妖精の森
アリーチェたちは、木々に囲まれた小さな町を歩いていた。
「すごい! こんな場所があったのね……」
森を守ってくれたお礼としてアリーチェとリアムは、ローラとノーラから町に招待されたのだ。
ここは、トロイムの森にある1本の木からしか行くことが出来ない、トロイムの森とは違う秘密の異空間だ。
妖精がある呪文を木の前で唱えることで、ここへ移動することが出来る。
「綺麗な町並みね……!」
道の両脇には、妖精のサイズに合わせてある少し小さめな木製の家が並んでいる。
前方には、広場のように開けた場所が見え、小さな噴水から上がるしぶきがきらきらと輝いている。
「うん。ここはとってもいい場所だぞ」
「本当に、ここへ来ると悩みもなくなっていくんだよね。」
そういうリアムは、パープルのグラデーションが美しい、可憐なドレスをまとっている。
なんでも、王子ということがバレたくないらしく、ここへ来る時は変装しているんだそう。
(結構似合うのよね……)
彼は前より体つきはしっかりしているが、比較的ほっそりとした筋肉がつきにくいタイプのため、そのドレスも着こなしている。
しばらく雑談しながら歩いていくと、広場に人影が見えてきた。
「あれ? あの人たち、なんか様子が変ね……?」
そこにいる2人の小人は、何やら怒鳴りあっているようだ。
「危ないんだぞ!」
片手を振りかぶり、今にも殴り合いそうだった彼らを、ノーラが妖精の力で一旦遠ざける。
近距離の転移なら、手を繋ぐ必要はない。
「っ! ノーラ!?」
「……2人とも、喧嘩してた?」
ノーラがお互いの目を見て言う。
「っ、だってジェフがおいらの足踏んだから……」
くせ毛の小人が言った。
「カーソンだってわざとじゃないって言ってるのに、ずっと怒ってるじゃねーか」
短髪のジェフと呼ばれた小人も言い返し、2人は火花を散らすように睨み合う。
「そこまでです!」
ローラの響き渡る声に、2人が振り向く。
「2人とも心の距離がどんどん遠ざかっているです! 全く、そんな小さなことで。」
ノーラが空間を転移出来るように、ローラには心同士の距離を見図る力がある。
ローラがやれやれと肩をすくめる。
「2人が近づこうとしないと、喧嘩は終わらないです!」
「……どういうこと?」
「ローラはいつも言ってることがよくわかんねーよ」
「なんでです!? ローラには心の距離がわかるです!」
ローラは頬をぷくーっと膨らませて反論する。
「……私が代わりに言うんだぞ。2人は自分の事しか考えていなくて、相手の気持ちがわかってないんだぞ。」
ノーラは、自分よりちょっと背の低い彼らに合わせてしゃがみ、人差し指を立てて言った。
「相手の……」
「気持ち……」
2人は、そう呟きながらお互いを見つめる。
「そうです。自分が弱いせいで、守るべき人を守れず、八つ当たりしてる誰かさんと一緒です!」
「え?」
アリーチェは誰のことだろうと首をかしげたが、リアムがふいと顔を背けたことに気がつかなかった。
ローラやノーラの言葉を聞き、もじもじしていたカーソンが重たそうに口を開く。
「……ジェフ、わざとじゃなかったのに怒ってごめん。」
それを聞いたカーソンは目を丸くした後、視線を逸らしながらボソボソと言う。
「……俺こそ、ちゃんと足元見てなくて、その……悪かった。」
「2人とも……!」
ジェフの語尾の方は聞こえないくらい小さかったが、彼にしては頑張った方なのだろう。
(ローラもノーラも、あっという間に仲直りさせちゃうなんてすごいわ!)
「それでいいです!」
「もう喧嘩しないで欲しいぞ。」
「多分もうしない!」
「じゃ〜な〜。……一応感謝しとく。」
そう言って、小人たちは去っていった。
「……ねぇノーラ、さっきローラが言ってた人って誰?」
アリーチェは、ノーラにこっそりと聞く。
「……アリーチェも、相手の立場になって考えるのが大事ってことだぞ。」
「え、う、うん……?」
(……わたし、みんなと仲良くなろうって頑張ってるけど、それって、正しくないのかな?)
アリーチェはちらりとリアムの方を見るが、「何?」と眉をひそめられてしまった。
「あの、リアム殿下……」
アリーチェが意を決して続きを言おうとした時。
ぐぅううと気の抜けるような音が、アリーチェの方から聞こえた。
「……お腹すいちゃいました。」
「……ローラたちの家でお茶でもしよう」
「いいんですか!?」
「いいです!」
「リアムはお茶大好きだし」
「人の趣味ばらさないでよ」
リアムはジトリとノーラを睨みつけ、1人で歩き出した。
「先行かないでです!」
「家の鍵開いてないんだぞ」
2人も彼に追いつくように走っていく。
1人残されたアリーチェは、お茶会に胸を弾ませながらも、どこかでモヤモヤを感じていた。
「アリーチェ! 早く来るです!」
「うん! 今行くわ!」
(……とりあえずリアム殿下の件は、もう少し頑張ってみようかな)
アリーチェは、前を行く3人に追いつくように走り出した。
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