第52話 予定調和
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夜も明け、日差しが差し込む朝の日に僕とライングとシオンの三人はアローグン王国に帰るために、ナーパさんの家を出るところだった。
「それじゃあ俺たちはこれで。泊めてくださってありがとうございました!」
「私たちも楽しかったわ〜。また来てね」
「魔物を追い払ったことはギルドに報告しておきます」
「助かるよ。君たちも気をつけてな」
「はい」
「………………」
別れの挨拶を済ませ、村長の家に背を向けて歩き始める。
「村長ォー!!」
しかしその歩みは村の人の絶叫に遮られてしまう。
「はぁ……はぁ……村長! 大変です!」
「どうしたんだ? そんなに慌てて」
「魔物が……魔物の群れが村を襲ってきたんだ!」
「なんだって!」
魔物が襲ってきた。その言葉の衝撃は僕達を戦慄させるには充分だった。
「サミー! シオン!」
「わかってる!」
「行きましょう」
ライングの号令と共に僕達は武器を構え、村の方へ向かった。
まさかこんな事が起こるとは。
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村は阿鼻叫喚という言葉が似合う程に荒れていた。
オオカミの魔物が村の人を襲い、鳥の魔物が水田を荒らしている。
数人の村の人達は武器を持った応戦しているが、二十匹を超える魔物の群れに対して対応が遅れてしまっていた。
「ライングと僕で地上の魔物を、シオンは空を頼む!」
「了解!」
「わかったわ」
そうして三手に別れ、各々魔物を撃破するために動き始める。
「オオーン!」
「ひぃ……誰か助けてぇ」
一匹目、村人に襲いかかろうとしているが幸いにも魔物は僕の背後を向いている。
「ハァッ!」
掛け声と共に後ろ脚を斬り、倒れた魔物の腹に向かって剣を突き刺す。
「一つ……。大丈夫ですか!」
「あ、ありがとう」
「いえ、貴方は早く逃げて━━」
「ピシャー!」
直後、空から鳥の魔物が牙を立てて襲いかかって来た。
「……ッ!」
攻撃を剣で弾いて防御する。
防がれた魔物は再び攻撃するために口を開けて真っ直ぐ突っ込んでくるが。
━━サクッ
跳ねるような軽い音と共にサミーの剣が魔物の喉を貫いた。
魔物は口を開けたまま絶命。サミーは剣を引き抜き付着した血を振り払った。
「二つ……。さあ早く逃げてください」
「わ、わかった!」
そうして魔物を見つけるために再び動き始めた。
サミーと村人が去った直後、打ち捨てられた二匹の魔物の死骸が七色の光の粒となって霧消してしまうことに気づく者は誰もいなかった。
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三十分程戦闘を続けただろうか。
魔物の数が少なくなり村にも落ち着きが現れたところで村の広場でライングと合流した。
広場には周りには村の人達が集まっている。
「サミー! そっちはどうだ」
「手当たり次第に撃破したけど……上の魔物がまだ多い」
空を見上げる。空にはまだ十五匹ほどの魔物が水田や畑を襲っていた。
何故か村の人に対しては危害を加えてはいないが、何か嫌な予感がする。
そうしているとシオンがこちらに向かって駆け寄って来る。
「シオン!」
「倒しても倒しても数が減る気配がないわ」
「キリが無いな……」
シオンの得意な魔法は風と土だ。
土魔法で巨大な岩を使って飛ばしたり、風の刃で斬る事はできるが、この数ではどうしようもない。
「お、おい! あれを見ろ!」
村の人が大声を上げて空を指差した。
「な……!」
それは体長が7メートルを超える巨大な鳥、怪鳥だ。七色の光を発しながら孔雀を思わせる大きな羽を広げ空を羽ばたいていた。
「あの光は……」
「あれが魔物の群れの親玉か!」
「…………うん?」
怪鳥が向かっている方向、あの方向は…………。
「あの魔物、村長の家に行ってるぞ!」
「なっ…………」
「早く戻らないと!」
僕達は怪鳥を追うようにしてナーパさんの家へ向かった。
ナーパさん、リールさん、ケーアちゃん、無事でいてくれよ。
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そこには三人と一体が対峙していた。
「これ以上来るな!」
ナーパさんは槍を構えながら家族を庇うように前に出ている。一方の怪鳥は畑に降り立ち首を傾けながら村長達を見つめていた。
「ナーパさん!」
「デカい……!」
僕達が到着した時には既に一触即発寸前の状況だった。
まずい。早くナーパさんを助けなければ。
「"大地よ、力を集積し、巨砲を撃ち出せ"」
「お前の相手は俺だァ!」
「…………ッ!」
怪鳥に向かって三人で一斉に仕掛ける。
シオンの地魔法を、ライングの一撃を、僕の一太刀を怪鳥へ放つ。
「"ロックカノン!"」
「オリャアァ!!」
「ハァッ!」
一つ、二つ、三つの攻撃。魔法で作られた大岩は身体に打ち込み、ライングの一撃は肉を断ち、一太刀は羽根を撒き散らせた。
しかし。
「シャァー!」
怪鳥は未だ健在。鳴き声を響かせながら大きな翼を羽ばたかせる。
━━ゴオウッ!
一振りで充分だった。翼を羽ばたかせた瞬間、突風と共に羽根の刃が襲って来たのだ。
羽根の刃は塞いだがその強風は僕達を吹き飛ばし、地面を転がし、畑に突き落とした。
「チィ……!」
怪鳥は再びナーパさん達の方へ顔を向ける。
「く、来るな!」
槍を突き出し家族を守ろうとするが、怪鳥は興味無さげにナーパさんを翼で弾き飛ばした。
そして、リールさんとケーアちゃんの方を見た。
「ひっ…………」
怪鳥はゆっくりと二人を見つめ、ケーアちゃんの服を嘴で咥える。
「や……やめて……」
彼女のか細い声を無視して怪鳥は翼を広げ飛び立っていった。
孔雀を思わせるその翼を広げた時、僕の眼にはあの時見た強く、優雅で、厳かな七色の光が映った。
「あれは……」
「ピャァー!!」
そうして残ったのは無様に倒れた僕達三人と、娘を守れなかった夫婦の二人だけだった。
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怪鳥が去った村長の家の前。僕達と村長夫妻はお互いに起き上がり今後について話そうとした、が。
「娘を助けてください!」
ナーパさんは顔を地面に擦り付けて懇願している。
「ナーパさん、顔を上げてください」
「頼れるのはあなた方だけなのです。この通り!」
必死の懇願。娘が魔物に攫われたのだ。こうなるのは当然だろう。
さて、二人の様子は。
「…………やるぞ」
ライングは既に決意が決まっている。
当たり前か。ライングは困っている人は絶対に放って置けないヤツなのだから。
「何であの怪鳥は彼女を…………」
シオンはケーアちゃんを攫った魔物について疑問があるようだ。
さて、僕はというと本音を言えばあの怪鳥と戦うのは避けたい。残念なことに僕達ではあの怪鳥を倒すのは至難の業だろう。それ故に断るという選択肢が頭を過ぎる。
だけど……。
「もちろん助けに行きますよ。ナーパさん達には変えがたい恩がありますからね」
一宿一飯の恩。さすがに恩を仇で返すのは僕の心情に逆らうものだ。
それに、このままケーアちゃんを見捨てて帰ってしまっては寝覚めが悪すぎる。
「あ、ありがとうございます! あの魔物は北東の方向に飛んで行ったそうです!」
「よし、やるとなったらすぐにでも━━」
「待て待て待て待て」
飛び出そうとしたライングの襟首を掴み引き止める。
「まずは作戦を立てよう」
さすがに無策で行くわけにはいかない。ある程度の作戦を立てなければ先程の二の舞になるのは明らかだ。
「ナーパさん、北東には何がありますか?」
「北東には浅い沼地があるぐらいです。他は特にありません」
沼地か。足場が悪いが何かに利用できないだろうか。
「シオン、地魔法と風魔法の調子は?」
「土地の相性のこと? 両方とも好調よ」
「ライング、怪我とかは大丈夫?」
「何の問題も無い!」
ふむ、なら作戦はこうかな。
「ライングはあの怪鳥を引きつけてくれ、攻撃を与えることでは無く、意識させることに注力してくれ」
「わかった!」
元気いっぱいに返事をするライング。彼の能力は一騎当千。一人でもあの怪鳥に遅れを取ることは無いだろう。
「シオンはあの怪鳥を魔法で叩き落とす。この前の戦闘試験で見せた魔法があったよね」
「スフィアウィンド?」
「そう。あれをもっと大きくして怪鳥の真上で放つ」
戦う上で何より大変なのは怪鳥は空を飛べることだ。
まずはそこから何とかしなければ始まらない。
「結構無茶な注文をするわね」
「頼むよ。僕はシオンの護衛をする」
さて、大まかだが、作戦は決まった。行き当たりばったりだが、やることがあるのと無いのとではかなり違う。
「それでは、ナーパさん達は村の魔物の対処をお願いします」
「お気をつけて」
そうして僕達はナーパさんとリールさんに見送られ、北東にある湿地へ向かった。
さて、そこでは何が待ち受けているのか。僕にもわからない。




