護りたい気持ち
リアムは、魔物から30メートルほど離れた場所へ弾き飛ばされていた。
「殿下!!」
アリーチェは、リアムの方へ駆け寄る。
「〈トランスパレント〉」
アリーチェが、魔法で囲ったものを外から見えなくする魔法を駆けながら使い、光の壁がアリーチェとリアムの周りに現れた。
「消えたです!」
「トランスパレントだぞ。」
囲われた2人は、魔物はもちろん、咥えられている2人や、いつの間にか草むらの陰に隠れていた、カーソンやジェフの視界からも消えている。
「殿下、大丈夫ですか?」
アリーチェはリアムの上半身を優しく起こし、片腕で支える。
大きな音は相手に聞こえてしまうので、必然的に耳へ囁く形になってしまった。
「……あ、うん。咄嗟に防御魔法を張ったから、多少は。」
リアムはバッと起き上がり、服の裾を正す。
そして一息ついた後、自分たちを血眼になって探す巨大な獣を見据える。
「それより、あいつをどうにかしないとね。」
「そ、そうですね。」
(意外と元気そうで良かった……?)
「魔力はどれくらい残ってる?」
「うーんと、魔力の総量があまり多くないので、もう尽きかけてますね……」
「そう……。」
リアムは片手を顎の下に当てて考えをめぐらせている。
「じゃあ、君はこのままここに隠れていて。」
「えっ」
「僕が何とかするから。」
「ちょっ……」
リアムはつかつかと歩き、壁から抜け出そうとする。だが、2歩ほど進んだところで顔を歪め、肩を押さえながら片膝を地面についてしまった。
「リアム殿下!」
「……魔法を使うのに支障はないから。」
よろよろと立ち上がるリアム。額には汗が浮かんでいる。
「殿下は休んでてください! 私がどうにかするので!」
「でも――」
「グウウウ……」
後ろから聞こえた声に、2人は振り返る。
「ばれたわ!」
「くっ……」
どうやら声が大きかったようで、獅子が唸りながら2人をギロリと睨んでいる。今にも飛びかかってきそうだ。
「避けられますか!?」
「大丈夫だ」
「ガァァアアアアアッ!!」
爪をギラつかせながら迫ってくる魔物を、アリーチェは軽やかに身を転がしてかわす。
リアムは肩を庇いながら飛び、すんでのところで回避した。
「2人とも、心が離れていってるです!! こいつのせいで力は使えなくて見えないけど、あたしにはわかるです!」
「アリーチェ、さっき言ったこと思い出すんだぞ」
(さっき……? あ、相手の立場……!)
「殿下! わたしは仲間が苦しんでいるのに、自分だけ高みの見物なんてしたくないです! 殿下は、どうですか?」
大声で叫ぶアリーチェは、振りかざされる魔物の爪を、何度も後ろに飛んでかわしている。
「僕は……。」
リアムは俯き、言葉に詰まるが、その目は一点を見つめていた。
「……わたしたち、お互いに護ろうとしてたんじゃないですか?」
リアムがはっと顔をあげる。
アリーチェはリアムの目を真っ直ぐ見て、彼の方へ駆け出す。
「お互いに、余計なお世話してたんですね」
途中、アリーチェに魔物が攻撃を何度も仕掛けてきたが、全て前へ転がるようにかわしていった。
「……そうかも?」
リアムはおどけたように微笑む。
「――リアム殿下!」
アリーチェはリアムの前できゅっと止まる。
交わる視線からは、お互いの意思が伝わってきた。
「……どうやって倒す?」
「そうですね……」
(地下牢のときは、何をしたらいいか考えなくてもわかったんだけど……)
今のところ、アリーチェに特別なことは何もない。
「何かヒントになるもの……」
(騎士、剣……聖女、魔法……呪文……勉強……あ!)
「わかった! マイナスとマイナスは、かければプラスだわ!」
「……マイナス?」
いぶかしげな目を向けるリアムに、アリーチェは頷く。
「破滅の魔法で無効化を破壊しましょう!」
「そんなことが……できるの?」
「わかりません……でも、やってみるしかないかと。」
何度も攻撃を続けていた魔物が体制を整えている今こそが、アリーチェが作り出した反撃のチャンスだ。
「……そうだね。今は、どんな可能性にも賭けてみるしかない。」
リアムは魔物の方を向き、バッと片腕を前に突き出し、小さく息を吸う。
「〈テリフィック·インヴァリッド〉!!」
リアムから、雷雲のような暗黒色の魔法が放たれる。
「ガァアアアアアアウ!!!!」
だが、魔物の鼓膜が割れそうなほどの咆哮によって霧散してしまう。
「ダメか……。」
「まだです!」
アリーチェはリアムの手をぎゅっと片手で握り、瞳を閉じる。
「アリーチェ?」
(1人でダメなら、2人で!)
「〈テリフィック·ラディエンス〉」
瞬く間に黄金の光が2人を包見込む。アリーチェが学んでいた、破滅の魔法を強化できる魔法だ。
「……殿下、もう一度さっきの魔法をお願いします。わたしと殿下の魔法を同調させれば、あの魔物にも効くはずです!」
聖なる魔法と破滅の魔法は、お互いの効力を高めることができる関係にある。これは一般的な知識として知っている者が多い。
だが、実用するにはお互いの魔法や性格をよく知り、完全に魔法を一体化させる必要がある。
到底ぶっつけ本番で仕上げられる技ではない。
リアムは信じられないとアリーチェの方を向いたが、彼女のくもりのない瞳を見てハッとする。
「……わかった。」
彼は、アリーチェの手を優しく包むように握り返した。
「〈テリフィック·インヴァリッド〉」
リアムの真っ直ぐ伸ばした腕の先から、黒い魔法が飛び出す。
(包むように優しく、それでいて繊細に。)
アリーチェたちを包む光が、徐々に黒い魔法へ絡み付いていく。だが、うまく混ざらない。
(だめ、このままじゃ魔力が尽きる……!)
「……できるよ」
「え?」
アリーチェはちょうど同じ高さにある、リアムの顔を見る。
「ひとりじゃないから」
そうリアムに、はにかみながら優しい声色で告げられたアリーチェは、心がほんわり温かくなるのを感じた。
(ひとりじゃない……)
無惨にも命を奪われた、あの日とは違う。
彼女には、味方がいる。
(魔力が抜けていく……でも、もうすぐ!)
黒みがかった黄金の魔法は、魔物やローラたちを包み込む。
「グ、オオ……」
咆哮が無効化され、ノーラが能力でローラと共に転移して逃げる。
「すごいです……!!」
「完璧な同調だったぞ」
「よかった……」
(あとは、あの魔物を倒すだ、け……)
目の前にに転移してきた2人に安心したアリーチェは、隣にあった温もりに身を預けてしまった。
次回に続きそうな感じですが、ひとまずここで2章完結となります!!
連載を続けられているのは、毎回見てくださっている皆様のおかげです。ありがとうございます!
これからも引き続きよろしくお願いします⊂( *・ω・ )⊃




