第30話 拙い朝
懐かしい夢と共に、新たな旅立ちの幕が開ける。
そこには一体どんな出会いがあるのだろうか。
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「サミー! 起きろ!」
「サミー、もう夕方よ」
朧げな景色の中、二人の親友の顔が目に映る。身体を起こして辺りを見渡すと緑色の平原とオレンジ色の夕陽が僕の覚醒を出迎えていた。
「さすがにやりすぎた! 悪い!」
「いくらなんでも本気でやりすぎよ。サミーもぐったりしてたじゃない」
両手を合わせて謝罪をする男の子に、ため息を吐きながら注意をする女の子。その顔を、光景を僕は知っている。
うん、大丈夫だよ。
「そうか? ならよかった!」
「サミーも無理しないでね。さ、村に帰りましょう」
僕達三人は立ち上がり夕陽の先にある村へ向かって歩き始めると、冷たく涼しい風が僕達の横を通り過ぎた。
気持ちいい風だね。
「だよな! この風とシオンの家のパンが特訓の後の楽しみだぜ!」
「パパのパンは村一番だからね」
そうしてたわいのない話をしながら僕達は夕陽に向かって歩いて行った。
大切な思い出。そしてもう二度と手に入らない思い出だった。
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「…………」
目を覚ますと見知らぬ天井が目に入った。
あくびをしながらベッドから起きあがろうとするが右腕が重い。一体何だろうか。
「すー、すー」
そこにはお母さんの面影のある水色の髪の少女が僕の腕を抱き枕がわりにしながら気持ち良さそうな寝息を立ていた。
別々のベッドで寝ていたはずなのにどうしてこうなっているのか。
「おーい、起きてくれ」
「うーん、むにゃ」
右腕を左右に動かしながら声をかけると彼女は目を覚ました。
眼はまだ半開きで朧げな様子だが、話はできるだろう。
「どうして僕のベッドにいるの?」
「えーと、抱き心地のいい物を探してたらいつのまにかこうなってました」
「…………」
まだ彼女は幼いからこういうのも仕方ないのだろう。そう自分を納得させた。
「わかった。とりあえず起きようか」
「はい。わかりました」
そう言って彼女は長い髪を揺らしベッドから飛び降りた。着地を成功させた彼女は得意満面の顔だ。
「どうですか?」
「うん……まあすごいね」
そうして僕達の朝は過ぎていった。
あの運命的な出来事から十四時間後の出来事だった。
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「周りの声がとても大きいです」
「初めて来たがすごい活気だ……」
ここはルートデイから南東に位置している『ヨア村』という場所だ。
村と呼称されてはいるがこの村のでは農業は特にやっていない。この村の主な収入源は宿泊業だ。
この村は言ってしまえば中間地点だ。ここから更に南東ににある港街とルートデイの中間に位置するこの村は補給や休憩をするのにちょうど良く、それでいて宿代もルートデイに比べれば安価なのだ。
故にこの宿場町は宿屋を利用する商人が多く、その影響で露店も充実しており、村と言うにはかなりの賑わいを見せているのだ。
そんな早朝のヨア村の大通りを僕と彼女は歩いていた。
「それでサミー。何故わたしたちはこの道を歩いているのですか?」
「あぁ、それはね。君の服と靴を調達するためだよ」
「ふく? くつ?」
「うん」
真っ白なワンピースに裸足、いや、昨日僕が適当な魔物の皮で作った靴。今の彼女の服装はこの世界ではかなり目立つ、というか今もすれ違う人からチラチラと見られている。
今の僕が目立つとマズい。だからこれ以上目立たないために彼女の服を買うために今この大通りを歩いているのだ。
とはいえ、生まれてから十八年間ずっと田舎の村で暮らしてきた僕にとって、服を売っている店を探すのにも一苦労だ。
「とりあえず歩き回るしか無いか…………」
そうして一時間ほど一通り歩き探し回った、が。
「見つからない…………」
大通りを歩いてもそれらしき露店は一切無かった。まさか服屋を探すのがここまで大変だったとは。
一体どうすればいいんだろう、そう迷っていると一緒に歩いていた彼女が口を開いた。
「探し物があるなら人に聴いてみては?」
「あ……」
そう言って彼女は近くで歩いていた人にトコトコと近づき声をかけた。
「すみません」
「あん?」
「え……」
彼女が話しかけた人物。2メートル近い身長に筋骨隆々と言えるほどの巨体。そしてその服装は茶色のバスローブのようなものに、紫色のファーを首元に巻いた男性だった。
さすがに世間に疎い僕でもわかる。あれは話しかけてはいけない類いの人物だと。
「近くに服と靴があるお店はありますか?」
そんな僕の胸中は露知らず、彼女は一切の躊躇い無く要件を尋ねた。一方話しかけられた人物は。
「あら〜可愛い娘ね! あなたみたいな娘に話しかけられてお姉さん、感・激♡」
甘ったるいほどの猫撫で声で応えたのだった。




