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ブルーコリーハート〜異世界転生した僕の青い物語〜  作者: ジョン・ヤマト
幕間 魔法使い達はしくしくと酒場で項垂れる
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第48話 魔法使い達はしくしくと酒場で項垂れる

     *


「………………」

「………………」

「…………終わり」


 狭い洞窟に少女の高い声が響くと同時に最後の魔物が倒れる。


 この場に立っているのはライング、シオン、ケーアの三人。そして彼らの周りには魔物の群れが倒れ伏し息絶えていた。


 異常発生した魔物の討伐。その任務を終えた三人は一度も言葉を開くことなく帰路に着くのだった


 依頼を難なく達成したというのに、歓喜を浮かべるのでもなく、疲労を漂わせるでもなく、まるで人形のような顔でこの場を後した。


 あの依頼を受け大切な仲間(サミー)を失った日から一週間後の出来事だった。



    *


 物流国『ルートデイ』はその名の通り物流の中心地だ。


 それ故に様々な人間がこの国を出入りする、商人、狩人、漁師、芸術家、国の重鎮、そして冒険者。


 そしてそれらの人間に合った場所が区画され、それぞれの場所でその日を過ごしている。


 ここは冒険者区画にある酒場。冒険者ギルドに併設された酒場には今日も老若男女様々な人間が酒を求めて訪れていた。


 そこに現れる二人の女性。一人は長い銀髪と質の高い魔法衣に身を包んだ魔法使い。もう一人は褐色肌に緑色の髪にローブを羽織る幼い体躯をした少女。


「おう聞いたか? 青い空(ブルースカイ)について……」「聞いた聞いた、メンバーが一人おっ死んだらしい」「噂によるとメンバーの一人が…………」


 シオンとケーアは周りの言葉を無視し酒場のカウンターに腰掛けお酒とミルクを注文した。


 二人の表情は一言で言えば『焦燥』。どこか追い詰められ焦っている様子だった。


「…………ライングは?」

「依頼が終わってすぐに部屋に篭ったわ。まだあのことがショックみたい」

「…………そう」


 サミーがいなくなってからこのパーティーは変わってしまった。ライングはいつも明るくみんなを食事に誘っていたのに依頼が終わるとすぐ自分の部屋に戻り何か考え事をしており、ケーアも普段から少ない言葉が更に少なくなった。


 私だって例外じゃない。彼と酒場で交わしたあの時の感触が頭から離れなくなっていた。やけ酒をして赤くなった顔、自分をいらないと涙目になりながら語る眼、何より乾杯を交わした時の嬉しそうな顔。


 私の中の感情がまるで仕組まれたかのように動かされていた。


「おう、青い空(ブルースカイ)の姉ちゃん達。いつもの野郎二人はどうしたんだ?」


 そんなお酒を飲みながら考えていた時、背後から背丈の大きな男性が話しかけて来た。

 彼は私とケーアを見て鼻の下を伸ばしながらニヤニヤと笑っている、


「なんだ? 野郎共がいなくて寂しそうじゃねえか。なんなら俺が楽しませてやろうか? ガハハ!!」

「…………きえて」


 男の無礼な言動にケーアが怒りの声を露わにした。


 だが男は更に気持ち悪い笑みを増しながら鼻の下を伸ばしている。


「お? 俺が消えなかったらどうするんだ? 気になるな〜」

「…………"…………"」


 ケーアはぶつぶつと何かを呟いた後、すぐに男から視線を外しミルクを飲んだ。

 直後、男の様子が豹変した。


「お、なんだよ、存外に素直じゃねぇか〜。外でやるのか? へへへこいつは楽しみだぜ〜」


 そう虚空に語りかけながら最後までニヤニヤと汚い笑みを浮かべながら男は酒場から去って行った。おそらく彼は朝になった時、後悔することになるだろう。


 …………男を同情する気は毛頭ないが、少しだけ哀れに思う。


「ケーア、あまり乱用しないでね」

「…………わかってる。ちゃんと手加減はした」


 そう言う彼女は気にも留めずにミルクを飲み続けた。

 私も酒を飲んだ。子供の頃とは違って酒にはそれなりに耐性が出来たがやっぱり一杯飲むだけで酔いが回ってくる。


「…………彼、どこにいるのかな」

「わからない。けど、生きてると思うわ」


 あの巨大オオカミからサミーを置いて逃げた後、体制を整えた私達は再びあの東の洞窟へ赴いた。


 目的は無論サミーを助けるため。しかし再びあの洞窟の奥に来た時にはすでに戦闘が終わった後だった。


 戦闘の苛烈さを物語る壁の凹み。砕け散り使い物にならなくなったサミーの盾。そして輝くこと無くそこに置いてあった青白い石。


 しかしその場にはサミーの姿も巨大オオカミの姿も無くなっていた。

 

「もしかしたら彼は生きているかもしれない」


 そんな淡い希望を与えられた私達は彼の捜索を行なった。人を訪ね、聞き込みをし、彼の消息を追った。


 しかしそこからは誰かが仕組んだかのような出来事の連続だった。


「…………ローランドはどうだったの?」

「ダメだった。会ってすらくれなかったわ」


 唯一サミーの手掛かりを知ってそうなのは情報屋の『ローランド』だった。


 私とライングが『ローランド』の利用してる酒場を訪ねてサミーについての情報を買おうとしたが()()はサミーの分を除いたあの依頼の報酬がカウンターに置かれていただけ。その後も毎日訪ねたけど神出鬼没の情報屋は会ってすらくれなかった。


「別の区画で探したけどローランドらしき人物は見つけられなかったわ。ケーアはどうだった?」

「…………だめ。彼を見た人はいなかった」


 もしかしたら別の街に行ってしまったのかもしれない。そう思ったケーアは『ルートデイ』から一番近い『ヨア村』に聞き込みをしたが、残念ながら収穫は無かった。


「…………エンジュっていう村の薬屋さんが何か心当たりありそうだったけど、全然教えてくれなかった」

「エンジュ……?」


 エンジュ。

 その名前に思わず過去に読んだ書物の記述を思い出した。確か由緒正しい薬術師の一族で代々受け継がれる名前だったはず。まあこれはサミーには関係ない話だ。


「ローランドは会ってくれず、聞き込みの成果も無かった。もう彼の姿を追うのは難しくなったわ」

「…………やっぱりあたしのせいなのかな。あたしが彼にパーティーを辞めるように言ったから彼は…………」


 そう言ってケーアは顔を俯かせ、眼を細める。緑色の髪がしゅんと垂れ下がった。


「違うわ。サミーはケーアのことに怒ってはいなかったわ」

「…………そうかな?」

「ええ、彼が言ってたわ。『ケーアについては別に気にしてない』ってね」


 そう言いながら俯くケーアの背中をゆっくり摩った。


 ケーアはまだ十一歳の子供、まだ言葉を上手に伝えられない年頃だ。


 サミー達のことを思って言ったあの『パーティーの成長を妨げている』という言葉も彼女なりに精一杯考えて捻り出した言葉だ。それに関してはあの時のサミーは許していた。


「…………でもあたし、彼に謝りたい。このまま謝れなくてお別れなんて嫌だ」

「………………そうね」


 そうして私とケーアの夜は過ぎて━━。


「おい、魔王が復活したようだぞ!!」「マジか!?」「本当だ! 各地の魔物の異常成長は魔王が復活したからだそうだぞ!」


 酒場に響く『魔王復活』の文言。そして途端に沸き立つ店内に思わずため息が出てしまう。


 魔王というのはおよそ百年ほど前に存在し世界を脅かした生き物だ。


 しかし魔王を記した文献が残っておらずその正体は謎に包まれており、巨大な獣だったとか、とてつもない力を持った人間だったなど様々な憶測が飛び交っている存在だ。


「はあ…………」

「…………変な話をしてるね」


 ケーアもその光景に思わず呆れた態度を示す。

 確かに最近は魔物の異常が多い。身体が巨大になったり、数が急激に増えたりして、近辺の村の安全を脅かしている。それらを考えると『魔王復活』という言葉に逃げたくなる気持ちもわからなくはない。


 しかし魔王はすでに『四人の勇者』に打ち倒され、二度と蘇らないように封印されたという。それが何故今になって復活するというんだ。


「うるさくなったわね。ケーア、もう行こうか」

「…………うん」


 そう言って私とケーアは冒険者ギルドの酒場を出て宿屋の部屋に戻った。






    *


 部屋に戻った私はベッドに腰掛け、またため息を吐いた。

 

「はあ、サミー貴方はどこにいるの?」


 決して返ってこないであろう問い。しかしその問いの返事のような音が鳴り響いた。


 ━━━━コン コン コン


 それは部屋の扉から聞こえた。

 誰かが訪ねて来たようだ。


「扉は開いてるわ。入ってきて」


 そうして扉が開かれ訪ねて来た人物が入って来た。


 それは燃えるような水色の瞳に金色の短い髪の私達『青い空(ブルースカイ)』のリーダー。ライングだった。


 彼は少し落ち込んだ様子で私を見ている。


「シオン。話があるんだがいいか?」

「えぇ、大丈夫よ」


 そうして彼をイスに座らせお互いに向かい合った。


「あーと、えーっと」

「…………」


 彼は出だしの言葉に頭を悩ませている。そしてしばらく唸った後、意を決して口を開いた。


「俺さ…………魔王を倒したいんだ」

「…………え?」


 その唐突な言葉に思わず開いた口が塞がらなくなってしまった。


「俺さ…………サミーの思いを受け継ぐために魔王を倒したいんだ!」

「ちょ、ちょっと待って」


 まさかライングもあの荒唐無稽な噂話を間に受けてしまったのか。

 それにしても『サミーの思いを受け継ぐ』とは一体どういうことだ。


「もう少しわかりやすく説明して。サミーの思いを受け継ぐってどういうこと?」

「あの後からずっと考えてたんだ。『サミーがいなくなった俺たちがやるべき事ってなんだろう』って。それで思い出したんだよ。俺たちの夢は『最強のパーティーになる』って。それで『魔王を倒せば最強になれる』んじゃないかなと思ってさ」


 つまり子供の頃立てた夢の実現のために魔王を討伐すると。そして夢を実現することがサミーの思いを受け継ぐことになるんじゃないかと。


「いいライング。魔王は六百年前すでに討伐されたのよ。もういない魔王をどうやって見つけるの?」

「いや…………なんとなくわかるんだ。サミーがいなくなったあの日からまるで魔王のようなおぞましい気配が辺りを漂っているんだ」

 

 わからない。ライングの言っていることが何もわからない。

 魔王の気配とやらがあったとして具体的にどうするんだろうか。


「それで、魔王を倒すためにどうするの?」

「まずは武器からだ! 強い武器を探しにいく!」


 そう水色の眼を輝かせながら言い放つライングの表情は本気だ。

 本気で魔王を討伐し、死んだかもしれないサミーの思いを受け継ぐつもりなのだ。


 …………おそらくだけど、これがサミーを失った悲しみを埋めるために彼が必死に考えた結果なのだろう。これを私は否定できないし、するつもりもない。ただ。


「あの時のサミーの覚悟を無駄にしないためにも頑張ろう!」

「………………えぇ」


 私もライングと同類なのだろう。


 いつまで経っても彼との最後の一夜の記憶が忘れられないのだから。いつまでも過去の思い出に縋っているのだから。


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星空を見上げれば〜私達は星々の夢を見る〜 短編の近未来ファンタジー百合小説です。 本作品と併せてお読みいただけると嬉しいです。
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