はじまりの木
アリーチェたちはカーソンとジェフの案内のもと、はじまりの木へ向かっていた。
はじまりの木は、住宅街から離れた手付かずの森の部分にある。
「それで……はじまりの木って……?」
アリーチェが走りながら尋ねる。
「うーん、言葉で説明するのは難しいけど、とりあえずこの森の大事な部分です! とっても大きくて、中に重要な書類や資料が保管されてるです!」
「なるほど……。その資料が盗まれてしまったら大変ね」
「俺たちが見た、木の中に1人で入った怪しい奴。……目的は何なんだろーな」
「まだ逃げてないといいけど。」
目に鋭い光を灯すリアムは、動きやすいように元の王子の服装に戻っている。
「妖精たちの大切な資料を奪うつもりなら、許さないわ……!」
「うわ……なんかやべーオーラしてる……。」
「やっぱりアリーチェはなにか特別な力を感じるんだぞ」
「せ、聖女だからよ!」
アリーチェは目をしどろもどろさせる。
小人や妖精には何かが感じられるらしい。
「あっ、見えてきたです!」
前方に巨大な木の幹が見えてきた。
「あれがはじまりの木だぞ」
「大きい……」
家一軒ほどの大きさがある榦からは、何本も枝が空へ向かって伸びている。そこについている葉は、普通の木数十本ぶんくらいある。
「っ! あれ! 誰かいるです!」
木の下に人影が見える。
ローラの声に、その人物が振り返った。
「……森を荒らさせて、こっちの警備、手薄くしたのに。」
(え……? あれって……)
抑揚のない声で、ローラたちの方を睨む。
彼は茶褐色のぼさぼさな髪に、澄んだ赤い瞳が覗いている。黒いマントを羽織っているせいで表情までは見えない。
「こ、こいつだ! さっき俺たちが見たやつ!」
その人物の手には、一冊の本が握られていた。
「その本……王宮の無くなってた資料! なぜ持っている」
その言葉に怪しげな人は、リアムを見つめる。
「琥珀色の瞳、華奢な体。……お前、王族?」
「……そうだけど、僕の質問に答えてくれない?」
リアムは不機嫌さを露わにしてため息をついた。
「……ここで減ぼす。」
そう言って彼が片腕を突き上げると、身につけていた白いブレスレットが橙色に光る。
その途端、辺りに怪しげな気配が漂い始めた。
「っあれ!」
ジェフが指さした方には、いつの間にか魔物がいた。
「こっちにもいるです!」
そうしているうちにどんどん魔物か現れ、気づくとアリーチェたちは、大小様々な魔物たちに囲まれてしまっていた。
「50はいるね……」
「なんで……ここには来れないはずだぞ……?」
ここは、魔物の住む森とは違う空間。妖精が呼んだもの以外入ることは出来ないはずだ。
「妖精しか呼べない。なら、妖精に呼ばせる。」
ブレスレットをつけた腕で指を鳴らした彼は、アリーチェたちに背を向け、逃げようとする。
「待って! バーナード!!」
アリーチェは咄嗟にその人物を引き止める。
「……」
彼は顔だけ振り向き、じっとアリーチェを見つめる。相変わらず表情は見えない。
(しまった……)
「すみません…………人違い、です。」
「……。」
彼はそのままスッと跡形もなく消えてしまった。
(だって……生きてるはずないもの……)
アリーチェは動揺を隠せずに、俯いてたたずんでしまう。
すると、後ろから切羽詰まった声が飛んでくる。
「アリーチェ、後ろ!」
「!」
リアムの声に振り向くと、鹿の魔物が彼女の眼前に迫っていた。
(間に合わない――)
アリーチェはぎゅっと目を瞑る。
だが、衝撃は来ない。
(あれ……?)
目を開けると、魔物たちは遠くにおり、アリーチェからさらに離れていく様子が見えた。
周りを見渡してもリアムや妖精たちは居ない。
(……私は今、戦いの外にいるんだわ。)
おそらく、ノーラがアリーチェだけを転移させたのだろう。
魔物が向かっている方からは炎が上がり、魔物の咆哮が聞こえる。
(チャンスね、背後を狙いましょう!)
「〈アイシクルズ〉!!」
アリーチェが手を差し出すと、いくつもの尖った氷が放たれ、魔物に突き刺さる。
「グァァアア!!!!」
(まだまだ)
アリーチェは一際大きな氷を生み出し、それで剣形作る。そして、顔を苦痛で歪めた魔物を容赦なく切りつけていく。
程なくして、アリーチェはリアムたちのいる所にたどり着いた。
「このっ! ちょこまかと!」
「お、オイラの服食べるなよ!」
小人たちは、小型のナイフでうさぎやリスの魔物と戦っている。
ノーラは突撃してくる魔物の眼前に、別の魔物を転移させたり、高い位置から落下させたりと、意外とえげつない攻撃をしていた。
「アリーチェ! 大丈夫?」
「リアム殿下。平気です!」
リアムは、ノーラや小人たちのうち漏らしを攻撃しながら、アリーチェを気にかける。
その途端、アリーチェたちの周りに大きな影が落ちる。
「っリアム、そいつ獅子の魔物です! 気をつけるです!」
木の上で全体を俯瞰していたローラが張り詰めた声を上げた。
「任せて! 〈ブレイズ〉!!」
リアムから放たれた炎が、熱風をまといながら獅子の魔物を襲う。
「っダメだわ!」
リアムの渾身の一撃は、獅子の魔物がグォオオオオと人吠えすると、いとも容易く跳ね返されてしまった。
アリーチェたちの周りを激しい炎を伴った熱風が吹き荒れる。
「〈プロテクト〉!!」
リアムが咄嗟に、前方への結界を張る。それは、炎をカバーしたが、抑えきれない爆風が彼らを襲う。
「前が見えない……!」
「落ちるです〜〜!」
「吹き飛ばされそう、だぞ」
「ガォオオオオゥ!!」
ローラが木から落ちそうになるが、獅子の魔物は構わずに突進してくる。
「っ!」
「ノーラ! 危ないぞ!」
ローラが落ちるタイミングを見計らった獅子の魔物に、ローラと、助けに行ったノーラが咥えられてしまった。
「ローラ、ノーラ!!」
「離すです〜〜!!」
「……ローラを助けるつもりが、食べられそうだぞ」
2人が抵抗するが、獅子の魔物はビクともしない。
さっきの炎で、それ以外の残っていた魔物は全てやられていた。
「あとはこいつだけなんだけど……」
「〈アイシクルズ〉!!」
「グウォオオオオ!!」
アリーチェも氷の魔法で魔物の足を狙うが、今度は完全に消されてしまった。
「あいつが吠えるだけで魔法が消されてしまう……。無効化の特異魔物か。」
たまに、突然変異のように特殊な能力を持つ魔物が現れることがある。それらは特異魔物と呼ばれ、そのほとんどが通常の魔物より手強い。
「ああいうタイプの魔物は知能が高いから、剣でも2人に当たらないように攻撃するのは難しいわ。」
前世のアリーチェなら出来ただろうが、筋力、日々の鍛錬など諸々の面で、今の彼女にはほぼ不可能だ。
「ガァオオオオオオ!!」
魔物が咆哮をあげながら、アリーチェたちへ突撃してくる。
(避けるしかない……!)
アリーチェは、思い切り地面を蹴りあげ、斜め上に飛び上がる。
魔物はアリーチェの横スレスレを通っていった。
だが、魔物は片方の前足を上げて何かをはじき飛ばす。
(っ! もしかして!)
地面に叩きつけられたそれは、人の形をしていた。
「リアム殿下――!!!!」
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