王子の秘密
「あたしたちの家はあそこです!」
ローラが指さす先にあるのは、うす桃色の壁に白い屋根とドア、赤いポストという2人らしい色づかいの小さな家だ。
「今鍵開けるぞ。」
カチャリと音がした後、ノーラが扉を開く。
「素敵……!」
内装も、かわいらしい白、赤、ピンクで統一されていて、真っ白なテーブルの上にはティーセットが置かれている。
「あ、紅茶淹れ直すです!」
「ちょっと待って」
「ふへっ」
リアムが、奥のキッチンへ駆けていこうとするローラの服の襟を摘んだ。
「なにするです!」
「ローラの淹れる茶はおいしくないから、僕が淹れる。」
「ひ、ひどいです!」
「確かにこの3人だとリアムが1番おいしく淹れられるし……ローラが我慢するべきだぞ。」
「うぅ……」
ノーラの話を聞いたローラは、半泣きになりながらもキッチンへ向かうリアムを見送った。
「殿下って紅茶淹れるの得意なんですね」
「そうだぞ。リアムの数少ない特技だぞ」
そう言いながら、ノーラに手で「座って」と促されたアリーチェは椅子に腰掛ける。
「ほら、ローラもいじけてないで座るんだぞ。」
「むぅ……」
ローラはむすっとしながらも、少し大きめの椅子にぴょんと飛んで座った。
ノーラも同じように椅子に飛び乗る。
「いつも殿下がお茶をお淹れになっているの?」
「そうです。初めてお茶会した時も、あたしの淹れた紅茶を『まずいー』って言って淹れ直してたです。」
「なんだか想像できちゃう……。2人は、どうやって殿下と知り合ったの?」
「10年前くらいに、ローラと2人で色んなところにワープして遊んでたら、いつの間にかお城の庭に侵入しちゃったんだぞ。それで、退屈そうなリアムがそこにいたから勝手に連れ出して一緒に遊んだんだぞ。」
なんだか、ひとりでお庭で遊ぶ彼が想像できてしまい、アリーチェに悲しさ……というか悔しさに似たような気持ちが込み上げてくる。
そんなアリーチェの様子を知ってか、ノーラが真面目な声で語る。
「……リアムは少し可哀想な子なんだぞ。」
「可哀想?」
王子として生まれて毎日贅沢な暮らしをしているはずなのに、それが嫌なのだろうかとアリーチェは不思議に思った。
「ちょっと前にリアム本人から聞いたんだけど、女王様がリアムを産んだ理由は、王族に破滅の魔法の使い手が欲しかったからなんだぞ。」
「え……」
家庭教師に聞くことがない生々しい話に、アリーチェは絶句する。
ローラもそれに頷いている。
「でも実際、破滅の魔法はコントロール出来ないと危険だから、その魔法が使えると調べられたリアムは隔離されてたんだぞ。」
(そんな……)
言葉が出ないアリーチェ。
ローラもいつになく真剣な顔をしている。
「リアムは、自分の魔法を最大限活かすための教育を、小さい頃からずっと受けているです。親からの愛など与えられずに。」
(そのせいで、いつもあんなに素っ気ないのかしら)
「まぁ一番可哀想なのは、そんなに頑張ってるのに全然才能がないことです!」
「……悪口言わないでよ」
いつの間にか居たリアムが、トレーに乗ったティーセットを音を立ててテーブルに置く。
「えっ、リアムの悪口なんて言ってないです」
「誰も僕のなんて言ってないけど?」
「は、はめられたです!」
青白い顔をするローラの頭を、リアムがポケットから出した扇子で軽く叩く。
「ローラはこう見えて、膝ほどの水位のプールでも溺れる。」
「なっ、ちょっと〜! 仕返しするなです!」
ぷんすかするローラを、リアムはイタズラが成功した子供のような顔で見る。
「……ふふふっ」
それを見ていたアリーチェは、思わず笑い声をあげてしまった。
「笑わないでです!」
「いいえっ! そういう訳じゃなくて」
アリーチェは両手をぶんぶん振って否定し、上がっていた口角を戻して目を細めながら言う。
「……ローラたちとのお茶会が、リアム殿下にとって心の癒しなんだろうなって思って。」
「はぁ!? 違うんだけど! なんでそうなるわけ!?」
リアムは予期せぬ言葉に真っ赤になって反論する。
「リアム、前に普段の自分を忘れられるから、かわいいドレスを着てお茶会するのが好きって言ってたぞ。」
「確かに、お城の人より、あたしたちの方がリアムとの心の距離は近いです!」
「ちょっ……」
リアムは隣にいるローラの口を塞ごうとするが、すばしっこい彼女は一向に捕まらない。
「……いいと思いますよ」
「え?」
アリーチェの言葉に、リアムは動きを止めて彼女の方を向く。
「わたしだって、お兄様に頼み込んで剣術の稽古をさせてもらっています。リアム殿下も好きなことをするのは全然悪いことじゃないと思いますよ。」
アリーチェは、人に迷惑をかけるのはダメですが、と苦笑いしながらつけ加える。
「そんなこと言われたの、初めて。」
リアムは目を大きくして、呟くように言った。
「父上にドレスを着ているところを見つかった時は、王族かそんな趣味持つな、って信じられないくらい怒鳴られた。」
そう言った彼はどこか諦めたような顔をしている。
「まぁ、私たちも数百年前からずっと、『双子なのに似てない』って言われてるし、その気持ち、なんとなくわかるんだぞ。」
「え? 数百年?」
「妖精は長生きです!」
「そ、そうなんデスか……」
「別に話し方変えなくていいぞ」
(前世のわたしがいた頃にも生きていたのかも……)
アリーチェは無性に正体がバレるのが心配になり、冷や汗をかく。
彼女は目のやり場に困って、ふとテーブルをみると、スコーンがあるのが見えた。
「あっ、スコーン! 私スコーン好きなのよね! 食べていいかしら?」
「もちろんです! お茶も、冷めないうちに飲むです!」
「ありがとう! 殿下も食べましょう!」
「あ、あぁ」
アリーチェが笑いかけると、リアムは歯切れ悪くそう言ってうなずいた。
アリーチェが紅茶を飲もうとカップに口をつけた時、バーンと玄関のドアが勢いよく開いた。
「ローラ、ノーラ!!」
「カーソン、ジェフ。どうした?」
先程会った時とは、打って変わって怯えたような顔をした小人の2人に、ノーラが尋ねた。
「は、はじまりの木に」
「誰かが不法侵入したんだ!」
「「「?!」」」
それを聞いたアリーチェ以外の3人の表情が変わる。
(え、なんかよくない感じ……?)
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