第33話 路地裏の喧騒
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管理組合を後にして僕と彼女は裏路地をゆっくりと歩いていた。
「これからどうするのですか? このままでは船に乗れません」
「こことは違う管理組合を尋ねても良いんだけど……」
あまり人目に触れるのは控えたいのが本音だ。そのためにわざわざこんな吹き溜まりにまで足を運んだのだ。
僕が生きているのをライング達に知られれば、いやこの考えはやめておこう。
「とはいえ背に腹は変えられないか。…………おや?」
裏路地で歩いている僕達の周りで、ふと人の気配が増えていく。
一人、二人と増え続け、最終的には六人の男が僕達の前に現れた。
その手にはナイフや鉄パイプが握られており、僕達を見ながら舌なめずりをしている。
「…………何か?」
「ほお、ここまで来てまだ気づかないか? 簡単さ、テメェの持ってる物を全部ここに置いてけ。断るってんなら…………わかるよなぁ?」
まあここはろくでなし共の集まる場所。この状況もある程度覚悟していた。
とはいえ、あまり目立つこともしたくない。
「残念だけど、金目の物は持っていませんよ」
「ならテメェの後ろにいる嬢ちゃんは? 良い服着てるじゃねえか」
「いや、これは銀貨三枚で買った物ですよ。金目の物とは言い難い」
「屁理屈こねて誤魔化すんじゃねぇ!」
男は大声を上げて突っ込んで来る。
そして間合いに入るとそのまま鉄パイプを振り下ろす。が。
━━キンッ!
剣を抜きその攻撃を受け止めた。
強い一撃だが、リザードマンや巨大オオカミの攻撃と比べると遥かに軽い。
「チッ! 少しはやるようだが…………。おい!」
合図と共にもう一人の男が彼女を捕まえようと手を伸ばした。
「…………ッ!」
鉄パイプとかち合っていた剣を手放しながら急いで彼女の身体を持ち上げ、彼女の捕まえようとした手は空を掴んだ。
「へへへ、武器を落とすとはマヌケなヤツだ」
男はカランと落ちた剣を広い、鉄パイプとは逆の手に持った。
そして捕まりそうになった彼女は不安が溢れそうな眼をしていた。
「安心して。僕が守るって言ったでしょ」
「サミー…………」
彼女を地面に下ろし、男達を見回す。
(数は六人。武器は鉄パイプとナイフ。そして最初に話しかけてきた男がおそらくここのリーダー)
ゆっくりと見回している僕にリーダーの男は痺れを切らしたように叫ぶ。
「ヤツは丸腰だ! フクロにしちまいな!」
その号令と共に五人の男が武器を構えて一斉に突っ込む。
さて、予行演習にはちょうど良い相手だろう。
「"水よ、飛ばして弾けろ"」
右手を男達に向けながら詠唱をする。
男達はそんな僕を気にも止めずに一直線に突っ込んでくる
「バァン!」
その声と共に大きな水の塊が勢いよく放たれた。
「ぐわぁ!」
サッカーボールほどの水の塊が一人に当たる、すると水の塊が一気に弾け水飛沫と共に大きな衝撃が放たれ、周りにいる男達をまとめて吹き飛ばした。
「「「「ぐぎゃぁ!!」」」」
吹き飛ばされた五人の男は全員が裏路地の壁にぶつかり気を失った。
頭を強くぶつけ、水に濡れたが外傷は特に無い。うん、理想的だ。
「は? え、は?」
残るはリーダーの男一人。リーダーの男は一瞬の出来事に戸惑うしかなかった。
そんなリーダーへと近づいて行く。
「バ、バケモン……」
「いやいや、これぐらいの魔法を使える人は結構いるよ」
そう言って一歩、また一歩と迫り、最終的に壁に追い込んだ。
そして壁にもたれ込んだリーダーに向けて右手を差し出す。
「猛き水よ、激流を以て反する者を撃ち流せ」
「ひ、ひぃぃ〜」
「ダイルフォール!!」
右手に力を込めて拳を振り下ろす。
その一撃は一瞬で男に向かい━━━━そして顔の直前で止まった。
「ひ……ひぃ……」
「……ちょっと脅しすぎたかな?」
リーダーの男は地面にへたり込みながらか細い声を上げていた。男からちょっとだけ変な臭いがするが、これに関しては別にどうでもいい。
「これに懲りたら、無闇矢鱈に喧嘩を吹っ掛けないようにね」
そう言って男が持っていた剣を取り返し鞘に納めた。
「…………うん」
拳を握って、離す。
魔法を撃った時の感触。イメージ通りの魔法の形。そして身体に流れる魔力の流れがしっかりと感じている。
確かに僕は強くなっている。そしてあの神様が与えてくれた力を改めて実感した。
「大丈夫だった?」
「はい。見事な一撃、さすがでした」
「あぁ、神様のおかげだ」
さて、これ以上ここにいても面倒事しか起こらない。早くこの場を去ろうか。と、考えていると。
━━パチ、パチ、パチ、パチ。
そんな時、狭い路地裏に拍手の音が響く。
新手の敵か。鞘に手をかけて警戒する。
「まあ待ってくれ。アタイは敵じゃあない」
路地の奥、暗い道の向こうから声が聞こえて来る。
そしてカツ、カツと靴の音が近づき声の主が現れる。
「初めましてサミー、アタイは『バラ』って言うもんだ。ちょいと仕事を手伝って貰えないかい?」
青と白の横縞の服に紺色のバンダナを頭に巻き、細長い綺麗な脚を覗かせている女が笑みを浮かべながら現れた。
「アンタら渡りが目的だろう? なら腰を据えて話しを聞いてくれないか」
「なんで僕の名前と目的を知っている?」
「それもまとめて話すからさぁ。そんなピリピリすんなさ」
掴みどころの無い飄々とした態度、まるで図ったかのようなタイミング、僕の名前を知っていること。全てが怪しい。
この女を信用しても良いのか。緊張で空気が張り詰めようとした時。
ぐぅ〜〜〜
この場には似つかわしくない音が鳴り響いた。それも僕の背後から。
「ご、ごめんなさい」
「いや…………」
音の発生源の少女は青白い髪をしゅんとさせながら頭を下げた。
そんな少女を見て、バラと名乗る女は大声で笑い出した。
「ハッハッハッ!! 嬢ちゃん、お腹空いたのかい? まあもう夜になるからな。サミーよ、まずはメシはどうだい? 奢るよ」
「………………」
どうにも張り詰めた緊張が腹の虫の音で途切れてしまった。
まあ仕方ないか、ここはあえて乗っかるとしよう。
「わかった。だが不審な真似はするなよ」
「わーってるよ。じゃあ行こうか!」
そうしてバラは路地を出ようとした。が、ふと壁の方で気絶している男達の方へ顔を向けた。
「アンタら! いつまで寝てるんだい! さっさと行くよ!」
「へ、へい! バラの姉御!!」
バラの大きな声と同時に気絶していた男達は飛び起きて、路地を出る彼女に続いて行った。
あの男達は彼女の差し金だったのか。
「サミー、行きましょう。美味しいごはんが待っています」
「う、うん」
腹を空かせた少女に手を引っ張られながら僕達も暗い路地裏を後にした。
日が傾きオレンジ色になり始めた時間の出来事だった。




