突然の婚約
(うぅ……どうしたらいいの!?)
アリーチェは突然の展開にパニック状態だ。
ちらりとリアムの方をみると、彼は苦い顔をしていた。
「国王陛下、お言葉ですが、それはいささか急なのでは……」
ノアが説得するように落ち着いて話すが、アリーチェにはそれが平静を取り繕って言っているとわかる。
(一番嫌がってるのはノア様かも)
ノアの愛は重いのだ。アリーチェも、それはよくわかっている。
だが、国王は動じることなく告げる。
「ふむ……リアムの持つ破滅の魔法は、アリーチェの聖なる魔法と相性がとても良い。この組み合わせはみなが思うより国の発展に繋がるのだ。わしとしては、早く結婚を確実にしてもらいたいところである。」
国王は自分に都合がいいように事を進めたいらしく、ノアの意見に賛成する様子は全くない。
国王の意見に観衆も頷いている。
(ここでは国王が絶対なのね……)
アリーチェがどう乗り切ろうかと考えをめぐらせていると、リアムが彼女の方へ歩いてきた。
白いジャケットについた、光を反射して眩しく光る金色の装飾。歩く度にさらさら揺れる群青の髪。
口づけを羨む人も多いであろうその整った容姿とは裏腹に、彼の表情はなんというか、死んでいる。
(そんなに嫌……? 流石に傷つくわ)
リアムがアリーチェと手を伸ばせば簡単に触れられそうな距離まで来る。
そして、アリーチェの背中へ手を伸ばし、その体をグッと自分の方へ近づけた。
「!?」
必然的に、アリーチェにリアムの整った顏がそれこそ唇が触れそうな距離まで近づく。
アリーチェの視界は、宝石のようなはちみつ色の瞳と、その上にある長いまつ毛のカーテンでいっぱいになる。アリーチェはそれを見ていると、なぜだか顔が熱くなるのを感じた。
だがそれは一瞬で、リアムはアリーチェをぱっと解放した。
いまいち状況が掴めないアリーチェをよそに、部屋は歓声と拍手で溢れかえる。
(もしかして)
アリーチェは、リアムがこの状況を乗り切るため、キスをするような素振りをしたのだろうと遅れて理解する。実際に触れることなく、それっぽく見せたいという思惑ゆえの行動だろう。
(ど、どきっとしちゃった……)
アリーチェは、ちょっとだけ期待していたどこかの自分を追い出した。
だが、熱を持った頬はそのままだ。
彼女がチラッとノアの方をみると、この世の終わりの様な顔をして、どこかをぼーっと見つめる彼の姿があった。
(……あとで説明しないとね)
「……父上、彼女と2人で話したいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
いつも通りの顔をしたリアムが言う。
「構わん。……部屋を用意せよ。」
「はっ。」
国王に命令された側近は、手早く何かを確認している。
「国王陛下、私もついて行ってよいでしょうか」
ノアは諦めきれないらしく、打診する。
(わたしと一緒にいたい強い意思を感じるわ……)
「すまないな、ノア。君と魔法について語りたいという魔法研究者や科学者などが大勢いるのだ。君はこれからそちらに合流してもらう。」
「うぅ……」
些細な願望が叶わなかったノアをそのままに、アリーチェとリアムは王宮の人の案内で、別の部屋へ向かった。
◇◇◇
「……久しぶりだね」
「そうですね」
アリーチェとリアムは、王宮の一室で2人きりだ。
使用人は紅茶を淹れたあと、出て行ってしまった。
(距離感がわからないわ……)
アリーチェは居心地の悪さを誤魔化すようにお茶を一口飲む。
「ねぇ、君は何者なの?」
「っ!?」
アリーチェは紅茶を思いっきり吐き出す寸前で飲み込む。
「やけに謁見に慣れた感じがしたし、初めて会った日も、帝国に仕えているエリート騎士相手に対等か、それ以上に戦っていた。」
「……公爵家の皆さまの教育のおかげですね。」
「いずれ手放す令嬢に、そんな手の込んだ教育するかな……」
「とても大切にして頂いているんですよ?」
「……」
(え?! わたし、何がまずいこと言った?!)
なぜだか顔を伏せて黙ってしまったリアムに、アリーチェは慌てる。
「……話したいこと、あるって言ったよね?」
「あ、はい」
「僕は、破滅の魔法、君は聖なる魔法が使える。そのため、僕らは婚約しているんだよね」
「そうですね」
魔法には、魔法使いなら誰でも使える通常魔法と、特定の人しか使えない特殊魔法がある。
リアムとアリーチェは、特殊魔法も使える人にあたる。
ちなみに、アリーチェは見た事がないが、ノアも特殊魔法が使えるらしい。
「僕らの聖なる魔法と破滅の魔法は、組み合わせることでお互いの魔法を増強できるらしいんだ。」
「相性がいいんですよね」
「そういうこと。」
これはアリーチェも勉強しており、知っている内容だ。
「で、今日はそれを使いこなすためにお互いのことをよく知るように、と父上に言われている。」
「なるほどです」
アリーチェにとって、仲良くなるきっかけを作ってくれたことはありがたかった。
「では、何からお話ししましょうか?」
「そうだね……」
「リアムーーー!!!」
「え?!」
リアムが考えを巡らせていると、急に部屋の一部がくにゃりと歪んで、そこからトンネルをくぐるように2人の少女が現れた。
「あたしたちの森が襲われてるです!」
「リアムに助けてほしいんだぞ……」
(今度はなに……?!)
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