飛んでいる怪鳥の真上に移動し、その場に滞空する。


「ライング、離れろ!」

「ッ…………!」

「"バースト!"」


 直後、風の球はヒュゴオという凄まじく強い風と共に爆発した。

 怪鳥は吹き出してきた風を間近に受け鳴き声を上げる暇もなく沼地に向けて叩き落とされる。


「チャンス! 一気に攻めたてろ!」


 号令と共にライングは怪鳥の身体を斬り刻み、サミーは脚と羽根を的確に切っていく。シオンは再び詠唱を唱え大岩を飛ばしていく。


 そうして攻撃を与え続けた結果、怪鳥は動かなくなった。


「なんだ……?」


 直後、怪鳥は七色の光を発し、そして小さな粒となって消えていった。

 

「この光は……」

「そうだ! あの子を助けないと!」

「ええ、早く助けに━━」


 ヒュー━━━━トスッ


 直後、強い風がサミーの頬を撫でた。そして横目に映ったのは━━━━七色の羽根だった。


「危ない!!」


 サミーはシオンとライングに覆い被さり、そしていくつもの羽根の刃がサミーの背中に突き刺さった。


「「サミー!!」」

「ぐぅ…………!」


 背中の激痛に耐えながらゆっくりと立ち上がる。そして羽根の飛んで来た方向を睨みつけた。


「「「ポォーウッ!!」」」


 これは悪い夢なのだろうか。

 そこには怪鳥が()()。先程の激戦がまるで茶番だったかのような何食わぬ顔でその翼を羽ばたかせていた。


「な、なんだよ……あれ……」


 一体倒すだけであれだけ苦労したというのに、その怪鳥がまだ()()も居た。その光景にサミーとライングは唖然するしか無かった。


「まさかとは思ったけど……」

「シオン?」


 一方シオンは苦虫を噛み潰したような顔を浮かべ、サミー達に語りかける。


「あの魔物が使用しているのは幻影魔法よ」

「幻影魔法?」


 幻影魔法とは一定の時間魔力で作った幻を見せる強力な魔法だ。しかし使い手が少なくとても貴重な魔法でもある。


 しかしあの怪鳥は長時間、そして実体を持った幻影魔法を行使できている。


「つまりあの三体の内にいる本体を見破らないと倒せないわ」

「本体を見つける……」


 そこから始まったのは、一方的な消耗戦だった。

 青い空(ブルースカイ)の面々は勝機を得られぬまま防戦一方に沼地の中で後退を繰り返すのみだ。先程までは小雨程度だった羽根の刃も今では雨霰のごとく三人に降り注いで来る。


 そして。


「はあ……はあ……」

「サミー! しっかり気を持て!」


 サミーの背中から流れる大量の血と共に体力が奪われていた。

 このままではサミーの命が危うくなる。

 

(考えろ、本体と幻影の違いを。何をもって幻影たらしめるのかを)


 動き? 違う。怪鳥に規則的な動きは無い。

 飛んでくる羽根の刃? 違う。おそらくあの羽根は幻影魔法の一種だ、これでは本体を見分けられない。

 身体の模様? 違う。三体の身体の模様は光は発していないがどれも同じ孔雀を思わせる七色の翼だ。━━光?


「"岩よ、守護の陣を建て我らを守り給え……ウォール"」


 シオンが地面に手を置くと、地面から石壁が生え羽根の刃を受け止める。

 しかし多量の魔力を消費しており、その表情はかなり険しい。


(そうだ。村ではあの怪鳥は虹色の光を発していたはずだ。だけど今はそれをしていない……つまり!)


 一つの活路を見つけた瞬間だった。


「ライング!」

「どうした!」

「魔法はやれるか!?」


 その問いにライングは一瞬だけ不安の表情を見せるが、すぐに笑顔で水色の瞳を輝かせる。


「もちろんだ!」

「よし! 最高に大きいヤツを頼む!」


 冒険者試験以降、ライングはシオンの指導のもと、魔法の修行をしていた。しかしその強大な力を上手くコントロールできなかったので実戦では封印していたのだ。


「任せとけ!」


 そうしてライングは石壁を飛び越え三体の怪鳥の前に対峙する。

 そして剣を天に向けてかざした。


「"光よ、剣に舞い降りし真なる光よ━━━━」


 詠唱と共にライングの持つ剣が黄金の光を纏い始める。それはまさに救世主を思わせるような綺麗な光だ。


「「「ピヒャーアッ!!」」」


 怪鳥も危ないと思ったのかライングに向かって羽根の刃を飛ばして来る。

 ……邪魔はさせない。


「ハァ!! …………グハッ!」

「…………ッ!!」


 ライングに向かって来る羽根を叩き落とすが、お腹に何本かもらってしまう。

 だが間に合った。


「"救われぬ者を救うがため! 大事なヤツを守るため! 俺の両腕に祝福を寄越しやがれ!!"」

 

 詠唱が終わりライングの剣の光は曇りだった空を照らすほどに明るくなって来た。

 そして、三体の怪鳥の方にも変化は訪れる。


「ピャァ! ピャァァァァ!??」

「やっぱりあの鳥の幻影は()()()で見破れるんだな……」


 光というのは広がる波だ。幻影魔法はその光の波の形を変えて虚構を作り出すというのが主な使い方なのだ。

 あの怪鳥はそこに別の魔法を組み合わせて攻撃をしているが、まあこれは関係ない話だ。

 

 さて、光の波というのは別の波をぶつければその存在はテレビのノイズのように簡単に歪む。


「見つけた………!」


 ライングの光を浴びた二体の怪鳥はその虚構の身体が大きくブレた。そして最後にくっきり残った一体。あれが怪鳥の本体だ。


「ライング! ヤツを狙え!」

「ハアァァァァ!!」


 雄叫びを上げながら本体に向かって行くライング。怪鳥はその場から逃げようと空に飛ぼうとするが。


 ━━ヒュゴォ!


「ピギャッ!?」

「"スフィアウィンド"。『魔法を使わせてるのを悟らせるな……』」


 シオンの魔法が怪鳥の逃亡を阻んだ。そして怪鳥が落ちた先には━━


「"ホーリー………」


 黄金の輝きを放つ剣を振り下ろさんとするライングがいた。


「………エッジィ!!!"」


 その一振りは辺りの地面を震わせ、沼地の沼を一気に跳ね上げさせる。


 そして、攻撃の中心の怪鳥は、為す術もなくその強大な一撃を受けた。







 空の雲が晴れて、青空が見せるこの沼地。


 そこに立っているのは二人の人間。

 一人は怪鳥を撃破した功労者。荒い呼吸をしながら振り下ろした剣を見つける男、ライング。


 一人は魔法で仲間をサポートし勝利に最も貢献した立役者。体内の魔力を大量に使って今にも倒れそうな女、シオン。


 そして、目的遂行のため仲間を庇いながらも作戦の成功を導いた立案者。緊張の糸が切れ、大量の血を流した結果沼地に倒れてしまった男、サミー。


 三人の力と策と友情があの忌まわしき『幻惑の怪鳥』を撃破したのだ。

 おめでとう。この戦いは君達、青い空(ブルースカイ)の勝利だ。

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星空を見上げれば〜私達は星々の夢を見る〜 短編の近未来ファンタジー百合小説です。 本作品と併せてお読みいただけると嬉しいです。
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