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第50話 黄昏の村

    ✳︎


 依頼を受け、アローグン王国から出発して二日。大きな山では魔物の群れに追われ、湿地帯では底無し沼に嵌り死にかけた。


 そして日も傾き始めた時間帯、三人はゆっくりと歩を進めている。


 幸いにも湿地帯を抜けてから魔物と遭遇することが無かったがそれでもかなりの疲労が蓄積されていた。


「はぁ、疲れたぜ……」

「だから迂回しようと言ったのに……」

「沼を越えれば早く着くと思ったからさ……」

「うん? 二人とも、あれ!」


 へとへとになりながら顔を上げると、視線の先には複数の家や畑が見え、人の気配もある。目的地の村が夕陽に照らされていた。


「おお! ようやく着いたな!」

「早く行こう!」


 そうして僕とライングは村に向けて一目散に走り始めた。


「…………はぁ、相変わらずね」






    ✳︎


 湿地帯から近い場所にある村には川があり、水田が拓かれており、稲やレンコンが育てられ、ゆったりとした景色を形成していた。


「あれ?」


 そして村の雰囲気はのどかそのものだった。夕方の時間帯というのもあり、村人達は夕食の準備に忙しそうだったが、とても魔物に困っている様子とは思えない。


「あれぇ?」

「平和だね」

「…………」


 村の様子に僕達は首を傾けるしかなかった。

 さすがに状況がわからないので村の人に話を聞きたい。

 そんな時、野菜を担いで歩いている村の人が通りかかった。


「すみません!」

「おや、旅の人達ですか」

「僕達、依頼を受けてアローグン王国から来たのですが……」


 依頼と聞いて村の人は少し考え込んだ後、何かを思い出したようだ。


「あっ、あの事か!」

「??」

「あ、ごめんね。そうだなぁ……私が説明するよりも村長に聞いた方が早いと思うよ。村長の家に案内しようか?」

「「お願いします!」」


 村の人の提案に僕とライングは二つ返事で応えた。

 話を聞きたいというのもあるが、道中で色々ありすぎて疲れたというのが大きい。


「それじゃあ着いてきて」


 そうして村の人の案内で村長の家に向かった。


「これ………………」

「シオン! 早く来いよ!」

「うん、わかった」


 ライングの声を聞き、何か考え込んでいたシオンは慌てた様子で銀色の髪を揺らしながら着いて行った。





 

    ✳︎


 のどかな村と水田を通り抜け村長の家に到着した。


 村長の家は二階建ての大きな建物で、家の周りには大きな木で作られたテーブルとイス。そして大きな畑があり、キャベツやにんじんなどの作物が栽培されていた。

 

「それじゃあ私はこれでね」

「はい、ありがとうございます」

「助かったぜ!」


 村の人に礼を言い村長の家の前に立ち、扉をノックした。

 そうして扉は十秒もしないうちに開かれた。

 

「…………あなたたちだぁれ?」


 扉の先に居たのは短めの褐色肌で緑色の髪をした小さな女の子だった。


 女の子は扉の影に隠れながら僕達を覗いている。


「俺達は依頼を受けて来た冒険者の青い空(ブルースカイ)だ!」

「…………え、えっとぉ」


 ライングの大きな声に女の子はビクッとしてしまう。疲れてても元気なやつだよ。

 そんな女の子の様子を見てシオンが間に入る。


「あの、村長さんを呼んで貰えるかしら?」

「…………あ、うん」


 女の子は扉を閉めて村長を呼びに行った。

 そうして再び扉は開かれ女の子と同じ褐色肌の少々小太りの男性が現れる。


「お待たせしてすみませんな。私が村長ですが何かありましたかな?」

「私たちはアローグン王国から依頼を受けてこちらに参った冒険者です。依頼について聞かせてもらってもよろしいですか?」

「依頼……あぁ、魔物の討伐の依頼でしたな。とりあえず中で説明しましょうか。さ、どうぞ」


 村長は扉を全開にして僕達を家に招いてくれた。


「とりあえずは応接室に案内しましょうか」


 そうして応接室に移動する。


「じー…………」


 移動する間。女の子の鋭い視線が僕達三人の背中を射抜いていた。

 

 応接室はテーブルと椅子が置いてあるシンプルな部屋だった。村長と僕達はそれぞれ席に座り、お互いに見合う。


「私はナーパ。この村の村長をしております」

「俺はライング! よろしくお願いします!」

「私はシオンと言います」

「サミーです。よろしくお願いします」


 それぞれ軽く挨拶を交わし、早速本題について話を始める。


「それで、あなた方は魔物討伐の依頼を受けてここに訪れたということですかな?」


 村長……ナーパさんは手を組みながら訪ねる。

 

「はい。しかし村の様子を見ているととても魔物に困っているという印象は受けませんでした」

「ふむ、そのことですがな…………魔物についてはもう大丈夫なんです」

「「「え?」」」


 ナーパの答えに僕達三人の声が重なった。

 どういうことだ、魔物についてはもう大丈夫とは?


「実は村の者達で魔物を追い払ったのですよ。それで既に解決したと冒険者ギルドに報告したのですが…………、この村の場所が場所だけに報告が遅れてしまってようですな」

「…………」


 その言葉に僕はテーブルの上で項垂れてしまった。


 つまり山の中で魔物の群れから必死に逃げたのも、湿地帯で底なし沼に嵌まったライングを全力で助けてへとへとになったのも、完全に無駄足だったということか。


 さすがにこのオチは無いだろうと思わずテーブルに膝を付き頭を抱えた。


「まあまあ! もう解決したなら良いじゃないか!」


 慰めるライングの元気な声が虚しく響く。

 確かに既に解決したのは喜ばしいことだ。しかし帰るために再びあの湿地帯と山を抜けるということが憂鬱なのだ。

 疲労の溜まった現在の状態でそれがやれるとは思えない。


 そんな時、ナーパさんが心配そうに声をかける。


「あの、皆さんお疲れ様のようですし今夜は私の家でお泊まりになりませんか?」


 ナーパさんの提案。疲労が溜まり今にも倒れそうな僕達にとってそれはとてもありがたかった。


 そうして僕達はナーパさんのご厚意に甘えることにしたのだった。






    ✳︎


「いやぁ、夕食まで食べれるとはな!」

「あんまり食べすぎるなよ」

「わかってるって!」


 今日、泊めてもらうことになった僕達も夕食をご馳走させてもらうことになり家の外にあるイスに座りながら待っていた。


「じー…………」

「あ、ははは……」


 外には僕とライングとシオン、そして先程の女の子の四人。

 女の子の視線は未だに警戒を示しており空気が緊張している。


「皆さん、お待たせしました」

「ごはんができましたよ〜」


 ナーパさんと緑色の髪をした朗らかな雰囲気の女性が大皿を持ちながら家から出てきた。


 二人はテーブルの上に大皿を置いてイスに座った。


「紹介させてください。彼女はリール。私の妻です」

「はじめまして、リールです。皆さんに会えて嬉しいわ〜」


 リールさんは笑顔で手を振った。

 第一印象だがいつも笑顔の綺麗で優しそうな女性だ。


「そしてこの子はケーア。私達の大切な子供です」

「…………あい」


 ケーアちゃんはぺこりとおじぎをした。

 先程と違い緊張を感じない。どうやら見知らぬ僕達が怖かったのだろう、今は父と母がいるので安心しているということか。


「あ、失礼、食事の前に祈りをさせていただきます」


 すると三人は両手を前に出し、指で円を作り手を横で合わせ一つ礼をした。


「儀式の神よ、本日の恵みをいただきます」

「「儀式の神よ、本日の恵みをいただきます」」


 ナーパさんの言葉に続いてリールさんとケーアちゃんが言葉を発する。


 そして合わせた手を戻すように再び指で円を作り構えを解いた。

 

「さて、それではいただきましょう」

「あ、はい」


 そうして小皿が配られ、みんな思い思いの料理を取っていく。

 まずはレンコンとナスを焼いたものを食べてみる。


「あーん………… ッ!」


 美味しい。固いと思っていたレンコンだが、焼く前に茹でたのかしっかりと中まで柔らかく仕上がっている。


 ナスも柔らかく中まで火が通り、なおかつ少しだけある焼き揚げのサクッとした食感があり食べ応えがある。


 塩とバジルで味付けされ素朴ながら素材を活かした味。しかし土臭い匂いが一切しないのでいくらでも食べられる。


「美味しいです……!」

「すげえ美味い! こりゃあバクバク食べれる!」

「本当? 旅の人に言われたの始めてだから嬉しいわ〜」


 アローグン王国の料理も美味しいが、いかんせん大衆酒場の料理ということでどうしても濃い味付けになっていた。

 それに慣れてしまった僕達にとってこの素朴な味付けが舌にとても刺さる。

 

「沢山あるからいっぱい食べてね〜」

「ほら、ケーアも食べような。食べないと大きくなれないぞー」

「…………うん」


 そうして僕とライングはナーパさんの家族の団欒に混じりつつとても美味しい食事に舌鼓を打ったのだった。


「…………」


 シオンは食事中に料理を凝視しながらも何やら考えごとをしていた。


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星空を見上げれば〜私達は星々の夢を見る〜 短編の近未来ファンタジー百合小説です。 本作品と併せてお読みいただけると嬉しいです。
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